ポリゴン・ピクチュアズによって2期にわたってTVアニメ化された弐瓶勉の大ヒットSFコミックス『シドニアの騎士』が、6年の時を経て完成した劇場版『シドニアの騎士 あいつむぐほし』で遂に完結! ガウナとの最終決戦、成長したキャラクターの描写、つむぎと長道のラブストーリーなどなど、本作の見所とこだわりについて監督を務めた吉平 ”Tady” 直弘氏に話を伺ったインタビュー記事後編は、いよいよ本作の注目ポイントへと話題が移っていく――。

『シドニアの騎士 あいつむぐほし』監督が「ベスト以上」を目指した完結編
吉平 ”Tady” 直弘監督

――CGのクオリティ、キャラクターの演技の見せ方に関しても、TVシリーズの頃に比べて進歩しているように感じられました。


吉平 今回の劇場版に関して言うと、TVシリーズ第1期・第2期で使用したCGをそのまま使っている場面はひとつもありません。映像面や技術的な部分で見ても、当時のデータをそのまま使ってしまうと絵としても古い印象を与えてしまうので、現在のポリゴン・ピクチュアズの最新技術をベースにして、全てのデータに手を加えて修正していきました。

10年後という設定のため、本作では長道の顔は大きく変わりましたが、それに合わせて他のキャラクターも今のアニメのスタイルに合わせた調整をしています。「現在であればこういう表現をしたい」「もっとこんなチャレンジをさせてほしい」という現場の熱量と努力が、豊かな表情芝居やアクションの動きも含めて、さらなる表現の進化に繋がっています。これも各スタッフの『シドニアの騎士』への想いの強さによるものだと思いますね。

ーー「観る時はここに注目してほしい」という監督のお勧めポイントはありますか?

吉平 あえて言えば「全て」ですね。
バトルシーンでは死にものぐるいになって、立体的にも奥行き深い戦場を構築していますし、ドラマにおいてはキャッチコピーにもなっている「身長差15メートルの恋」、長道とつむぎとの情感溢れる描写に拘ってきました。

絵コンテをまとめる際には、「どうすれば二人の関係性に観客が感情移入できるのか?」とすごく悩みましたね。長道とつむぎがちゃんとひとつの構図の中で感情を語れるのかという問題もあったし、二人の気持ちの伝え方や目線のあり方についてはアニメーターが試行錯誤を重ねてうまく映像に落とし込んでくれました。その甲斐もあって、人間とガウナの融合個体であるつむぎがとても女の子らしく、いじらしく、そして可愛いらしく見える表現になったと思っています。

――特につむぎは表情がないので、感情の見せ方が難しかったのではないでしょうか。

吉平 そうですね。
おっしゃる通り、つむぎは人間と違って眉毛の角度や口の変化などで感情を伝えることができないので、動作だけでそれを伝えるのはかなり難しかったです。今回はプレスコだったのですが、この段階から演出的な部分をしっかりと練り上げて収録に臨んで、言葉の外にある「感情」の部分を取り込むことを重要視していました。

――具体的にはどういう部分を、でしょうか。

吉平 思っていることをそのまま台詞として全て言葉にするのではなく、声の強さ、音色の変化、動きの仕草なども全て駆使して、つむぎの内面に隠した本音を感情を使って伝えていくということですね。ある意味日本人的な感情の見せ方ともいうんでしょうか、言葉の外側にあるつむぎの感情を受けとった長道の反応の見せ方も含め、演出にはとても苦労しました。それだけに、観ていただいた方から「つむぎが可愛く見える」と言ってもらえて本当に良かったな、と。


『シドニアの騎士 あいつむぐほし』監督が「ベスト以上」を目指した完結編
現場を大いに悩ませたつむぎ(右端)の感情表現。

(C)弐瓶勉・講談社/東亜重工重力祭運営局

――「掌位」に象徴される ”手を取り合って生きていく” というテーマが本作でも強く描かれていたように感じました。監督は「掌位」を通した表現に関して、どのようなイメージを持たれていますか?

吉平 「掌位」はとてもユニークな設定で、TVシリーズでも象徴的に描かれていました。掌位は機械同士の連結と捉えると純粋な運動性能の向上以外の効果はあり得ないのですが、人間同士が掌位を行うことで想いを伝えていく場面になったり、あるいは友情の証や出撃前のおまじないとして儀式的な掌位も行っていますよね。

自分も含めて日本人はなかなか肉体的な接触をしないことが多いと思いますし、今のような時代を迎えてさらに勇気が必要な行為になったと思いますが、その垣根を越え手を繋ぎ人と絆を作っていく、その絆の象徴として「掌位」が存在しています。誰かのために、あるいは一緒に何かをするという目的のために、人と想いを重ねて、その願いを強くしていく――本作の中でもそこは大事にしていますし、大きくフィーチャーしている部分だと思います。


――そういう意味では本作はこれまでのイメージに囚われず、例えばアニメファンではない一般の女性層にも観てもらいたいという気持ちはありますか?

吉平 その気持ちは非常に大きいですね。本作の女性キャラもまた、願いを叶えるために何かの犠牲を払いながらも、勇気を振り絞って行動していきます。宇宙を戦場にした特殊な状況下で生まれ育った人々が何を思い、どんな形で願いや気持ちを重ねていくのか……遠未来の世界観の中で描かれる普遍性を持った人間ドラマとして作っていますので、肩の力を入れずに観ていただければと思いますね。

――ポリゴン・ピクチュアズの30周年記念作品としてスタートした『シドニアの騎士』が長い時間をかけて遂に完結を迎えます。最後に改めて、その感想をお聞かせください。

吉平 『シドニアの騎士』は、ポリゴン・ピクチュアズにとって日本で初めてのセルルックCGアニメーションであり、その制作へ挑戦することでも大きな転換点にもなった作品です。
また、何より僕にとっても演出・監督業に入っていくきっかけとなった特別な作品でもあります。

それを自分が完結させる、という責任に関して、大きなプレッシャーもありました。でもTVシリーズ第1期の第1話から関わってきた自分だからこそ、最後まで責任を持って最高の『シドニアの騎士』に仕上げていきたい……そんな強い想いと情熱を持って、この完結編に取り組んできました。

「もう二度と作れないのだから、今できるベスト以上のものにしなくてはダメだ!」と、スタッフを励ましつつ、その発言によって自分自身も追い込まれて、たくさん苦しい思いもしてきましたが(苦笑)、今はなんとか無事に完結させることができて、とても感慨深い気持ちです。

『シドニアの騎士 あいつむぐほし』監督が「ベスト以上」を目指した完結編
感動のクライマックスはぜひ劇場のスクリーンで目撃してほしい。

>>>本編の場面カットを見る(写真7点)

(C)弐瓶勉・講談社/東亜重工重力祭運営局