よもや本作でも「考証」の不備を感じることになるとは、視聴者も困惑しているのではないだろうか。
1月12日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第70回では、部品工場の株式会社IWAKURAを継ぐことになった岩倉めぐみ(永作博美)がリストラに着手する様子が描かれた。
一度は会社を畳むと決めたものの、亡き夫で社長だった浩太(高橋克典)の遺志を継ぐべく、会社の継続を決意しためぐみ。信用金庫からはリストラ計画の提出を迫られ、まずは退職してもらう従業員を3人選んでいた。さっそく3人に退職を勧奨したものの、その場面に視聴者からツッコミが入っていたのである。
「二人目の砂川(ムラサトシ)は、お世話になった会社を困らせたくないと退職勧奨を受け入れることに。『ほな近いうちに退職届出しますわ』と告げ、めぐみは頭を下げていました。しかしリストラ等の会社都合で退職する場合に退職届が不要なことは、会社員にとっては常識。リーマンショックによるリストラという社会的な事件を扱うドラマで、こんないい加減な考証はさすがに見過ごせませんね」(週刊誌記者)
リストラされる側が退職届を提出してしまうと自己都合退職の扱いになりかねず、失業保険の給付制限がかかるといった不利が生じてしまう。よもやNHKには会社都合でリストラされた人がいないため、誰もその不自然さに気付かなかったのだろうか。
そんな制度上の考証ミスに加えて、舞が経理について覚えようとしている場面にも、ツッコミどころが見受けられたという。
舞はパソコンに向かいながら、先輩社員の山田(大浦千佳)から請求書の作り方を教えてもらっていた。どうやら請求書はエクセルで作っているようで、山田は「ここに商品の本数を打ち込んで」などと指導していたが、その画面にも明らかなミスが映し出されていたという。
「舞が『溝付タッピング』という部品の本数(数量)を打ち込む前から、金額欄にはすでに61,843円という数字が入っていました。しかしエクセルで請求書を作る際には、数量を打ち込むと金額が自動計算される関数を仕込んでいるはず。しかも本来なら各部品の金額が確定するのに応じて合計額も変わっていくはずです。しかしIWAKURAの請求書では最初から合計額が記載されており、これでは計算間違いがあっても気づかないことになってしまいます」(前出・週刊誌記者)
実際、画面上の請求書には計算間違いが生じていた。「当月ご購入額」の欄には363,081円と記載されていたが、各部品の金額を合計すると363,080円となり、数字が合っていなかったのである。
これでは取引先に1円多く過請求することになってしまう。たった1円とは言え、東大阪の町工場がこんないい加減な請求書を作るはずもない。これはさすがに看過できない考証ミスではないだろうか。
そもそも今回、めぐみが信用金庫とやり取りする場面からしてすでに不自然だった。当座の運転資金について問われためぐみは、浩太の生命保険を充てると告げ、支店長は「そこまでの覚悟がおありですか」と驚いていた。しかしこれもまたあり得ないやり取りだというのである。
「町工場のIWAKURAが3億円もの資金を借り入れる場合は、社長の浩太が連帯保証人となった上で、信用金庫が指定する団体生命保険に加入するのが常識。
航空学校編では航空大学校に入念な取材を行い、専門用語も含めてしっかりとした考証を行っていた「舞いあがれ!」。ところがIWAKURAのリストラがテーマになった途端、様々な考証がいい加減になったのだから驚きだ。
しかし多くの視聴者にとっては航空業界の専門用語より、中小企業の経営不振のほうが身近な話題のはず。ただでさえ物語が暗さを増すなか、考証ミスまで重なった日には、離脱してしまう視聴者も続出するのではないだろうか。