ソマD

(プロフィール)



1984年、8月29日、福岡県生まれ。18歳で芸人を志し、大阪のNSCに入学するが挫折。

その後、映像の専門学校を経て、都内のテレビ制作会社でADとして下積み。『劇的ビフォーアフター』(ABC・テレビ朝日系)や『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)などを経て、番組ディレクターになる。『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)、『有吉反省会』(日本テレビ系)、『ニューヨーク恋愛市場』(ABEMA)などを担当。2023年4月に独立し、映像制作会社「バリサン」を設立する。





 



■もう少し失敗に対して、寛容な世の中であってほしい



 みなさん、はじめまして、YouTube番組「アンジャッシュ渡部がいつか地上波のグルメ番組に出ることを夢見てロケハンする番組」(以下、渡部ロケハン)ディクレターのソマDことソマシュンスケです!



 さかのぼること2020年6月――。「週刊文春」に自身のスキャンダルを報じられたアンジャッシュ渡部建さんは、その後、1年7か月もの間、活動自粛を余儀なくされました。自粛が明けた2023年4月に「渡部ロケハン」はスタートしました。



 そもそも「渡部ロケハン」が始まった経緯ですが、22年11月にABEMAの配信番組「有田哲平の引退TV」に出演した渡部さんは、自身の芸能界引退について、きっぱりと否定するだけではなく、復帰について並々ならぬ思いを吐露したのです。そんな渡部さんの様子を目にした放送作家のカツオさんは、同じく放送作家の西村隆志さんと連名で、



 「このまま渡部の才能をウモレさせておくのは、テレビ界にとって、大損失。そこで! いつか渡部が、地上波グルメ番組に出ることを夢見て腕が鈍らないよう、こんな番組を提案する」、「知名度の低い町で、知名度の低い飲食店に行き勝手にロケハン!」







渡部さん企画 0302(※企画書の中身が見られます)





 このような基本コンセプトのもと、カツオさんと西村さんは、「渡部ロケハン」を企画。そして、ディレクターとして参加しませんか? と、当時の僕は、長年、勤務していたテレビ制作会社を辞めて、フリーランスになったばかりで、そのような打診があったのです。



 たった一度の過ちで、すべてを失った人が沈黙を経て、復活をとげる姿に共感する人は、きっと少なくないはず。

また、僕は、15年以上、テレビの仕事に携わってきて、テレビ業界の激動を目の当たりにしてきました。そんな中、いまは1回の失敗で、すべてが終わってしまう、ゲームオーバーになってしまう時代。もう少し失敗に対して、寛容な世の中であってほしい、という気持ちもありました。



 そして、何よりも、映像ディレクターとして、自身のスキャンダルにより、世間から袋叩きにされて、奈落の底に突き落とされた渡部さんが、ゼロから再起、復活する姿を記録したいという好奇心があったので、僕は快諾しました。





■「渡部ロケハン」はとりあえず1回の単発企画だった



 こうして「渡部ロケハン」は、2023年4月にスタート。



 群雄割拠のYouTube界において、この4月には「渡部ロケハン」は4年目に突入! これも、みなさんのご支援のおかげです! あらためてお礼申し上げます!!



 「渡部ロケハン」開始から、今日までの3年間で、僕たちが実際にロケハンした街は実に51か所、配信した動画本数は100本ショート動画も含めると779本です(いずれも4月13日時点)。過去に配信した動画を振り返ると、笑いあり、涙あり、実にさまざまなドラマがありました。裏方である僕が語るのは「自分でいいのか?」と大変、腰が引けてしまうのですが、実は、今回の連載は、ロケファン(※番組視聴者の愛称)である編集者のOさんから熱烈なラブコールを受けて、少しでも番組のためになるなら……と思い、せっかくのご縁なので引き受けさせていただきました! この連載では、「渡部ロケハン」の撮影秘話について、赤裸々に語っていきたいと思っています! 



 ということで、少し前置きが長くなりましたが、早速、今回は、2023年4月26日に配信された、記念すべき「渡部ロケハン」第1回目「堀切菖蒲園編」の思い出を振り返ろうと思います! 









――「渡部ロケハン」開始直後、渡部さんへの世間の風当たりもまだ強かったと思うが、正直なところ3年も続くと思っていた?





「実は、そもそもは、当時の番組スポンサーだったチルアウトさんからは、『とりあえず1回やってみましょう』という単発企画でした。僕自身も会社を辞めて、独立して0か月目。とにかく3回くらいできれば、3か月は食いつなげるかな……と。当時の僕は『渡部ロケハン』以外には仕事が決まっておらず、時間だけはあったので、たまたま、降って湧いた読み切りのチャンスに、フルスイングで臨む新人ジャンプ作家のような気持ちでした。



 ただ、テレビ以上にYouTubeの世界で、人気コンテンツになるのは、他力本願的なところもあるので、一球入魂、全身全霊で注力すれば、わずかな人でも深く刺さる番組にはなる、という根拠のない自信もありました。

テレビ制作で培ってきた映像やBGM、効果音など、細部にまで、こだわり抜けば、たとえ、番組が1回で終わったとしても、テレビと違って、YouTubeはアーカイブされるという側面もあるので、次につながるコンテンツにはなるはずだと。起業1年目、「自分の名刺となる番組作り」が必要と感じていたので、これまでの映像制作歴15年の思いをぶつけようと思ったんです。



 ちなみに余談ですが、『堀切菖蒲園編』は1回の動画が25分という尺ですが、『渡部ロケハン』開始当初は『テレビが深夜枠からゴールデンに昇格するように、YouTube→テレビ放送化』という野望もあったので、テレビの30分番組のフォーマットを想定していました。『頼む! TV局の局員の方々! どうか、この番組を地上波の電波に乗せてくれ!』という思いで作っていました。ただ、次第に、いまでこそ『渡部ロケハン』恒例のスタッフいじりなど、YouTubeならではの余白も増えていって、30分の縛りは、いつの間にかなくなっていました。いまは番組の尺にとらわれずに編集しています。それが、テレビ番組とは違うYouTubeの良さでもあるので」





――渡部さんと初対面したときの印象について





「初回のロケ当日(23年4月5日)、渡部さんは、オープニングを撮った公園・集合時間の10分前くらいに到着。公演で待機している僕たち撮影スタッフを見つけると、穏やかな表情を浮かべながら、「ははは」(笑)と自然と合流してくれた。ただ、緊張というよりかは、どこか萎縮しているような印象を持ちましたが、ものすごく柔らかい表情で、物腰も低く、年下の僕たちに敬語で接してくれたことを覚えています。手短に打ち合わせをして、ついに収録がスタート。『渡部ロケハン』のコンセプトでもある『渡部さんが一から汗をかいて再び地上波を目指す』という番組の趣旨についても、しっかり理解してくれていて、逆に、僕たち、撮影スタッフのほうが、アポなしロケは初めての経験ということで、ガチガチでしたね。そんな中、スタッフがうまく喋れなかったとき、渡部さんは、『ということは、要するに●●する、ということだね?』と、僕たちスタッフの拙さをさりげなくフォローしてくれました。

これは、編集作業のときに、渡部さんの喋りから使えば、スタッフのいい淀みなどはカットできるのですごく助かるんです(笑)。渡部さんは、とにかく飲み込みもはやく、さすが生き馬の目を抜く芸能界で、長いこと第一線で活躍されてきた秘訣を収録開始直後から垣間見ることができました」





――ソマさん自身、撮影に臨むうえで、具体的には、どんなふうに渡部さんを演出しようと考えていましたか?





「まさにゼロからの再出発を図る渡部さん、その真摯さ、誠実さを逃さないように素の表情は逃さない、そして、あの騒動をハレモノ扱いしないということ。また、渡部さんのツッコミを生かしたいということも考えていました。『その塩梅むずかしすぎるな』と前日から緊張していました。グルメロケの見せ方は、なんとなくイメージできていましたが、飲食店にたどりつくまでの過程の部分、そこが『渡部ロケハン』の見どころでもあるのですが、僕自身がタレントさんを連れて、アポなしロケをするような番組は、15年のキャリアの中でも未体験だったので、手探り状態、緊張の連続でした。



 ただ、渡部さんは長いブランクがありながらも、そのグルメ芸はまったく錆びていなかった。以前にTVで見ていた渡部さんのままで、とても胸が高鳴りながらロケをしていたことを覚えています。騎手の武豊さんが『誰が乗っても勝てると思わせる馬こそが、本当の名馬です』という発言をされていたことがあるのですが、その発言を思い出しました。僕も渡部さんが、いつか地上波に戻った時に『ただ撮っていただけ』と答えられればいいなと思っています」







■世間の大半は渡部のスキャンダルを気にしていなかった



――当時の街の人やお店の人の渡部さんに対する反応について





「スタート直後は、YouTubeの番組で、認知度もないため、街で聞き込みをしても『渡部ロケハン、何、それ?』という無関心な反応が多かったのですが、渡部さんに対しては、冷たい言葉をかける人は、まったくいませんでした。静観、騒動はあったけど、結局のところ、家庭の問題でしょ的な意見が多かった印象です。



 『なんか撮影やってるな……』、『とりあえずスマホで写真を撮っとこうかな(パシャパシャ)』といった感じで、街を行き交う方々は、遠めから、僕たちのことを眺めている。一方で、取材したお店は、好意的な方がほとんどでした。

お店に断られ続けるなど、撮れ高を心配していたので、あらためて渡部さんの交渉テクニックに驚かされたというか、想定していた以上の高打率でした。結局、渡部さんに限らず、スキャンダルを起こした有名人を徹底的に叩くのは、ほんの限られた一部の人たちで、世間は、渡部さんのスキャンダルについて、ほとんど気にしていない、ネット社会の現実を目の当たりにしたというか」





――「渡部ロケハン」の第1回目の場所が「堀切菖蒲園」に決まった背景について





「これは、僕がテレビ制作会社を辞めるときに、当時の上司が2人きりの送別会を開いてくれた場所が堀切菖蒲園だったんです。『渡部ロケハン』の仕事は、まだ決まっていなかったのですが、チェーン系の居酒屋が少なく、一瞬、入ることにためらいそうなディープな個人経営のお店が点在していて、面白そうな街だなと思った記憶がありました。また、堀切菖蒲園は、その周辺の街、あいみょんの『ハルノヒ』に出てくる北千住や『こち亀』で有名な『亀有』という下町に比べると、少し影が薄いところも、逆にポテンシャルを秘めてそうで魅力的だと思っていました。下見で再訪すると、少し路地裏に入ると雰囲気が変わって紫色のネオンが飛び込んでくるスナック通りなど、この景色と、反省中の渡部さんというマッチングは映えそうだと感じました。ぜひ、渡部さんのグルメ芸で堀切菖蒲園の魅力を発信してもらえたらと」







■「美味しい」以外の表現で美味しさを伝える



――ソマDから見た渡部さんのグルメ芸の真骨頂とは?





「ロケ現場での渡部さんの立ち居振る舞いは、僕たち、撮影スタッフにも絶妙なタイミングで的確なパス(アドバイス)を出してくれて、ここぞ、という場面では、自分でドリブルを仕掛けて、シュートまで決める、まさにファンタジスタだと思いました(笑)。自身の話術で番組を進行させ、しかも視聴者にそのときどきの状況を理解させる、たちまわりのうまさを実感しました。



 料理を褒める表現をひとつとっても、渡部さんは『美味しい』以外の表現で、美味しさを伝えるんです。たとえば、1軒目にお邪魔した町中華『タカノ』で、チャーハンとキクラゲの卵炒めを注文した渡部さんは『中華の教科書の1ページに載ってる』など、視聴者の想像力をかきたてるコメントはさすがだと思いました。また、渡部さんのトークは、制作サイドからすると『とにかく編集しやすい』に尽きます。編集のしやすいトークというのは、『カメラワークに合わせたトーク』と『映像編集しやすいトーク』という2つの側面があります。













 とにかく現場でカメラマンが撮りやすいように食べてくれるのです。

これは、ラーメンを食べるシーンに現れているのですが、最初、渡部さんがラーメンをすする姿を見て、1回にすする量が少ないので現場であれ? と思ったのですが、すぐにラーメンの食レポをしているのを見て、あえて素早くコメントするために『できるだけ多くを頬張らないようにしているんだ!』と気がつき、これが熟練の食レポなんだと。2軒目の焼き鳥屋さんでは、お店の外観から、そのお店の特徴を見抜いたり、外に喫煙スペースを見かけて『分煙を徹底している』という、細部にまで目を光らせている観察眼はさすがだと感じました」









――記念すべき「渡部ロケハン」第1回の「堀切菖蒲園編」公開後の視聴者の反応について





「配信後、最初の1週間は低空飛行でした(3日で1万回再生)。ただ、コメント欄は、ネガティブな書き込みはほとんどなく、9.5割位以上が激励や応援のメッセージでした。特に印象に残っているのが、『多分、渡部が思ってるほど、みんな渡部のことを嫌っていないよ」というコメント。僕自身、渡部さんのスキャンダルが出た直後、僕は以前に渡部さんも出演していた『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)も担当していたので、『これで終わった…』と思いましたが、そんな渡部さんのYouTube番組を担当することになり、復活劇を後押ししたい気持ちも強かったので、自分のことのようにうれしかったです。また、番組開始直後から、さまぁ~ずさん、オリエンタルラジオ中田敦彦さん、映画監督の三谷幸喜さんや大根仁さんなどが、自身のSNSなどで話題にしてくれて、背中を押してくれたこと。初速的にはイマイチだった『渡部ロケハン』を浮上させてくれる、きっかけにもなりました」





 ちなみに、先日、番組100回を記念して再度「堀切菖蒲園」で再ロケハン(4月24日配信予定)。第1回で振られたお店にもリベンジ! 果たして、その結果はいかに……。ぜひ、「渡部ロケハン」最新回の配信をお楽しみにお待ちください! そして、次回は最新回の振り返りを行いたいと思います!





★第2回につづく…





取材・構成:大崎量平

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