インボイス制度で「死を考える」フリーランス続出!1万人調査で...の画像はこちら >>



2023年10月に導入された「インボイス制度」。導入前から業界をまたぎ多くのフリーランスが反対をしてきた。

自民党と公明党の政府与党は緩和措置として導入した3年間は「2割特例」「8割控除」を実施し、相談窓口の設置に補助金を入れて対策に乗り出した。



あれから1年半——インボイス登録の事業者(個人事業主含む)は今年初めての消費税納付を経験した。一体どれくらいの負担になったのか。「インボイス制度を考えるフリーランスの会」が今年行ったアンケート(回答数1万超)の結果をもとに考察していこう。



■緊急措置として2割特例と8割控除の延長を請願



インボイス制度で「死を考える」フリーランス続出!1万人調査で明らかになった地獄の現実【篁五郎】
▲「1万人のインボイス実態調査」結果報告会が行われた衆議院第一議員会館



 アンケート結果公表に先立ち、「インボイス制度を考えるフリーランスの会」から財務省、公正取引委員会、国税庁、中小企業庁に請願が行われた。請願では「2割特例」「8割控除」の延長を求めた。



「インボイス廃止」「消費税減税」の前に、まずこの減免措置だけでも延長して欲しいという現実的な願いだ。



 続いてアンケートの結果発表会が行われた。





インボイス制度で「死を考える」フリーランス続出!1万人調査で明らかになった地獄の現実【篁五郎】
▲97.3%がインボイス制に反対、という衝撃の結果 1万人のインボイス実態調査報告書2025より引用



 まず明らかになったのは、「インボイス反対」派の多さだ。なんと反対派は97.3%だという。その理由としてあげられていたのが「消費税納付の負担感」である。



 どれだけ違うのか。



 今年は制度開始後はじめて1年分の消費税が発生した。その結果、納税額が4倍になった事業者が見られたそうだ。



 例えば、年間売上330万円のフリーランスデザイナー、簡易課税5種、年間売上が毎年同額と仮定した場合、インボイス制度がなかった2022年は消費税は免税となるため0円。翌23年は課税期間が3ヶ月なので納付は15,000円になる。そして24年は一年間が課税期間となり、消費税の納付金として60,000円も支払うことになる。



 しかし、これでも緩和措置として「2割特例」が適用されている数字だ。緩和措置が無くなる2026年10月以降は、150,000円も消費税の納付が義務付けられる。売上330万円程度の事業者には重く、廃業も視野に入る。



 価格転嫁できればいいのだが、実際にそんな簡単にできるほど現実は甘くない。



 アンケート結果によると、消費税分等を全額価格転嫁できた登録事業者は5%に満たず、77%の事業者は価格転嫁することができなかった。



 そのため、4割超の登録事業者は「所得や貯蓄」を減らして補い、1割超は「借金」をして納税したというのが現実である。



 未登録事業者は「変わらずに取引ができている」が3割だが、「未登録を理由に値引きされた」と回答した事業者も約3割という結果になった。



 未登録を理由に取引停止になったのは僅か1割程度だが、取引先から明言のない“サイレント取引排除”を経験した未登録事業者は、約4事業者に1事業者と免税事業者のままでいても苦しい状況に陥っているのがわかる結果となった。





■政府の救済策は完全に空振り「全く役に立たない」





 インボイス制度を導入前に公正取引委員会、経済産業省は取引排除や値下げされた事業者へ補助金を出すなどの救済措置を出していた。しかしアンケート結果から見ると、全く役に立たなかったと断言できる。







 公正取引委員会に申し立てをした事業者は僅か2.8%。そもそも、約2割の事業者は「窓口があるのを知らなかった」と回答。インボイス制度の導入が決まってからの政府広報、国民への周知に問題があるとしか思えない結果である。



 相談しなかった主な理由は「取引先との関係性を懸念」が6割となっていた。この不況の最中で、新しい取引先を開拓する苦労を考えると、まずは波風立てず今の取引先とうまくやろう、ということだろう。



 補助金については、9割がIT導入補助金や相談窓口等の公的支援を使わなかったという結果になった。



 実際にインボイスコールセンター、公正取引委員会の相談窓口を利用した事業者からは「コールセンターに聞いても公正取引委員会に聞いても『よく相談してください』しか言われなかったのでもう利用する気にもならない」「個人経営に近い小さな法人に対してはどちらも全く役に立たない」と、各機関の塩対応に苦情があがっている。





■月収20万円なのに消費税8万5千円「払えるお金がない」





 当日、会場には建交労軽貨物ユニオン・執行委員長である高橋英晴氏が登壇。Amazonやメルカリ、ZOZO、Yahooオークションといった大手ECサービスで取り扱う荷物を中心に運搬する、軽貨物宅配事業者の現状について訴えた。



「今のように軽貨物を配送する個人事業主が増えたのは、皆さんの生活習慣が変わったのと、企業や雇用主としても、社員を雇うよりも個人事業主と契約を結んだ方が合理的だからです。社員なら社会保険料の支払いもありますし、労基法を守らないとダメですけど、業務委託契約なら働かせ放題ですし、支払う経費も社員一人より安く済みます。つまり使い勝手がいい。



働く側も、自分の意思で自由に勤務ができる点や体力があれば稼ぎやすいというメリットがあるので業務委託で仕事をしています。しかしインボイス制度導入後は稼ぐのが難しくなりました。



軽貨物ドライバーの令和6年度の平均年間売り上げは469万円です。ここから経費を引くと所得は約半分の230万円くらいになります。月に約20万円程度です。価格転嫁できればいいのですが、交渉すれば『明日から来なくていい』とか『自分から辞めると言ったのだから違約金を払え』などの無茶苦茶なことを言われてしまいます。



今年はインボイスによって1年分の消費税を収めることになりましたが、皆さん『こんな金額払えない』と嘆いている事業者ばかりです。軽貨物ドライバーの平均納付額は8万5000円です。大したことないと思う方もいるでしょうけど、月20万円で生活している彼らから見れば大金です。

払えるお金が残ってないんです。分割で払えないのか。払わずに対応するしかない。廃業まで考えると、驚きや悲鳴また諦めの声も聞かれました」



 軽貨物ドライバーはガソリン代など、世界的な価格高騰の影響を思い切り受ける職業である。さらにガソリン税、石油石炭税、消費税など、二重にも三重にも税金をむしり取られる。これ以上納税額が増えるか、物価上昇したら廃業も視野に入れている事業者も多いようだ。



 運送業界の人手不足はかねて叫ばれていたが、その危機的状況にインボイス制度が拍車をかけそうだ。



 建築業界もインボイスによって一人親方が青息吐息だという。東京土建一般労働組合からは税額負担額の上昇による負担増に悩まされているという。



 こうした現状を踏まえて、インボイス制度を考えるフリーランスの会は2割特例と8割控除の延長を請願を提出するに至った。このまま放置しておくと我々の生活にも影響を及ぼすかもしれない。



■アンケートには「死」を仄めかす文言が50件以上も





 アンケートには自由記入欄があり、8000件もの現場の悲痛な声がいくつも掲載されていた。

中には「死」を仄めかす文言もあり、50以上も確認できたという。



 そのうちの一部を転載して紹介する。



《インボイス登録しないと仕事貰えないのでしょうがなく登録しました。自分の仕事はもともと割のいい仕事では無い中、物価高の影響等により仕事が減り、有っても安く叩かれて収入が減り、借金が増え、それでもなんとかやって来たのですが、消費税まで持っていかれると廃業どころか首吊りも考えてしまいます。国は私を殺す気ですか。(長野県千曲市/40代/建設・土木・工業/フリーランス・個人事業主/400万円以上~600万円未満/登録済み)》(1万人実態調査に寄せられた声より引用)



《コロナ、エネルギー高騰、インボイス制度のトリプルパンチで毎日が地獄です。どうやって死のうかを毎日考えています。35年も続けたクリエイター業はもう終わりです。 (東京都品川区/50代/クリエイター/フリーランス・個人事業主/2000万円以上~5000万円未満/登録済み)》(1万人実態調査に寄せられた声より引用)



《免税事業者で収入が減り、生活が苦しくもう限界です。あとはもう首をくくるしかありません。1日も早くインボイスを廃止してください。 (東京都豊島区/30代/卸売・小売業/フリーランス・個人事業主/~200万円未満/未登録)》(1万人実態調査に寄せられた声より引用)



 収入の多寡や登録、未登録問わず、多くのフリーランスがインボイスによって苦しい生活を余儀なくされている。

まさにインボイスは「誰も幸せにしない制度」であると言える。参議院議員選挙でも9割以上が投票時に政党・候補者のインボイス制度に対するスタンスを重視するという。



 与党・自民党、公明党にとって厳しい結果になった。





■維新以外の野党は「インボイス廃止」でまとまった





 2022年に発足した「インボイス問題検討・超党派議員連盟」は、立憲民主党を中心に野党議員が結集。政府に対してインボイス制度の欠陥や、フリーランス保護の不十分さを指摘してきた。昨年11月に行われた総選挙では野党が多数派を形成しており、いよいよインボイス制度の廃止へ舵を切るかと思えたが、中心的存在だった立憲民主党から耳を疑う主張が出てきた。



 それは「食料品の消費税の税率を原則1年間に限って0%」という公約を発表したからだ。政府与党はインボイス導入の理由を「(消費税の)複数税率に対応するため」と答えてきた。もし立憲の公約が実現したらインボイスは存続となってしまう。この点について超党派議連の末松義規会長は次のように述べた。







「インボイス廃止は党の公約として変わりません。納税の方法は、免税事業者からの仕入れについて仕入税額控除を認める帳簿方式にすればインボイスの廃止が可能ですので進めていきます」



 また、今までSTOPインボイスの公開イベントには参加していたものの、「インボイス問題検討・超党派議員連盟」には議員がいなかった国民民主党からも参加者が出ており、日本維新の会以外全ての野党で「インボイス廃止」が公約となった。



 日本維新の会が「インボイス廃止」と言わない理由についてれいわ新選組のたがや亮議員からは以下のような見解が出てきた。



「実はインボイスは維新さんが旗振り役だったんです。だから今、こうやってフリーランスの皆さんが苦しんでいるのはわかっていても、自分達がやろうと呼びかけていたからか中々反対に回れないのだと思います。後、何人かの所属議員さんからは『共産党さんがいるのはちょっと…』とも聞きました」



 しかし、インボイス制度で苦しんでいるのは維新の支持者も同様である。インボイス反対までは難しくても、今回請願を提出した「2割特例と8割控除延長」には賛成して欲しいものだ。



取材・文:篁五郎



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