Withコロナ。安全か経済か、こうした「両極化」のニュースが流れる現在、その矛盾を「つなげる」発想こそが日本の未来への強みとなることを訴えたいとデロイトトーマツグループCSOで、フジテレビ『  Live News α』の コメンテーターでお馴染みの松江英夫氏は語る。

 
 連載1回目では、私たちが直面する「両極化の時代」、日本の未来図を確かめていく。





■コロナ禍で加速する「両極化の時代」

 これから時代は、コロナ禍を経てますます両極化に向かっていく。



 両極化とは、一見相反している事象や価値観が衝突しながらも互いに勢いを増幅させることを指すが、この現象は❶グローバル化❷デジタル化❸ソーシャル化の文脈の中でより加速していく。



 ❶グローバル化においては、ヒト・モノ・カネ・情報が国境を越えて自由に広がる一方で、経済格差拡大や社会的不安の高まりから揺り戻しが各所で起こっている。米国が「アメリカ・ファースト」を叫び、英国はEUを離脱するなど、グローバルとローカルという両極の対立が先鋭化している。



 ❷デジタル化においては、GAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)のようなグローバルプラットフォーマーの拡大と同時に、その対極として「GAFA分割論」や「プライバシーの保護」といったデータ支配をけん制し、分散化する対極的な動きが目立ってきている。



 ❸ソーシャル化においては、温暖化や格差拡大といった地球規模の社会課題に注目が集まっている。SDGs(持続可能な開発目標)は世界に浸透し、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資の機運も世界的に高まった。



 これらは経済至上主義に対するある種の反動ともいえる。コロナ禍で企業は、従業員の雇用や健康・安全の確保という大きな責任に改めて向き合い、社会貢献意欲はかつてないほど高まっている。



 これからは企業も社会も経済価値と社会価値という両極の両立に向き合わざるを得なくなっていく。





■日本の強みとは「つながり」を最適化する現場力

「両極化」の時代を生き抜くうえで、最も重要なキーワードはつながりである。



 両極的なものを分断させず、うまくつなぎ合わせ、多様なステークホルダーと多面、多層的なつながりを持って、各種の課題を解決できる力こそが問われるからだ。



 ポスト・コロナに向けて加速する両極化。困難が進行しているようにみえる時代だが、実は今こそ、日本の強みが生かせる時代でもある。



 では日本の強みとは何か、それは一言で言えば最適化する現場力だ。



 日本は歴史的に、外国から異質な文化を取り込み、自分流にアレンジ、最適化させるというプロセスを繰り返しながら発展してきた。



 代表的には、製造現場の擦り合わせ技術や、作り手(生産者)と使い手(消費者)という立場の違う双方が一体となって作り上げたジャパン・クオリティ(日本品質)などがその例である。



 このように、「両極なるもの」いずれかを排除する二項対立の構図にせず、多面的・多層的につながりをもたせることは日本の伝統的な強みだ。



 この強みを生かすべき時が今であり、「失われた30年からの脱却」と「先例なき時代」を生き残る鍵となる。



 日本は「課題先進国」と言われて久しい。社会価値と経済価値の両立が求められる「両極化」の時代に、日本の強みを活かして課題解決を牽引することの意味は大きい一方で、現実に目を向けるとその道のりは遠い。



 我々の調査において、日本とグローバル企業の経営者に「社会課題解決に取り組む理由」を尋ねたところ、グローバル全体で最も多くの回答を集めた「収益の創出」(42%)について、日本の経営者からの回答は1%と極端に低いレベルにとどまった(下記【図表】参照)。



【両極化の時代】社会課題解決を通して“儲ける”ことで日本は再...の画像はこちら >>



 日本の経営者は、社会課題解決を収益創出の機会という経済価値へとつなげて捉える戦略的発想において、グローバル水準に比して大きく立ち遅れている。





■社会課題解決を通して〝儲ける〞ことで日本は再び成長する

 これから日本の経済社会においては、社会課題解決をすることを通して〝儲けていく〞という発想の転換こそが求められる。社会課題と経済成長を一体で考える視点こそが大切だ。そこでカギを握るのは、デジタル技術を活用したイノベーションによる〝新たな内需〞の創出である。では、具体的にどのような分野が考えられるのか。



 1つ目は、少子高齢化と密接に関わる、医療・健康分野だ。医療・介護などのシルバー需要だけで巨大な市場であり、かつ医療現場の人手不足解消、国民医療費の最適化等の課題が重い。



 今後は、遠隔医療の本格展開や地域包括ケアシステム、疾病予防(健康)や衛生管理の高度化など、デジタル技術を駆使したイノベーションにより新たな需要を生み出す余地は大きい。



 2つ目は、環境・エネルギー分野だ。太陽光や風力発電など再生可能エネルギーは、将来的に主要エネルギー源の一つとして期待される一方で、発電量の少なさや変動的かつ分散型電源であるため需給調整などが普及拡大の課題である。



 例えば今後、AI、IoT、ブロックチェーン等を活用して需要と供給を可視化し機動的にマッチングできる仕組みが実用化できれば、ハードとソフトの両面で大きな需要が創出できる。



 3つ目は、災害対策に関わる分野だ。日本は、地震、豪雨、台風などの自然災害に見舞われる頻度が高く、今後は、非接触型社会を前提にした都市防災機能の再構築が急務となる。



 災害予知や発生状況の把握機能、災害発生時の安否確認や支援物資供給等の高度な防災機能をビルトインした日本型スマートシティモデル、社会インフラの強靭化などは大きな需要がある。



 そしてこれら全てに共通する日本の課題は〝人づくり〞であり、特に教育産業分野の強化だ。新しい需要づくりと共に、そのニーズに対応できる人材をどのように作るのか、人材教育やリスキル、職業訓練、成長分野への人材シフト、といった労働移動こそが最重要な政策課題だ。



 リモートワーク普及により時間や場所の制約が取り払われ、潜在的に多くの人材が多様な形態で教育機会に参加できるようになる中で、ヒトに関する教育産業は大きなマーケットを生み出す可能性を秘めている。



■両極化の時代こそ日本発のビジョンを

 両極化の時代においては、多様な関係者においてデータ同士の〝つながり〞を作ることを通して、デジタル技術を介した課題解決、イノベーションを興し新たな需要の創出につなげていくことは、これからの日本にとって極めて重要である。



 社会課題の解決を経済的に〝儲ける〞ことにつなげることで、日本経済の成長につながる好循環を作ること。さらに日本が「課題解決先進国」として世界の進むべき道筋に光を照らす存在になることは、両極化の時代にこそ日本が描くべき将来像になるはずだ。



(『一個人』2020年秋号より再構成)





松江英夫(まつえ・ひでお)

デロイトトーマツグループCSO(戦略担当執行役)。中央大学ビジネススクール、事業構想大学院大学客員教授。フジテレビ『Live News α』コメンテーター。専門は経営戦略・組織改革、経済政策。著書に『自己変革の経営戦略』(ダイヤモンド社.2015年)、『両極化時代のデジタル経営——ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社、2020年)など多数。



【参考資料(最新記事)】



◉フジテレビ『 Live News α』(2020年10月30日放送より)
コロナ過のハロウィーンは? 「リアル」と「バーチャル」二つの楽しみ方



https://www.fnn.jp/articles/-/102097



◉ダイヤモンド社『Harvard Business Review』(2020年10月15日配信より)



ポストコロナは「両極化の時代」デジタルが生む新しいつながりとは



https://www2.deloitte.com/jp/ja/profiles/dtc/hideo-matsue.html