「世界最強」と称される日本のパスポートの信頼性は維持されているのに、なぜ海外旅行をする日本人は減ってしまったのか。
内藤英賢さんの著書、『観光ビジネス 旅行好きから業界関係者まで楽しく読める観光の教養』では観光ビジネスについて詳しく解説しています。本書から一部を抜粋し、背景を探ってきましょう。
■円安で海外旅行に行けない日本人
アウトバウンドと呼ばれる日本から海外に行く人については国内旅行より深刻です。データで見ていきましょう。観光庁の出している「日本人の出国者数」ですが、
・2025年:1473万人
・2024年:1300万人
・2019年:2000万人
2024→2025年と回復は見せているものの、コロナ前の2019年には全く及んでいないことが分かります(およそ70%程度の回復)。
国内旅行マーケットは、コロナ前対比ではほぼ100%回復したにもかかわらず、なぜ海外旅行マーケットは回復しないのでしょうか?
大きな要因としては、円安&海外の物価高が挙げられます。2019年の為替(対ドル)は110円前後だったのに対し、2025年の為替(対ドル)は150円前後と、35%も円安に振れていることが分かります。
また、コロナ禍で諸外国が行った財政出動はインフレを引き起こし、物価が急上昇しています。アメリカでは顕著で、アメリカへ行ってこられた方々のコメントは「本当に物価が日本の3倍はする。ランチは3000円が当たり前」などという話をよく聞きました。
実際、ビッグマックの価格(世界中で同一品質で販売されているビッグマックが世界中でいくらで売られているかで物価を比べるのに便利とされている指標)では、日本480円に対して、アメリカ856円と1.8倍することが分かります。
ちなみに2019年は、日本390円に対して、アメリカは512円だったので、そこまでの差ではなかったことが分かります。ここに賃金差も加わるので、体感値としては、海外へ行くと「相当に同じ円で買えるモノが少なくなった」と感じるのはそのとおりなのでしょう。
実際にJTBが2025年1月に実施したアンケートでも、海外に「一度も行かない」と答えた人は78.9%で、その理由として「旅行費用が高いから(33.6%)」「家計に余裕がないから(26.4%)」「円安だから(24.4%)」など経済的理由が上位を占めていることが分かります。
■日本の観光客がいない海外市場
「日本のパスポートは世界最強」と言われていることを耳にしたことはあるでしょうが、実際にビザなしで渡航できる国は約190カ国となっており、これほどまでに気軽に世界の別の国に行けることも珍しいのです。
しかしながら、日本のパスポート取得率は17%以下(※編集部注:2025年は18%に微増)という少なさです。コロナ前は24%であり、それでも高い方ではないが、さらに減少してしまった次第です。
また、諸外国のパスポート取得率に比べれば(英国が80%程度、台湾が60%程度、アメリカが50%程度、韓国が40%程度)圧倒的に低いことも分かります。
海外に行っても本当に日本人を見かけるケースが少なくなり、昨今ではついに日本からタイに行く旅行者よりも、タイから日本に来る旅行者の方が多くなってしまいました。
実際にタイのバンコクを訪れた際に、世界中の観光客がいたにもかかわらず、本当に日本人を見かけませんでした。
そうなると、当然ながらどうなるか。見事に日本語および日本語サービスは見かけませんでした。圧倒的に英語と中国語のサービス。
通訳ガイドを頼んだ方も60歳を超えられていたのですが、「昔(私たち世代の)ガイドは皆、日本語を学んだものだけど、今は少なくなったわね。やっぱり稼げる言語を学ぶもの」と言っていたことが印象的でした。
現在の日本の国内の経済情勢や国際情勢を見ると、恐らくこの傾向は続くと思われます。
■観光ビジネス的にはビッグチャンスの到来
ここまでが通常の観光をマクロ目線でとらえた分析なのですが、これを観光ビジネスという目線でとらえるとどうなるか? 観光ビジネスをやる人間にとって、これはビッグチャンスと言えるのです。
多くの人が海外に出ない。つまり、海外に出て、様々な体験をし、人脈を作れば、日本で観光ビジネスとして大勝ちできる可能性があるのです。
実際、海外へ出かければ、日本のトリップアドバイザーなどに登録されているアクティビティの数の少なさに驚くはずですし、逆に「世界の人がこれだけ来ているのに、アクティビティの提供が少ないならば、凄くニーズがあるのでないか?」と言うことに気付けたりします。
実際に地方都市でアクティビティを提供しているのは海外から移住してきた外国の方だったりします。
そうです。マクロ的には減退傾向にあるアウトバウンドですが、逆に言えば、大勢の人がやらないだけに競合が少なく、ミクロレベルでは事業チャンスが眠っているということです。
したがいまして、「観光ビジネスを目指す者よ。海外に出でよ!」というのが本節の結びです。
内藤 英賢(ないとう・ひでさと)プロフィール
合同会社Local Story代表。早稲田大学政治経済学部卒業後、三菱UFJ銀行に入行。退職して、吉本興業の養成所(NSC)を経て約3年半芸人として活動。その後、観光業界へ転身し、株式会社アビリブに入社。株式会社プライムコンセプトの創業にも参画し、取締役副社長COOなどを歴任。宿泊施設や観光地のマーケティング・ブランディングを中心に300以上のプロジェクトを手がける。現在は地域活性化やDMO支援、講演活動など幅広く活躍している。
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