TVアニメ『名探偵コナン』エンディングテーマ「クウフク (starring VALSHE)」が好評を得たユニット”今夜、あの街から”のノラが、ソロアーティスト”ノラ from 今夜、あの街から”として、TVアニメ『レベル1だけどユニークスキルで最強です』オープニングテーマ「Chase Me」を担当。高校生の頃からネットシーンを中心に音楽活動を開始し、2021年からボカロPとして”今夜、あの街から”を立ち上げたノラ。
”今夜、あの街から”の前日譚のような立ち位置だと話す「Chase Me」について制作秘話を聞いた。(前編/全2回)

■「Chase Me」はノラとレイラが出会う前の話

――男女ユニット”今夜、あの街から”(以下、ヨルマチ)のメンバーとして担当した「クウフク starring VALSHE」が好評のノラさんは、今回は”ノラ from 今夜、あの街から”として、TVアニメ『レベル1だけどユニークスキルで最強です』オープニングテーマ「Chase Me」を担当しています。ソロでやることになった経緯を教えてください。

ノラ コンペに楽曲を提出したことに始まるのですが……『レベル1』の主人公・佐藤亮太さんにはブラック企業時代の前世があって、その経験があるからこそ強さだけでなく、人に対する優しさも持ち合わせていて。頑張って周りの人を幸せにして行くぞという強い意志を持った、亮太さんにフォーカスした楽曲を作りたいと思ったとき、ソロで表現するほうが合うのではないかと思いました。それに”ヨルマチ”自体にノラとレイラの男女の設定やストーリーがあって、ノラとレイラが出会う前のその前日譚みたいな話を描きたいと思っていたところだったので、タイミングがちょうど良かったというのもあります。


――なるほど。レイラさんと出会う前だから、今回はノラさんお一人ということなんですね。

ノラ はい。”ヨルマチ”のエピソード0と言うか、スピンオフ作品のつもりで制作しました。”ヨルマチ”のノラくんは強い意志を持っているのに、なかなか一歩を踏み出せない優柔不断さも持っていて。理想はあるけど踏み出せないからこそ、踏み出したいという思いはとても強くて。
そういうノラくんの姿と、『レベル1』の主人公・亮太さんがすごくリンクしました。だから自分が『レベル1』の世界に転生してしまったような気持ちになって、とても親近感を持って制作することができました。『レベル1』の亮太さんとの出会いは、僕にとってとても幸運なもので、今回「Chase Me」という曲を書きながら、”ヨルマチ”への自分自身の理解もより深まった気がしています。

■作詞のヒントは、やはり原作小説

――オープニングの映像と曲が一つになったものを観られていかがでしたか?

ノラ 自分の曲に合わせてアニメの登場人物たちが動いているのは、すごくうれしかったです。最初にお話した通り、亮太さんにはこういう過去があってとか、亮太さんの詰め合わせみたいな楽曲にしたいと思って曲を作って、前世の辛かった記憶を歌っているところで、ブラック企業時代の描写があったり、周りを幸せにしている様子の描写も出て来たり、曲とぴったりでとても大満足です。

――『レベル1』は、ダンジョンでモンスターを倒すと野菜などの食べ物や物がドロップされるという独特な世界観ですね。


ノラ 曲を書くにあたって原作小説を読んだのですが、全体的にほのぼのとして優しい雰囲気にあふれているものの、所々に前世で経験した闇がフラッシュバックしたり、根性論で物事を進めようとする人が出て来たり、今僕らが生きている現実世界とも通じる闇が描かれていて。単にほんわかほのぼのとした作品ではない、そのギャップがとても魅力的な作品だなと思いました。

――歌詞には〈ねぇ今夜、あの街を駆けてゆく〉とか〈Lv.1でもStep By Step〉など、”ヨルマチ”や『レベル1』に関係した言葉が散りばめられています。

ノラ 作詞のヒントは、やはり原作小説でした。サビ頭の〈創ね造ねでも生きられない〉は、食べ物から空気まで全てがダンジョンで作られているところからヒントを得ていて。基本的には、アニメの中から言葉を借りて作っていった形になります。


■ブラック企業レベルの膨大な時間を費やし制作

――楽曲は格好よくてオシャレで、あまりアニメアニメしていないところがいいなと思いました。そういう部分で意識したところはありますか?

ノラ 自分なりに”ヨルマチ”の世界とアニメの世界の、ちょうどいい落とし所を見つけることができたという感じです。アニメのタイアップである以上、1曲で「この作品ってこうだよね」というものが伝わる曲にしたいというのがあって、歌詞にはアニメと通じる言葉をたくさん散りばめました。同時に”ヨルマチ”は、自分たちの物語を楽曲で進めていくユニットでもあるので、アニメのオープニングとしてしっかり役割を果たしつつも、”ヨルマチ”の世界観も100%出せる曲にしたいと思って、試行錯誤した結果こういった楽曲になりました。

――”ヨルマチ”として『名探偵コナン』のエンディングテーマ「クウフク」を制作した経験が、今回の制作に役だったのでしょうか?

ノラ 実は、制作した順番はこちらの曲の方が先で、そういう意味でも「Chase Me」はエピソード0です。だからできあがるまでには結構苦戦して、それこそブラック企業で働かされるレベルの膨大な時間を費やしました(笑)。
何日も徹夜をして、やっとの思いでできあがった曲です。

――制作する時にアニメ側からは、どういう曲調がいいなどの要望はありましたか?

ノラ 最初は特に無くとても自由に作らせていただきましたが、オープニングテーマに決定してからは少しやりとりがあって、「あまりクールに振りすぎないように」と。「明るさとか爽快さとか、ちょっとしたファンタジー感がもう少しほしい」という意見をいただいて、それで所々にゲームサウンドっぽいシンセ音を入れたり、アコースティックギターを使って明るさや爽快感、前進する力を表現しました。

■宅録ならではの突き詰めで100%出し切った

――歌についてですが、サビ前の〈嗚呼〉と歌うところの声は、がなっている感じで格好いいですね。

ノラ Bメロは過去の闇の部分とリンクしたらいいなと思いながら書いていて、その後に来る〈嗚呼〉で転生して、サビ以降は転生後みたいなイメージです。

――ここは”ヨルマチ”のノラさんでは出て来なかった歌い方だと思いました。


ノラ そう思っていただけたら、うれしいです。「ここはどう歌おう」と考えながら録っていくのですが……僕は宅録で今までスタジオを借りてレコーディングしたことがなくて。

――いつもYouTubeで映っている所で?

ノラ そうです。あれが自分の作業部屋で、収録もひとりで行い、ディレクションも自分で行っています。だから〈嗚呼〉のところも試行錯誤する中で、「ちょっとザラザラした声にしたらどうだろう」と思って生まれたものです。いつも、試行錯誤しながらひとりでやっています。自分が納得するまで永遠に突き詰められるのは、宅録でやっていることの良さですね。

――でも独りよがりにならないように、よりシビアにやらなければならないですね。

ノラ はい。ここできっちり作り込まないと、その先は誰の手も入らないで。その分プレッシャーみたいなものも感じながら、100%出せるものは全部出し切るようにして録っています。永遠に突き詰められるとは言いましたけど、締め切りもありますから、限られた時間の中でいいものができるように努力しています。

――AメロとBメロで歌い方が変わったり、2番のコーラスで声色を変えていたり様々な工夫があり、突き詰めたことが伝わります。

ノラ 作りながら、初音ミクなどのボーカロイドを調整するかのように、自身のボーカルにもエフェクトを加えています。途中で「ちょっと変化がほしいな」と思ってエフェクトをかけたり、「右左で歌っているように聴こえたら面白いんじゃないか」と思って、声を真ん中じゃないところに配置したり。他にもAメロの後ろでラジオっぽい加工をした声が入っていたり、〈嗚呼〉の前でオートチューンをかけてボーカロイドっぽく声をケロケロさせたり、サビはほとんど息継ぎなしで一直線に歌っていたり。コロコロと景色が変わって行くような所が、ファンタジー世界をほうふつとさせるボーカルワークに仕上がったのではないかと思います。

【後編】【今夜、あの街から】「Chase Me」でノラが語るユニークスキルの「疑似転調」