
【プロフィール】畠山陸さん合同会社惚惚代表。ノマドワーカーとして国内外でデザイナー・エンジニアとして活動した後、土着生活に憧れて2023年7月に奥能登へ移住。2024年1月の能登半島地震で被災するなか、支援団体「惚惚倶楽部」を立ち上げ、復興支援に取り組む。同時に能登に喫茶店や宿を開業し、現在は能登・金沢・東京の“2.5拠点生活”を準備中。
人の営みを感じる古道具・古家具
——サステナブルなモノとして、古道具・古家具の魅力をお伝えしたいとのことですが、興味を持ったきっかけを教えてください。昔から工芸品などの古いモノに関心はありましたが、しばらくノマドワーカーをしていたので、モノを所有することができませんでした。でも、土着的な暮らしに憧れて能登に移住したことをきっかけに、古いモノと暮らしを共にするスイッチが入ったんです。
教会から引き継いだ白磁器と、レスキューした食器棚その後、能登半島地震で家を失い、周囲でも家で使われていたモノが次々と処分されていく光景を目の当たりにしました。もちろん、被害状況によってはどうしても手放さざるを得ないモノもありますが、使い方次第では次世代につないでいけるモノもある。それが失われていくのは本当にもったいないと感じ、古いモノを大切にしたいという思いが一層強くなりました。
支援活動の一環で家の片付けをさせていただく際に、「これ、頂いてもいいですか?」と伺い、自分のお店で使ったり、プライベートでも活用させていただいたりしています。食器棚や薬箱など、家の中の半分くらいは古いモノで占められていますね。

風合いや使い込まれた形などから、人の営みが感じられるところです。例えば、絨毯が日焼けしていれば「ここを人が通っていたんだな」と想像できます。モノから歴史や物語を読み取れるんです。
また、そうしたモノには新たな価値を付与することもできると思っています。僕は今、金継ぎを習得中なのですが、地震で割れてしまった茶碗も自分の手で直すことができれば、以前よりも愛着が湧きますし、そこに新しい意味や価値が生まれると感じています。
自分のお店では、旅館から頂いた茶碗蒸しの器を湯呑みとして使っています。それに気づいたお客様から「これ、茶碗蒸しの器じゃないですか?」と声をかけられることもあり、そこから会話が広がっていくのはとても素敵ですよね。

私なりのサステナビリティ
——能登への移住を決めた理由をお聞かせください。僕は札幌出身で、それまで自然災害を身近に感じたことはなかったのですが、奥能登地震で知り合いが被災した様子を目にして、「災害を機に、それまでの古き良き暮らしが奪われてしまう」と強く感じました。そこから、どこで暮らすにしても本質的な“生きる力”を身につけたいと思い、移住を決意しました。まさかその後、自分自身もさらに大きな地震や水害にも見舞われるとは思ってもいませんでしたが……。

——被災経験から得た、サステナブルな生活に必要な知恵があれば教えてください。
“ブリコラージュ”という言葉がありますが、その場にあるモノや環境を活かして、モノを生み出す力が大切だと感じます。もちろん、それだけでは足りない部分もありますが、そうした工夫には“生きる力”が宿るように思うんです。
地震のときも、飲み水が手に入らなくても、火を起こすことができれば雪を溶かして水を得ることができました。知恵や人の助けが必要な場面も多いですが、今あるものを活かして柔軟に適応する力が、サステナブルな暮らしには欠かせないと思います。
——畠山さんの取り組みは、SDGsの「住み続けられるまちづくりを」に通じるものがあります。能登に対してどのように貢献できると考えていますか?
僕は「遊び心」を感じることが好きなので、地域の方にとっても外から関わってくださる方にとっても、楽しめる企画を届けていきたいです。今は壁画アートの企画を準備中です。

復興に向けて、これから能登には新しいモノがどんどん入ってくると思います。

まずは、愛着のあるモノを増やすことです。仲の良い友人や故郷、今住んでいる町など、人や場所とのつながりもそうですし、マグカップひとつでも、それに愛着があれば大切に使い続けますよね。そうした日々の「大切にする」という気持ちの積み重ねが、結果的にサステナビリティにつながっていくのではないでしょうか。