アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第30弾は、『SLAM DUNK』より山王工業の魅力に迫ります。
■映画「THE FIRST SLAM DUNK」とは
井上雄彦の伝説のマンガを原作にした映画『THE FIRST SLAM DUNK』が公開され、大評判となっている。
公開前は、湘北レギュラーメンバーの新ボイスキャスト以外、事前情報がほとんど発表されない状態での公開となり、一体何のエピソードが描かれるのかと議論になっていたが、多くの人が予想した通り、旧TVアニメ版では映像化されなかった山王工業高校戦が取り上げられた。
山王工業は、『SLAM DUNK』の世界において最強を誇る絶対王者だ。原作の最後を飾るにふさわしい強敵であり、山王メンバーも魅力的なキャラクターばかりである。しかし、映画は湘北の宮城リョータの過去を掘り下げ、宮城以外のキャラクターのバックグラウンドは最小限の描かれ方となっている。その結果、原作では濃密に描かれた山王メンバーの過去のエピソードも省略されることとなった。
映画は、観客を湘北の応援席にいるかのような臨場感を与えることを目指して演出されているように感じたため、そこに敵チームの事情が多く入り込んでは、かえってノイズになったかもしれない。映画なので約2時間に収めねばならない事情と合わせれば、山王メンバーの過去を省略するのは理にかなったものだと言えるだろう。
とはいえ、山王も湘北メンバーに比類するほど魅力的なキャラクターが揃っているのも事実。そこで、敵役の魅力を紹介する本連載では、山王主要メンバーの魅力を掘り下げてみたい。
■努力の塊、日本最強センター河田雅史
湘北の大黒柱である赤木と相対した山王のセンター、河田雅史。
しかし、その器用さこそが彼を高校バスケ最高のセンターへと押し上げた要因だ。なぜ、彼はそのように器用な技術を持っているのかというと、山王工業入学時には伸長165cmの小柄選手だったからだ。当初はガードだった河田は1年で伸長が25cmも伸び、その度にポジションをガードからフォワード、そしてセンターへとコンバートされたのだ。
そして、ポジションを変えられる度に血のにじむような努力をした。あらゆるポジションに超高校級の逸材が揃う山王工業で、どのポジションでも生き残るために努力を惜しまない男、それが河田雅史なのである。
そして、彼は周囲をよく見れる観察眼の鋭い選手でもある。弟の河田美紀男の穴をしっかりとカバーし、桜木の怪我もすぐに見抜き、「無理はいかんぞ、赤坊主」と将来性のある桜木を気に掛ける一面も持っている。しかし、「向かってくるなら手加減はできない」とも言う。実力も姿勢も一流のプレイヤーだ。
■常に冷静沈着な大黒柱、深津一成
そんな河田と同学年で山王のキャプテンを務めるのが深津一成だ。常に冷静沈着でどんな時でも仕事を完遂する、対戦相手からするととても嫌なプレイヤーだ。湘北と同じ神奈川県代表、海南高校の牧からは「相手がいけるってムードの時こそ仕事する男」と評されている。映画でも、湘北が追い上げムードになった時に宮城からボールを奪い、流れを断ち切ろうと試みた。桜木の身体を張ったファインプレーで流れを断ち切らせなかった湘北だが、追われる側のプレッシャーなど全く感じていないかのようなプレイぶりで湘北を何度も苦しめている。
ポジションはポイントガードだが、ゲームメイクだけでなく自ら3Pシュートを打てるし、宮城との身長差を活かしてインサイトでポストプレイを仕掛けることもできる万能選手で、付け入るスキを見出しにくい選手だ。彼もまた高校最高のポイントガードといっても差し支えなく、マッチアップした宮城の苦労が、映画では原作以上に伝わってきた。
また、語尾に「ピョン」をつけるのにハマっているというひょうきんな一面もある(以前は「ベシ」を語尾につけていた)。
■絶対エースで生粋の「バスケ小僧」沢北栄治
そして、2年生でありながら山王工業不動のエースである沢北栄治の存在は絶大だ。類まれなセンスで流川を翻弄し、スーパープレーを連発する沢北は、生後8ヵ月でバスケットボールと戯れるなど、幼い頃から父親の影響でバスケット漬けの人生をおくってきた。小さい頃から父親相手に1on1を繰り返してきた結果、中学校では周囲とレベルが違いすぎて、先輩たちから目を付けられ殴られたりする不遇の生活だった。
沢北は自分と対等に戦える相手がいなくて退屈していた故に集中力を欠いてしまう場面もあった。
彼は乗り越えるべきものを見つけると、笑う。それはきっと、自分はもっと上手くなれるという喜びを感じるからだろう。強い相手を戦えば戦うほど、ワクワクするようなそんな男なのだ。まるでサッカー漫画『キャプテン翼』の大空翼のバスケット版ともいうべき、「バスケ小僧」である。
その他、前半に三井寿を徹底マークしたディフェンスのスペシャリスト一之倉や、後半から投入された「沢北がいなければどこでもエース張れる男」松本、リバウンド力のある野辺など、スタメンクラスの選手は全て超一流で穴がない。そしてチーム全体も、無名の相手だからと油断することなしに、試合前の研究を怠らない。まさに最強と呼ぶにふさわしいチームであり、『SLAM DUNK』という偉大な漫画の最後の敵としてもふさわしかったと思う。湘北と相対した山王が魅力あふれるチームだったからこそ、湘北VS山王は名勝負となったのだ。
このチームへの賛辞は「敵ながらあっぱれ」などという言葉では足りない。彼らの王者の風格は、映画以上に漫画で感じられるので、映画で感動した後は、是非原作マンガでその強さを追体験してほしい。
敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第30弾は、『SLAM DUNK』より山王工業の魅力に迫ります。
■映画「THE FIRST SLAM DUNK」とは
井上雄彦の伝説のマンガを原作にした映画『THE FIRST SLAM DUNK』が公開され、大評判となっている。
公開前は、湘北レギュラーメンバーの新ボイスキャスト以外、事前情報がほとんど発表されない状態での公開となり、一体何のエピソードが描かれるのかと議論になっていたが、多くの人が予想した通り、旧TVアニメ版では映像化されなかった山王工業高校戦が取り上げられた。
山王工業は、『SLAM DUNK』の世界において最強を誇る絶対王者だ。原作の最後を飾るにふさわしい強敵であり、山王メンバーも魅力的なキャラクターばかりである。しかし、映画は湘北の宮城リョータの過去を掘り下げ、宮城以外のキャラクターのバックグラウンドは最小限の描かれ方となっている。その結果、原作では濃密に描かれた山王メンバーの過去のエピソードも省略されることとなった。
映画は、観客を湘北の応援席にいるかのような臨場感を与えることを目指して演出されているように感じたため、そこに敵チームの事情が多く入り込んでは、かえってノイズになったかもしれない。映画なので約2時間に収めねばならない事情と合わせれば、山王メンバーの過去を省略するのは理にかなったものだと言えるだろう。
とはいえ、山王も湘北メンバーに比類するほど魅力的なキャラクターが揃っているのも事実。そこで、敵役の魅力を紹介する本連載では、山王主要メンバーの魅力を掘り下げてみたい。
■努力の塊、日本最強センター河田雅史
湘北の大黒柱である赤木と相対した山王のセンター、河田雅史。
彼は194cmの長身と鍛え抜かれた鋼のボディでパワフルなプレイを披露する選手だ。しかし、そのゴツイ容貌からは想像できない華麗なテクニックも持っている。映画でも、センターでありながら、アウトサイドからの3ポイントシュートを放つシーンもありスピードもある、センターとしては異色の存在だ。
しかし、その器用さこそが彼を高校バスケ最高のセンターへと押し上げた要因だ。なぜ、彼はそのように器用な技術を持っているのかというと、山王工業入学時には伸長165cmの小柄選手だったからだ。当初はガードだった河田は1年で伸長が25cmも伸び、その度にポジションをガードからフォワード、そしてセンターへとコンバートされたのだ。
そして、ポジションを変えられる度に血のにじむような努力をした。あらゆるポジションに超高校級の逸材が揃う山王工業で、どのポジションでも生き残るために努力を惜しまない男、それが河田雅史なのである。
そして、彼は周囲をよく見れる観察眼の鋭い選手でもある。弟の河田美紀男の穴をしっかりとカバーし、桜木の怪我もすぐに見抜き、「無理はいかんぞ、赤坊主」と将来性のある桜木を気に掛ける一面も持っている。しかし、「向かってくるなら手加減はできない」とも言う。実力も姿勢も一流のプレイヤーだ。
■常に冷静沈着な大黒柱、深津一成
そんな河田と同学年で山王のキャプテンを務めるのが深津一成だ。常に冷静沈着でどんな時でも仕事を完遂する、対戦相手からするととても嫌なプレイヤーだ。湘北と同じ神奈川県代表、海南高校の牧からは「相手がいけるってムードの時こそ仕事する男」と評されている。映画でも、湘北が追い上げムードになった時に宮城からボールを奪い、流れを断ち切ろうと試みた。桜木の身体を張ったファインプレーで流れを断ち切らせなかった湘北だが、追われる側のプレッシャーなど全く感じていないかのようなプレイぶりで湘北を何度も苦しめている。
ポジションはポイントガードだが、ゲームメイクだけでなく自ら3Pシュートを打てるし、宮城との身長差を活かしてインサイトでポストプレイを仕掛けることもできる万能選手で、付け入るスキを見出しにくい選手だ。彼もまた高校最高のポイントガードといっても差し支えなく、マッチアップした宮城の苦労が、映画では原作以上に伝わってきた。
また、語尾に「ピョン」をつけるのにハマっているというひょうきんな一面もある(以前は「ベシ」を語尾につけていた)。
■絶対エースで生粋の「バスケ小僧」沢北栄治
そして、2年生でありながら山王工業不動のエースである沢北栄治の存在は絶大だ。類まれなセンスで流川を翻弄し、スーパープレーを連発する沢北は、生後8ヵ月でバスケットボールと戯れるなど、幼い頃から父親の影響でバスケット漬けの人生をおくってきた。小さい頃から父親相手に1on1を繰り返してきた結果、中学校では周囲とレベルが違いすぎて、先輩たちから目を付けられ殴られたりする不遇の生活だった。
沢北は自分と対等に戦える相手がいなくて退屈していた故に集中力を欠いてしまう場面もあった。
しかし、アメリカ遠征で本場のレベルを目の当たりにし、大きな目標と歓びを見つけた彼は、インターハイ後は本格的にアメリカに渡る予定だ。
彼は乗り越えるべきものを見つけると、笑う。それはきっと、自分はもっと上手くなれるという喜びを感じるからだろう。強い相手を戦えば戦うほど、ワクワクするようなそんな男なのだ。まるでサッカー漫画『キャプテン翼』の大空翼のバスケット版ともいうべき、「バスケ小僧」である。
その他、前半に三井寿を徹底マークしたディフェンスのスペシャリスト一之倉や、後半から投入された「沢北がいなければどこでもエース張れる男」松本、リバウンド力のある野辺など、スタメンクラスの選手は全て超一流で穴がない。そしてチーム全体も、無名の相手だからと油断することなしに、試合前の研究を怠らない。まさに最強と呼ぶにふさわしいチームであり、『SLAM DUNK』という偉大な漫画の最後の敵としてもふさわしかったと思う。湘北と相対した山王が魅力あふれるチームだったからこそ、湘北VS山王は名勝負となったのだ。
このチームへの賛辞は「敵ながらあっぱれ」などという言葉では足りない。彼らの王者の風格は、映画以上に漫画で感じられるので、映画で感動した後は、是非原作マンガでその強さを追体験してほしい。
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