10月31日に投開票される衆議院議員選挙。各党が一つでも多くの議席獲得を狙い、しのぎを削っている。

10月14日に読売新聞に掲載された情勢を見ると自民党は議席を減らし、単独で衆院定数の過半数(233)を維持できるかどうかの攻防となっている。



 自民党が苦戦している理由の一つが立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組の4党が政策協定を結び、選挙区調整をして候補者の一本化を実現させたことが大きい。今までは野党同士で票を食い合っていて一つしかない議席を自民党に取られていたのを一対一に持ち込んだ。見事に野党の狙いが成功したといえる。



 しかし、政策協定を結んだにも関わらず自民党の大物議員は野党連合へ批判の声を上げる。安倍晋三元総裁麻生太郎副総裁は「立憲民主党が勝てば悪夢の民主党政権復活」とレッテルを貼り、野党共闘を「立憲共産党」などと名付けて攻撃をしている。



 その口火を切ったのが甘利明幹事長である。甘利氏は10月15日に自身のTwitterでこんな非難をしている。





《衆議院が解散され、19日より選挙戦に入ります。参議院選挙と異なり衆議院選挙は勝った方が政権を取ります。よって政権選択選挙と言われます。立憲民主党はついに共産党と閣外協力を宣言しました。日本に初めて「(自公の)自由民主主義政権」か「共産主義(が参加する)政権」かの選択選挙になります》





 なんと自由主義対共産主義の戦いなどど的外れもいいとこのツイートをしたのだった。そもそも自由主義と共産主義は対立概念ではない。自由主義の反対は専制主義や全体主義である。デジタル大辞泉によると「共産主義」とは、





《1 財産の私有を否定し、生産手段・生産物などすべての財産を共有することによって貧富の差のない社会を実現しようとする思想・運動。

古くはプラトンなどにもみられるが、現代では主としてマルクス・エンゲルスによって体系づけられたマルクス主義思想をさす。



2 マルクス主義で、プロレタリア革命によって実現される人類史の発展の最終段階としての社会体制。そこでは階級は消滅し、生産力が高度に発達して、各人は能力に応じて働き、必要に応じて分配を受けるとされる。→マルクス主義》





 つまり「共産主義」とは平等社会を目指す運動であり、反対語は資本主義である。共産党の志位委員長は甘利発言について問われる





「野党共通政策を読んでから言ってほしい。共通政策にあるように、日本の政治に立憲主義を取り戻す、民主主義を取り戻す、平和主義を取り戻す、そして暮らしの安心と希望を取り戻すのが私たちが求める政権交代であって、何か体制選択のような話を持ち込むのは、全く見当違いだ」





 このように真っ向から反論。

Twitterからも甘利幹事長へ批判の声が投稿された。それでも甘利幹事長は懲りずに同様の発言を続けた。17日に放送されたNHK日曜討論でも同様の発言をして志位委員長を怒らせている。



 しかもこの日は他にも失言を連発。特にひどかったのは





「世界を席巻しているスマホも、3Dプリンターも量子コンピューターも全部、日本の発明です。技術では勝っているのに、ビジネスで負けている。

これを技術で勝っているからビジネスでも勝つようにしていくことが大事」





という主張だ。この発言にはネット上からも「そうだっけ?」「スマホは日本の発明らしい」と驚きや疑問の声が上がり、Twitterのトレンドランキングに「#日曜討論」や「甘利さん」がランクインするほど悪い意味で話題になった。





■甘利明幹事長の疑惑に応えない岸田自民党の厚顔ぶり



 確かに3Dプリンターは甘利幹事長の言うように1980年に名古屋で技術士として働いて小玉秀男氏によって、現在の3Dプリンターの元となる光造形の付加製造が開発されたのがきっかけと言われている。しかしスマホは、1992年にラスベガスで開催されていたコンピュータ関連の展示会「コムデックス(COMDEX)」にてIBMがタッチスクリーン式の携帯式電話「Simon」のコンセプトモデルを発表したのが歴史の始まりと言われている。電話だけでなく、メールやファックス送信、携帯電話対応サイトの受信機能など、携帯電話とPDAの機能を有しており、1994年に発売された。当初は「コミュニケーター」と呼ばれていたが、1995年に「PhoneWriter Communicator」というタブレット端末に「スマートフォン」と総称が仕様されて以降、スマートフォンという端末が増えていった。



 その頃日本ではNTT ドコモの「i-mode」が市場の中心であり独自の進化をしていたのは35歳以上の方ならご存じの通りである。つまり甘利幹事長の「スマホが日本で生まれた」という発言はウソである。



 量子コンピュータについても甘利幹事長の言うように日本で生まれたものではない。



 1982年にアメリカの物理学者リチャード・P・ファインマンが量子物理系を古典コンピュータでシミュレートすると計算量が爆発する困難を指摘し、量子力学を使ったコンピュータを提案したことがきっかけである。そしてイギリスの物理学者デイヴィッド・ドイッチュが量子コンピュータの計算モデル(量子チューリングマシン)を提唱。それから多くの物理学者がいくつものアルゴリズムを考案し続けて、2011年にD-Wave社(カナダ)が世界初の商用量子コンピュータD-Wave Oneを発表したのが歴史である。



 量子コンピュータの歴史に日本も日本人もどこにも存在しない。こういうデタラメを公共の電波で発信しておいて、誤りを訂正することなく平気な顔をして選挙区で応援演説をしているのだから開いた口がふさがらない。



 それに加えて甘利幹事長にはご存じの通り「甘利事件」に関しても疑惑はまだ晴れていない。「甘利事件」とは何か簡単に説明しておくと、2016年に当時経済再生担当相だった甘利幹事長は地元事務所が、千葉県の建設会社の総務担当者から現金と飲食接待を合わせ総額1200万円の利益供与を受けていた疑いがあると週刊文春に報じられたことがきっかけに疑惑の渦中に置かれた。



 甘利幹事長は、自らと元公設第一秘書が計600万円を受け取ったことを認めて経済再生相を辞任した。ところが、千葉県の建設会社の総務担当者は実名を明らかにし、建設会社に隣接する県道の用地買収に伴う補償をめぐり、建設会社と独立行政法人都市再生機構(UR)の間でのトラブルを甘利事務所に口利きを依頼し、見返りとして現金や接待で1200万円を渡したと証言をしたことで再び疑惑が持ち上がった。甘利氏の秘書がURと接触したあと、URは建設会社との交渉に応じ、2億2000万円の補償金を出していたことも判明した。そのため市民団体などからあっせん利得処罰法違反や政治資金規正法違反の疑いで告発を受けた。しかし東京地検特捜部は甘利幹事長と秘書2人を不起訴処分とし、事件は表向きは終結された形になっている。



 甘利幹事長はこの件について「事情を全く知らされていない。寝耳に水だった」と説明しているが、文春によれば対応した秘書が「(甘利幹事長が)案件について知っている」と語った音声があると報じており、明らかに矛盾した格好だ。



 こんな疑惑のある人間を実質党を仕切る幹事長にするなんて自民党に政権を担う資格があるのだろうか?





■噓八百のプロパガンダ「Dappi」との深い関係に自民党は知らん顔



 しかもまだ自民党には大きな疑惑がある。Twitterで情報操作をしていたという疑いだ。



 疑惑が起きたのは立憲民主党の小西洋之参院議員が起こした発信者情報開示訴訟によるものだ。発信者情報開示請求をされたのは「Dappi」という名前のTwitterアカウントである。Dappiは野党議員や、政権に批判的なマスコミに対し、誹謗中傷めいた批判を展開してきており、フォロワー数は約16万人。野党議員の発言を捏造したり、切り取り歪曲した動画を流し、たびたび問題になっていた。情報開示請求に至ったのも、森友事件で公文書改ざんを強要され自殺に追い込まれた財務省近畿財務局職員についてのコラムを「近財職員は杉尾秀哉や小西洋之が1時間吊(つ)るしあげた翌日に自殺」とウソを投稿したことによるもの。自殺した近畿財務局職員赤木俊夫さんは両者と面識はなく、自殺する前の半年間は心神喪失で休職中であった。



 こうしたウソを並べたて野党議員の印象を悪くしていたアカウントを運営していたのがワンズクエストだと明らかになっている。この会社は自民党東京都連がサーバー代などとして数十万円を支出している他、2014年に、資料作成代やWEBサイト制作代として計約120万円、19年には自民党政経塾という費目で、テープ起こし代と塾生証製作代として約42万円を支出、16~17年にもテープ起こし代や塾生証製作代の名目で支出をしていると週刊文春に報じられた



 ところがそれ以上に親密な関係であると「しんぶん赤旗」日曜版が報じたのである。記事によるとアカウント運営をしていた会社の社長の親戚とは、自民党本部の事務方トップ本部事務総長の元宿仁氏だという。元宿氏は以前から自民党の金庫番と呼ばれ、2004年に起きた日本歯科医師連盟(日歯連)の不正献金事件でも東京地検特捜部の事情聴取を受けているほか、19年の参院広島選挙区をめぐって元法相の河井克行、案里夫妻が逮捕、起訴された大規模買収事件でも名前が取り沙汰された人物だ。菅義偉元首相の首相動静でも複数回の会談が確認されている。



 記事には自民党関係者の証言として「その社長とは会ったことがある。『元宿さんの親戚』と紹介され、本人もそう名乗り、名刺交換もした。自民党本部や都連を闊歩(かっぽ)していた」と掲載されている。しかも、国会通行証を持っている人物や国会や政党に勤務している人間しか開設できない「りそな銀行衆議院支店」で作った口座を使って群馬県の土地に建物を建てたという。



 しかもワンズクエスト社と自民党とのつながりはそれだけではない。日刊ゲンダイによると同社と取引関係にある会社の代表取締役を自民党の議員が務めていたという。登記簿によれば、99年から約1年半は福田康夫元首相が、2000年3月から約1年間は船田元・衆院議員が代表取締役に就いており、岸田首相や甘利幹事長も名前を連ねていたという。おまけに毎年「寄付・交付金」としてA社に12回、計約4000万円を支出している関係。



 これだけ自民党にどっぷりと浸かっている会社が野党に関するウソをさも事実かのように流すのは明らかな情報操作に他ならない。権力者による情報操作はナチスドイツが使った手口であり、決して見逃してはならない。インターネット上では「Dappi」と自民党の関係を問う声も出ているが、当の自民党は知らん顔をして選挙活動を続けている。



 もし自民党が与党にいたら再びナチスドイツが使ったプロパガンダによってゆがんだ情報操作が行われるであろう。「Dappi」疑惑にほっかむりをして説明すらしない自民党に権力を与えるのは愚の骨頂であると言わざるを得ない。







■「分配なくして成長なし」から「成長なくして分配なし」へと早変わりした岸田文雄は信用するに値するのか?



 しかも自民党は国民との約束すら守ることもできない。



 今からひと月ほど前に行われた総裁選で当時総裁候補の一人だった岸田文雄首相はなんと言っていたのか覚えているだろうか? 



 岸田首相は「声をかたちに。信頼ある政治」をスローガンに掲げて、「令和版所得倍増」を打ち出した。岸田首相の政策集の中にある「新しい日本型資本主義 新自由主義からの転換」の項目の中に入れるほど力を入れていたが、今回の総選挙で発表された自民党の公約集の中からすっぽりと消えてしまっている。さらに首相就任後の記者会見冒頭発言や国会での所信表明演説の中に、この「令和版所得倍増」の言葉もない。



 他にも「住居費・教育費の支援」や「金融所得課税(株式の配当や株式の売買時に課される税金)の見直し」も公約集の中から消えている。所信表明でも言及していない。





 今挙げた指摘を国民民主党玉木代表が10月12日に衆議院本会議で質すと岸田首相は「私の経済政策の基本的な方向性を申し上げたもの」であり「旗は一切おろしておりません」とし、所信表明で入れなかった理由は語らなかった。





 総裁選で掲げたことすら公約集に入れられないのならば解散などしないで党内で調整していれば良かったのに。この変節ぶりを許してよいのだろうか。筆者は許してはいけないと思っている。





 ここまで挙げた自民党の失点は「甘利事件」を除けば岸田総裁になってから起きたことや明らかになったことばかりである。その前の菅義偉総裁の時にはNTTや東北新社の接待事件、コロナ対策の不手際による感染拡大、河野太郎コロナ担当相のワクチン入荷のウソによる現場の混乱なども起きている。安倍総裁時代は森友学園問題の公文書改ざん、加計学園問題、桜の会前夜の接待疑惑に加えて「甘利事件」筆頭の閣僚の不祥事は数え切れないほど出てきた。それでも自民党はこの11年間何一つ責任を取らずに平気な顔をして権力を握ってきた。





 今や責任は「取るもの」ではなく、「痛感するもの」になってしまった。これらの責任を取ることなく再び権力を与えたら好き放題するに決まっている。





 今こそ自民党から権力を取り上げるときがきたのだ。それは有権者の一票にかかっている。







文:篁五郎



(プロフィール)



1973年神奈川県出身。小売業、販売業、サービス業と非正規で仕事を転々した後、フリーライターへ転身。西部邁の表現者塾ににて保守思想を学び、個人で勉強を続けている。現在、都内の医療法人と医療サイトをメインに芸能、スポーツ、プロレス、グルメ、マーケティングと雑多なジャンルで記事を執筆しつつ、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎氏から文学者について話を聞く連載も手がけている。