――久々にテレビシリーズフォーマットの作品を手がけられたわけですが、まずはその感想からお聞かせいただけますか。
押井 一言で言えば面白かったです。そもそも今回は「シリーズを楽しむ」をテーマにしていたからね。
――そうなんですか!
押井 『うる星(やつら)』をやった時は「もう(シリーズものは)こりごりだ」と思ったわけ。
――そこまで言い切るとは。180度考えが変わったんですね。
押井 2~3年かけて時間も予算もたっぷりかけて工芸品のような作品を作るのも良いんだけど、決定的だったのは『CSI:科学捜査官』や『FRINGE/フリンジ』、『ゲーム・オブ・スローンズ』みたいな海外ドラマを観ていて「映画の仕事とドラマの仕事、やるならどっちが楽しいかな?」と考えたことだね。
ましてや歳が歳だしさ、今年70だよ? 奥さんには「もうやめたら? あんたはどうせ時代に合わないんだし」なんて言われてるけど(苦笑)、どう考えても仕事をしているほうが楽しいし、何もなければあと10年は現場にいられるとは思う。
でも、3年経っても形がわからない宮(崎駿)さんみたいな仕事はしたくないんだよ(一同笑)。あの人はアニメーターだから絵を描いていれば仕事をしている手応えがあるんだろうけれど、監督という仕事は一刻も早く答えが欲しいんだ。じゃないと次に行けないし。
――なるほど。
押井 だから『スカイ・クロラ(The Sky Crawlers)』が終わった頃かな、「俺はこれから ”数” をやるぞ、来る仕事を片っ端からやるぞ!」とあちこちに触れ回ったわけ。なのに、全然(依頼が)来ない(笑)。
――嘘でしょう?
押井 いや、本当に来ない、まったく来ない。
――2度言いましたね(笑)。
押井 で、仕方なく本を書いたり、お手伝いをしたりして……まあ『ガルム・ウォーズ』っていう大物があったけど、これをまた3年くらいやって、またしみじみ思った、「こんだけ辛くてしんどい思いをしながら、歳をとっていっていいのかな?」って。だけど、その時並行して進めていた実写版『パトレイバー』(『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』)ですべてが変わった。とにかくシリーズを作り上げた方が監督としての達成感があるな、と思った。
(C)2020 押井守/いちごアニメーション
――それはどういう部分が?
押井 いろんな制約や諦めなきゃいけない部分があるけれど、「数を作る」という楽しさはシリーズでしか味わえない。
そこに、偶然にもiPadのアプリ用に僕が作った原作(『ちまみれマイ・らぶ』)があった。
――確かにそうですね。
押井 しかもドタバタものでしょう、これをやらない手はないなと思った。
――それ、上手くいけばの話ですよね?
押井 そう、上手くいかなかったらさらなる問題が(笑)。しかも今回はその2社との初めての座組だから、ここでしかできないものをやろう、と思った。何度も「本当に好きにやっていいんだね?」って確認したら「ご自由に」と言ってもらえたし。
――あー、だからこんな内容になっちゃったんですね(一同笑)。
押井 身内のスタッフからはいくつかダメ出しがあったけどね。例えば「キレイな男の子が出ていない! こんなの、当たるわけがないじゃないですか」って。
――言われてみれば確かに!
押井 でも、出す気はまったくなかったので(キッパリと)。僕にしては珍しく女の子はいっぱい出しているけど、男はケダモノみたいな空手部の男子生徒が4人と、オッサンだけ。これは最初から決めてたから。
――何なんですか、その固い意志は。
押井 だって(美少年に)興味がないんだもの。こっちはいたってノーマルな男性で、実写の時だって可能な限り女性の頭数を増やそうと企むんだから。
――可能な限り(笑)。
(C)2020 押井守/いちごアニメーション
押井 そういう意味では、イケメン風キャラを意識して作ったのは『スカイ・クロラ』が最後だよ。あの時は「これが最後の作品」と思っていたし、キャストも良かったからね。まあそういう公私に渡る理由で決めていったところはある。やりたいことをやるには、自分のフェティッシュを満たす必要があったから。美少女にだって特別興味があるわけではないけれど、それがないと企画が成立しない。
アニメーションという表現で描ける人間は結局美少女と美少年、おじさん、おばさんしかいないんだから。その中で誰を選ぶ? と聞かれたら、まあ美少女しかないんじゃないの、というね。今回の枠組みはそういう理由でしかない。自分の好みとしては血比呂先生が一番好きなんだけれどさ。
――ですよね(笑)。
押井 ネットにキービジュアルが出た時、「派手なおばさんが一番前に出てきているのが、さすがは押井だ」みたいなことを書かれていたんだけど……まあ、そのとおりで(一同爆笑)。血比呂先生に関しては最初から明確なイメージがあって、露出担当の暴力的なおばさん。(キャラクターデザインの)新垣(一成)君に説明したら、「要するに(『うる星やつら』の)サクラ先生?」って聞かれたので「そんな感じ、髪はショートの赤髪で」ってお願いした。
――ああ、そのままのキャラですね。
押井 でしょう、一発で決まったから。でもヘビースモーカーの設定には「んんん?」となっていたけれどね。アニメーションでタバコの描写が嫌がられるのは二つ理由があって、まず作画が面倒、そしてアニメーターはタバコを吸う女性が嫌い。今の若い子はみんなそうだよね。でも、僕はヘビースモーカーのおばさんが大好きだから。
――ええ、そんなキャラ、山ほど見てきましたから。
押井 ハハハハ、だから「いつもの監督のパターンですね?」「そのとおりだよ!」で終了。何の苦労もなかった。本作の影の主人公という感じになったけど、まあ動かしやすいからね。今までとちょっと違うのは「実は男で苦労してきた」という設定がシリーズ後半に出てくるんだけど、そこは(脚本の)山邑(圭)に任せた。だから、半分は山邑のキャラでもあるというね。
――女子高生たちはどうですか。
押井 ああ、あれは自分の知り合いをそのまま使った感じです。造型も本人から持ってきてるから、こちらも何の苦労もない。あの女の子たちのキャラクターデザインが今の主流にあるのかどうかは知らないけれど、ショートカットであれば基本OK。那美だけロングヘアなのはモデルがそうだから。
――あくまでもモデルに合わせる。
押井 そう、(押井総監督が通う)空手道今野塾の古株で沖縄の人。空手部の4人も、道場のおっさんたち。これが不思議なものでね、脇はそれで大丈夫なんだけど、主役は自分の知り合いでやれた試しがない。
――それはどうして?
押井 それをやっちゃうと私小説になっちゃうから。そんな『(新世紀)エヴァンゲリオン』みたいなことはしたくなかった(笑)。まず自分をさらけ出して作りたくない。他人の振りして自分が描けるっていうのが映画監督の最大の特権なんだよ。そういう意味で苦労したのは、やっぱり貢とマイだよね。最初に作ったキャラであるにもかかわらず、最後まで往生した。
(C)2020 押井守/いちごアニメーション
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押井 守(おしい まもる)