―「子どもたちを守り、日本の未来も変えましょう」
産みの親や養親希望者、そして子ども本人まで、養護児童に関わるさまざまな関係者の立場から、特別養子縁組を考えるとき、問題となるのは「子どもの権利」です。
『インターネット赤ちゃんポストが日本を救う』著:阪口源太、えらいてんちょう) ■子ども自身の権利のために
子どもが幸せに暮らせる未来へ向けて ~「子どもの権利」を考え...の画像はこちら >>

 産みの親や養親希望者、そして子ども本人まで、養護児童に関わるさまざまな関係者の立場から、特別養子縁組を考えるとき、共通して見えくるものは、「子どもの権利」という視点の欠如です。

親の場合にも、児童養護施設の場合にも「子どもを擁護する」ことを重視するあまり、子ども自身の権利と将来の幸福を見据えた成育という視点から離れてしまいがちになります。

 この問題は、国、児童相談所、児童養護施設、実親、養親など児童養護に関わるすべての関係者が現状を認識し、改善を試みることによってしか解決しません。

 まず始めに国が、先行する他先進国の状況を参照しながら、「子どもの権利」を意識した法改正を続けていく必要があります。その過程で、他国では一般的な特別養子縁組の制度内容や有用性が国内でもより認知され、広がっていくことが期待されます。

 養護を必要とする児童に最初に接する「児童相談所」は、その機能を十全に発揮できるよう、環境の改善を継続して図る必要があります。

 またこれまであっせんに尽力してきた、私たちのようなNPOへの支援に力を入れる必要性が出てくるかもしれません。

 一方で、これまで養護児童の成育を支えてきた「児童養護施設」は、今後も変わらず大切な軸のひとつです。たとえば一時的に実親と離れる必要が生じた子どもが安心して暮らせるセーフティネットとしての役割は、必要不可欠なものでしょう。

 そして、施設の満室状況が続いている現状が少しでも改善し、いま暮らしている子どもたちを職員が余裕を持って指導できる環境を整えていく上で、特別養子縁組の推進は大きく貢献すると考えられます。

 実親には、自治体やNPOをもっと活用し、生活が窮した場合には特別養子縁組や生活保護などの選択肢を視野に入れることで、親子両方の幸せを追求していってほしいと思います。特別養子縁組や生活保護という選択肢を認識し、覚悟を持って子どもとの関係を選ぶことが、その後の人生を支えていく大きな力になります。

 そして養親の役目は、養護児童が幸福に育っていくための環境をつくることです。

 子どもたちには、両親という不動の存在の下で安心感を育はぐくみ、それぞれに相応しい充実した人生を送ってほしい。ですから養親には多くが求められます。一般家庭と同様に物心両面から子どもを支えていくことはもちろん、実親ではないことを告げる、いわゆる「真実告知」など、高いハードルを背負っていることはたしかです。

 その時に必要となる、実親にも負けないほどの愛情。これこそが、ひとつの「制度」でしかない特別養子縁組に血を通わせる、最後のピースなのだと私は考えています。

■時代背景とともに成熟してきた海外の養子事情

 海外の養子事情についても紹介しておきたいと思います。

主に先進国では実親との関係を解消する養子縁組が日本と比べると、より一般的なものとして浸透しています。

 厚生労働省が平成29年に発表した資料(里親及び特別養子縁組の現状について)によれば、人口約3億1439万人のアメリカでは11 万9514人(平成24年度)の養子が成立しています。世界的に有名なハリウッド俳優の元夫婦が、複数の養子を迎えて育てているエピソードをご存知の方も多いかもしれません。アメリカの場合は1980年代にその契機が到来しました。それまでは同じ人種間での養子縁組が主流でしたが、自由主義や多文化主義の台頭とともに中国、ロシア、エチオピアなどを中心にした「国際養子」が急増します。

 当時の中国では一人っ子政策が施行されており、国民が男児を好んで選んだ結果、健康な女児が多く手放されたのです。

その結果としてアメリカでは、人種が異なる養親と養子の縁組が社会に広く受け入れられるようになりました。

 また、1980年に政府が導入した里親養子手当によって、子どもに恵まれない夫婦や単身者が国内で養子を迎えやすくなったことも追い風となりました。

 一方、人口約5608万人のイギリス(イングランドおよびウェールズのみ)では、4734人(平成23年度)の養子縁組が成立しています。背景には国による大々的な普及活動があり、テレビやラジオでのコマーシャル、ポスターの製作など日本では考えられないぐらい力を入れた宣伝が行われているのです。里親の研修や支援を行う民間機関にも国が多額の補助金を助成しており、あらゆる面から養子縁組をサポートする環境が整っています。そして日本では人口約1億2708万人に対して、成立が513人(平成26年度)という数字。

先進国のなかでは、圧倒的に少ない現状が続いています。

 

■子どもが幸せに暮らせる未来へ向けて

 1980年代のアメリカと同様に、今日の日本では不妊が社会問題のひとつとして注目を集めています。考え方を変えれば、国をはじめとした当事者がそれぞれに尽力することによって、養子縁組が増える契機となり得るのです。縁組が一組でも増えることが、日本の未来にとって喜ばしいことは間違いありません。

 そして同時に特別養子縁組は、子どもたちにとってスタートラインでしかありません。彼らが幸せに暮らしていくために、それを支える制度やアクションに、我々大人も当事者意識をもって取り組み続けるべきだと思います。

子どもたちを守り、日本の未来も変えましょう。そのために、一緒に声を上げていきましょう。