ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月29日放送)に慶応義塾大学教授で国際政治学者の中山俊宏が出演。新型コロナウイルスが感染拡大するなかで行われる米大統領選挙について解説した。
ホワイトハウスで記者会見するトランプ米大統領(アメリカ・ワシントン)=2020年7月28日 写真提供:時事通信
アメリカ大統領選に向けた候補者討論会~新型コロナウイルスの影響で会場変更
11月のアメリカ大統領選に向けた候補者討論会の実行委員会は7月27日、インディアナ州で9月29日に開催予定だった第1回討論会について、会場をオハイオ州に変更すると発表した。会場になる予定だったノートルダム大学が、新型コロナウイルスの懸念から開催を辞退したということである。
飯田)3回予定されている討論会、初回の会場がコロナの影響で変更になりました。2回目の討論会の会場も、ミシガン州からフロリダ州に変更になっています。このコロナの影響は、大統領選そのものの趨勢にもかかって来ますか?

米西部ネバダ州ラスベガスでの支持者集会で演説するトランプ大統領。「米国は偉大なる再起の途上にある」と述べて11月の大統領選での再選に向け結束を求めた=2020年2月21日 写真提供:産経新聞社
今回の大統領選は「コロナ選挙」~前例がない
中山)今回の選挙は「コロナ選挙」と言ってもオーバーではないと思います。他にもブラック・ライヴズ・マター、黒人暴行死事件による人種問題がありつつも、それもコロナをめぐる状況と絡んだところがあります。前例がないので、どうなるかは読みにくい選挙だと言えます。
飯田)これだけの感染症は、よくスペイン風邪と並んで言われたりしますが、あのときはウィルソン大統領の時代でした。そことはまったく違いますか?

米疾病対策センター(CDC)を視察するトランプ大統領=2020年3月6日、米ジョージア州アトランタ(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社
新型コロナの影響で大好きな演説ができないトランプ大統領
中山)選挙の仕方が違いますし、いまは大統領が中心となり、長い時間をかけてキャンペーンをやって競い合います。そのキャンペーンができない状況です。トランプ大統領は大集会で演説するのが大好きですが、それができないので、危機感を持っているのではないでしょうか。それから、コロナ対策をめぐっても高い評価を得ているわけではないので、本人は大丈夫だと言っていますが、そういう評価をめぐる選挙になると思います。
飯田)対立候補となるバイデンさんについて、日本ではどういう人か報じられていません。
中山)これまでの候補に比べると、副大統領として、顔や名前を聞いたことがあるという点では知名度が高いかも知れません。

2月11日、米サウスカロライナ州の集会で演説するバイデン前副大統領(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社
嫌われないバイデン候補はサバイブする可能性も~気になるその認知能力
飯田)認知機能的なところは大丈夫なのか、という話が出ていますよね。
中山)そうですね。いろいろ選挙直前のサプライズがあると思いますが、大統領候補者の討論会は3回あります。そのなかで、記憶や認知の面で、「この人はどうなんだろう」と有権者に思わせてしまうと、大きな問題になりかねません。政治家としてのバイデン候補の特徴は、彼のことを攻撃的に嫌いな人はいないということです。

スーザン・ライス-Wikipediaより
副大統領候補が話題になる理由~スーザン・ライスという存在
飯田)誰を副大統領に選ぶかもポイントになりますね。
中山)本来であれば副大統領は重要ではありません。候補が4~5月くらいに決まって、本選挙は9月に始まるので、空白期間があります。
飯田)いろいろなことが言われていますが、黒人の女性で、かつて民主党の政権に入っていたというと、スーザン・ライスという名前が出たりしますが、そうすると中国に近くなってしまうのではないかと言われます。
中山)そうですね。スーザン・ライスさんは、オバマ政権の安全保障担当の大統領補佐官であり、オバマ政権の中国に甘い外交を象徴する人物として、日本では受け止められています。スーザン・ライスさんが副大統領になったら大変だという見方がありますが、彼女は民主党のなかで大物感があり、仮に副大統領ではなくても、国務長官などになる可能性はあります。そういう意味で言うと、彼女とつきあって行かなければならないことを、ある程度考えなくてはいけません。

3日、米アイオワ州デモインの劇場で始まった民主党の党員集会(共同)
アメリカにおける対中意識は党派的なものではない
中山)それからもう1つ、アメリカにおける中国に対する認識は、党派的なものではありません。民主党だから甘いとか、共和党だからきついということでは必ずしもありません。中国は脅威であるから、タフに臨んで行かなければいけないということについては、ここ数年で大きな変化があったと思います。

「中国ウイルス」を正当化 2020年3月17日、米ワシントンのホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領(中央)(UPI=共同) 写真提供:共同通信社
中国に対して厳しいということはトランプ大統領が出せる数少ないカード
飯田)大統領選があるから、政府高官による4演説も含めて、対中強硬に舵を切ったという見方がありますが、必ずしもそれだけではないということですか?
中山)すべてを選挙で解釈するのはよくないと思いますが、中国に対して厳しいということは、トランプさんが出せる数少ないカードです。
飯田)その部分は否めない。
中山)否めません。どれほどが政策でどれほどが選挙なのか、その辺はわかりませんが、混在していることは間違いありません。
飯田)そうすると、周りの国々は完全に身を預けるのではなく、やや引いた形で対応するということですね。
中山)中国に対して、どれほどアメリカが本気で行くかは、様子見という雰囲気だと思います。
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