「悪口を言われたら、言い返していいの?」
「みんな守っていないルールは守るべき?」

子どもからそんな問いを投げかけられたとき、あなたはどう答えますか。社会のルールがあいまいになり、善悪の“正解”が見えにくい現代、多くの親がこのテーマに悩んでいます。


では、子どもが自分で考え、判断できるようになるには、何をどう教えればいいのでしょうか。

ジャーナリスト・池上彰氏の著書『法で裁けない正義の行方』(主婦の友社)から一部抜粋・編集し、「子どもの自由を尊重する」という名目で親が陥りがちな罠(わな)と、確かな“倫理観”を育てるためのヒントを紹介します。

■「みんな守ってないよ」にどう答える? 親を悩ませる“善悪の基準”
いじめや少年犯罪を減らすには、子ども自身が善悪の判断ができるように大人が導く必要があります。

とはいえ、子どもに善悪の判断をどう教えるべきかが難しい、と悩む保護者は非常に多いものです。

例えば小学生の子どもが同級生から悪口を言われて、同じように言い返したというとき、どう教えるべきでしょう。

言われっぱなしでも相手をつけ上がらせますが、言い返せば悪口の応酬になりかねません。どうやって相手にやめさせればいいのでしょうか、あるいは、こちらがどの程度我慢したり許したりすべきでしょうか。

また、友だち同士で家庭のしつけの基準が違うとき、どう説明すればいいのでしょうか。

「その靴下の色は、中学校の校則違反でしょ」と親が注意しても、中学生の子どもが「でもみんなそんなの守ってないよ」と言ってきたとします。子どもの言う「みんな」は、たいてい身近な2、3人ですが……。

「それでも、校則は守りなさい」と言ったところで、「◯◯ちゃんのお母さんは、『そんな校則自体おかしいんだから、靴下は自由でしょ』と言ってたよ。それに、『みんなちがって、みんないい』って詩とかあるじゃん」などと反論されたら、あなたはどう答えるでしょうか。


こうした事柄に対する答えは、ひとつではありませんから、悩むのは当然です。

最終的には、子ども自身が自分の中に善悪の判断基準を持ち、何かあったときにはその都度、悩みながらも自分の頭で「正しいかどうか」を考えられるようになることが理想でしょう。

そうなるまでに、その成長過程を、保護者はどう教え、見守ればいいのでしょうか。

■「子どもの自由を尊重する」という名の“放置”になっていないか
子どもに倫理観を教えるのは、学校ではなく、保護者の役目だということを忘れてはいけません。

「子どもの自由を尊重する」と言って、しつけをせず、倫理観を教えない親もいます。

しつけを頑張っている親も、「それはだめでしょ」などと日々言っていると、ふと「このしつけは“抑えつけ”ではないか」「今のグローバル社会で、“日本の常識やルール”で子どもをがんじがらめにしてもいいのか」といった迷いも出てくることでしょう。

しかし、その子どもが大人になるまでに学ぶべき倫理観を教えないことは、子どもを放置しているのと同じではないでしょうか。

■池上彰の正義感を形作った、名著『君たちはどう生きるか』
子ども向けの絵本や本には、いじめや善悪について考えさせるようなものが多数あります。そういう絵本や本を見つけて子どもに与えるのは、倫理観を教えるために効果的です。

私の場合、小学校6年生のときに吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』という本を親が買って渡されました。その中に、いじめの話が出てきます。

上級生から下級生がいじめられることがあり、主人公は友人たちと、「もし上級生からいじめられたら、みんなお互いに守ろうね」という約束をしました。


しかしいざ仲間がいじめられたとき、主人公は出遅れてしまったために出るに出られなくなり、結局怖くて助けに行くことができなかったのです。

その後、みんなとの約束が守れず、いじめに対応できなかったことについて主人公は思い悩みます。

私も自分にひきつけて、「自分がこの立場になったらどうだろうか、自分もみんなを助けるために出て行けないかもしれない。みんなが殴られているところに出て行って、一緒に殴られるなんてできるんだろうか」と考え、すごく悩みました。

また、学校の生徒同士で経済的な格差があって、貧しい家の子が金持ちの家の子からからかわれる現場を主人公が目撃するというシーンもあり、これについても考えさせられました。

今から思えば、『君たちはどう生きるか』という本を通じて、「正義ってなんだろう」「正しい生き方ってなんだろう」と考え、自分の中に正義感というものを形作ったと思います。

今の子どもたちにも、ぜひ読んでもらいたいと思います。本だけでなく、マンガ版も刊行されています。

『君たちはどう生きるか』がまだ難しい年齢の子には、いじめや善悪について考えさせる絵本もありますから、保護者が見つけて子どもに与えることはいいと思います。

親から「いじめはだめだよ」などと言われるよりも、自分でそういう本を読んで、登場人物の気持ちや行動を通じて「正義ってこういうものなんだ」「いじめはいけないんだ」といったことに自分で気付かせるほうが、心に残るはずです。

■親の“お説教”より効く? 「本を読まない子」を本好きにする特効薬
とはいえ、親が与えた本は子どもの興味を引かなかったり反発されたりして、読んでくれないということもあるでしょう。

そういうときはぜひ、子どもと一緒に書店に行きましょう。
多少誘導して、「こんな本もあるよ」と声かけをしてもいいでしょう。

子ども向けの文庫だったり、イラストの多いノベルズだったりを選ぶかもしれませんが、本に慣れるまではそれでもいいのです。商業出版されている時点で、子どもを悪の道に走らせるような酷い内容のものは、書店には売っていないものですから。

読書を通じて、お説教がましくなく、友人との関係を良好に保つためにはどうすればいいのか、やってはいけないこととは何か、社会のルールとは、といったことが自然と身につきます。

本を読まない子には、小さい子なら親が読み聞かせをする、大きい子には、興味のあるアニメやマンガ、テレビドラマや映画などの、ノベルズ版や原作などを選び、まずは本を読むことに慣れさせるのも有効です。この書籍の執筆者:池上 彰 プロフィール
1950年、長野県松本市生まれ。1973年NHK入局。報道記者として多くの事件、災害を担当。「週刊こどもニュース」出演を経て、2005年からフリーに。ニュースをわかりやすく解説するスタイルで世代を超えて支持を得ている。
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