101作目の朝ドラ「スカーレット」も残すところひと月半となった。1月下旬には、ヒロインの夫・八郎とその弟子・三津の不倫未遂が描かれ、ハラハラした視聴者もいたようだ。
折りしも、現実世界では東出昌大・唐田えりかの不倫が騒がれていた時期。八郎と三津が接近していく展開には非難が飛び出し、ふたりが一線を越えることなく別れた結果には賞賛が寄せられたりした。現実の不倫騒ぎと重なったのは偶然とはいえ、メイン視聴者の関心を集めたうえで安心をもたらすという、この作品にとって幸運な流れだったといえる。
ちなみに、朝ドラと不倫という意味では「カーネーション」の成功例がある。戦争で夫を亡くしたヒロインが妻子ある職人と恋に落ち、想いを伝え合いながらも、やはり寸止めで関係を断ち切った。そのクライマックスとなった第17週は「隠しきれない恋」と題され、すべての週のなかで最高の視聴率を記録、職人役の綾野剛がブレイクを果たした。
ただ「スカーレット」の場合、ヒロインのモデルとされる陶芸家は、同じく陶芸家だった夫と離婚している。原因は夫と弟子の不倫であり、同業者夫婦ゆえの衝突だ。ドラマでは不倫を寸止めにした分、衝突のほうを強調することで乗り切った。いわば、恋愛仕様より芸術家仕様の話に舵を切ったわけだ。
ところが、そのまま突き進むかと思いきや、ヒロインが陶芸家として大化けする転機とそこからの飛躍については存外あっさりと描いていた。物足りなかった、という視聴者の声も見かけたものだ。
ではなぜ、こういうことになるかといえば、このドラマが他に描きたいものを持っているからだろう。それがよくわかったのが、ヒロインの妹・直子が同棲相手と一緒に家族を騙そうとする場面(第89話~90話)だ。妊娠したふりをしてお金を引き出そうとするのだが、企みが母にバレて、ケンカになる。
しかし、険悪だったのは1、2分で、その30秒後には、仲直り。三姉妹と母が縁側でいちごを食べて語らいながら、お金も用立ててやることにするのである。
この展開について、直子役の桜庭ななみはこう振り返っている。
「あの家族だから受け入れてくれるというか。普通怒られますけど、笑って、笑い飛ばしてくれたので」(2月7日「ごごナマ おいしい金曜日」)
たしかに、一事が万事、こうなのだ。それは父・常治が生きていた頃から同じだ。この男は自己愛と家族愛がごっちゃになりやすく、また、自分の人生が思い通りにいかない分、家族を支配しようとするタイプ。ええかっこしいなくせに、甲斐性がなく、酒を飲んでちゃぶ台をひっくり返しては借金ばかり作っている。
にもかかわらず、である。
実際のところ、こういう家族は少なくないのだろう。ただ、このドラマはそれを手放しで絶賛するわけではなく、常治が死んだときには直子にこんな台詞を言わせている。
「うちな、お父ちゃん、亡くなったこと、ほんまに悲しいで。(略)ほやけど、それとは別にな。これまで、お父ちゃんにああしろこうしろ、言われてきた。それがこれから先もう、なんも言われんで済む。(略)自由や、うちは自由を手に入れたんや」
とはいえ、そんな直子が今度は亡父の抜けた穴を埋めるように、前出の騒ぎを巻き起こすのだ。共依存的家族の遺伝子おそるべしというか、八郎が去っていったのもじつは、この家族システムに適応できなかったからではないかと思ってしまうほどである。
そんな「スカーレット」は友人関係も独特だ。ヒロインには照子と信作という幼馴染みがいて、一緒に柔道を習った子供の頃ならいざ知らず、大人になってもスキンシップをやめない。
また、最近では元女優のアンリという新キャラが登場。ヒロインとのあいだに、女同士の友情が芽生え始める。その矢先、突然いなくなり、心配したヒロインは再会時に怒鳴りながらアンリを抱擁(第114話)。という、いかにもな展開が見られた。
とまあ、このドラマが何より描きたいのは、こうした共依存的な家族愛だったり、スキンシップ精神あふれる腐れ縁の心地よさだったりするのではないか。そんな本質が最も象徴的に示されたのが、常治の手ぬぐいをめぐるエピソード(第14話)だ。
中学を出て大阪で女中奉公を始めるヒロインのため、送られてきた荷物のなかに、父の手ぬぐいが洗わずに入れてあり、そこには「くそうて腹立つさかい、負けるもんかと思うはずや」という励ましがこめられていた、というもの。それをかいでみて「くさい」と言いながらうれし泣きするヒロインの姿に、自分などはちょっと引いてしまったが、感動した人もいたことだろう。
なお、もうおわかりの人もいるだろうが、筆者はこうした共依存やスキンシップが好きではなく、たとえフィクションでもあまり見たくないほうだ。それでも、このドラマを毎回視聴しているのは、それ以外の魅力に惹かれるからである。
さて、話を不倫に戻すと「スカーレット」がそれを寸止めにしたのはやはり正解だった。共依存やスキンシップを好むドラマが本格的な不倫を描いたら、朝ドラのファンには到底受け入れがたいものになるはずだからだ。
というわけで、このドラマはいろいろ、バランスをうまくとっている。地味ながら安定していて、朝ドラらしい朝ドラだ。その分「スカーレット」というタイトルからイメージされる、燃えさかるような華には欠けるきらいもあるが。残りのひと月半でどうバランスをとるのか、しっかりと見届けたい。