NHKの番組『チコちゃんに叱れる!』でもお馴染みの、日本民俗学の第一人者・新谷尚紀先生が監修を務める『百年先まで保護していきたい 日本の絶滅危惧知識』(KKベストセラーズ)は、「ひふみん」の愛称で親しまれる加藤一二三元棋士が「未来へ継承したい日本の宝というべき知識を楽しく学べる玉手箱のような一冊」と推薦する実用雑学書。そんな同書より、5月5日の「端午の節句」にまつわる、知っておいて絶対に損のないお話しをご紹介しよう。





 



■端午の節句と菖蒲の効能

 



 ゴールデンウィークのトリを飾るのが5月5日のこどもの日。古くから端午の節句として親しまれてきた。



 こいのぼりを立て、五月人形を飾って男児のすこやかな成長や出世を願うことから、主役は当然男の子と思われがちだが、ひな祭りがもともと女の子のための行事ではなかったように、端午の節句も本来は男の子に特化したお祭りではなかった。



 今のようにこいのぼりや五月人形がお決まりとなったのは、江戸時代からのことである。



 端午の節句の起源は中国で、菖蒲(しょうぶ)や蓬(よもぎ)で門を飾ったり、菖蒲酒を飲んで邪気を祓(はら)ったりする風習が日本に入ってきたものである。旧暦の5月5日というと日本ではちょうど梅雨に入る頃で、カビの発生など衛生上気をつけなければならない時期。

強い香りを放つ菖蒲や蓬は殺菌用としてぴったりだった。



 かつては田植えの前に、神事を行う早乙女(さおとめ)たちを、屋根に菖蒲を挿した家にこもらせるという習わしもあった。今でも端午の節句に菖蒲を家の軒に吊るしたり菖蒲湯に入ったりする習慣が残っているが、そっちのほうがこいのぼりよりも歴史はずっと長いということになる。



 5月5日が近づくと、花屋やスーパーなどで菖蒲が売られるようになるが、注意してほしいのは菖蒲の種類である。端午の節句に使うのはサトイモ科の菖蒲。アヤメ科の花菖蒲はまったく別の植物なので、くれぐれもお間違えのないように。







 



文/吉川さやか(よしかわ・さやか)



早稲田大学卒業後、出版社などでの勤務を経てイタリア、ドイツに留学。ライプツィヒ大学にて言語学を学ぶ。帰国後は編集者、企画制作ディレクターなどとして活動。





監修/新谷尚紀(しんたに・たかのり)



1948年広島県生まれ。国立歴史民俗博物館教授、国立総合研究大学院大学教授等を経て、現在、両名誉教授。著書に『生と死の民俗史』『民俗学とは何か』『神道入門 民俗伝承学から日本文化を読む』など多数。