ギターを装飾するはめ込み細工であるインレイ。天然の貝殻を組み合わせることで生まれる美しい工芸品。
絵を描くように、演奏を妨げないデザイン
インレイとは、大きな貝から小さなパーツを切り取り、それを張り合わせることで描く絵画。しかも光に反射する貝の特性が新たな美しさを生む。インレイはギターのヘッドストックやネック、ボディなど、あらゆる場所へ施すことが可能。その制作はデザインを描くところから始まる。

「どんなに美しいデザインであっても、楽器の演奏を邪魔しては意味がありません。例えば、指板の図案を作るときには、フレットやポジションマーカー(フレットの数を表す)などがしっかりその機能を果たせることを考慮しなければなりません。このフレットを避けながらモチーフを配置し、なめらかな線を生み出す図案を作るのは大変なんですよ」。
こう話すのは、インレイのカスタム制作を手掛ける加藤穂高さん。鉛筆を走らせ、手で図面を描くことにこだわりを持つ。

「細かい作業ですが、手で引くことが大事だと思っています。『あと数ミリ右に寄せよう』と線を引き直す時、フッと全体の構図を見るだけで、反射的に必要な線を必要な場所に引けるんです」。センス、感覚を活かすためにも手で描くことが重要なのだろう。
そして次は、素材となる貝を図案に沿って切る。使用するのは貝の内側。何層にも重なっている貝のどの部分をどこへ使うのか? この選択がもっとも時間のかかる作業だと話す。「今切っている時点の状態だけでなく、ギターに埋めて、磨いたあとにどう変わっていくのかも考えます。何種類もの貝を使い、隣り合わせた貝の色のバランスも考えます。

インレイに使われるのは、外国産のアワビ貝などの大きな貝だ。その貝、素材を選ぶところから加藤さんの仕事は始まっている。「貝は大きくなるほど、色の層がたくさんあるし、インレイに使用するための厚みもあるんです。しかし、最近では捕獲制限がかかる貝も増えて、希少価値が高まっています。僕が手掛けるインレイのほとんどがオーダーメイド。アーティストや楽器メーカーなどの要望やテーマに沿って、図案を引き、素材を選んでいきます」。
古い技術や技法、デザインから学ぶ

K 僕はステージではピアノを弾くだけですが、ギタリストのギターにインレイが施されていると、照明のライトがインレイに反射して、とても綺麗なんですよね。
加藤 光のない暗いところでも貝は綺麗な色を見せてくれるんですよ。
K インレイで使われる貝の色って、色味で言えばとてもシンプルですが、ひとつひとつが違う色だから、その結果、3Dのように立体的に見える。天然素材特有の魅力ですよね。

加藤 もともと音楽好きなんですよ。雑誌でインレイ特集を見て、「僕が求めていた美しさはこれだ。こういうものを作ってみたい」と思ったんです。でも、当時はまだ日本ではまだまだインレイの情報はなく、作り方もわからない。そんなのときに雑誌にも登場したレン・ファーガソンさんというインレイの達人が来日したのをきかっけに、「教えてください」とお願いして、アメリカ・モンタナ州へ渡り修業したんです。
K すごい執念ですね。
加藤 幸運だったと思っています。

K これから、どういう作品を作りたいと思っているんですか?
加藤 最近考えているのは、昔の技術や技法、デザインに目を向けて学びたいです。Kさんは琵琶という楽器を知っていますか?
K 古い弦楽器ですよね。三味線のような。
加藤 そうです。

K (写真を見ながら)これ、すごい綺麗な装飾ですね。この素材はもしかして、貝ですか?
加藤 そうです。1300年前の作品なのに、貝の輝きがそのまま残っているんです。すごい素材だなぁと改めて感じました。そしてこの螺旋細工の技法も非常に高度な技術だと言われているんですよ。以前、古いインレイ作品のレプリカを作ったんです。正直、とても苦労しました。
K 昔の技術を再現するのは、大変なんですか?
加藤 非常に。だからこそ、古い技術を勉強していきたいと思ったんです。
K 技術の継承が、作品の継承となり、いろんなものを未来へ残せるんですね。
●Kの視線
職人さんの腕、匠の存在が僕らアーティストを支えてくれる

ミュージシャンにとって、楽器はなくてはならない重要な存在です。楽器の素材をはじめ、自分の音作りをするうえで、たいていのミュージシャンは楽器に強いこだわりを持っています。楽器が慣らす音が、個性になっていくからです。しかし、インレイというのは実際音を変える技術ではないけれど、演奏者の気持ちに変化を生み出し、ステージの演出にも影響を及ぼしてくれるんです。そういう歌や音以外の部分で、アーティストを支えてくれる職人や匠の存在の大きさを改めて感じることができました。
HOTAKA CUSTOM INLAY
(ホタカ・カスタム・インレイ)
■TEL 059-271-6811
■サイト/http://hotakainlays.com/

PROFILE
K(ケイ)
1983年韓国ソウル生まれ。2005年デビューし、「Only Human」が大ヒット。以降もピアノ弾き語りのスタイルで、シンガーソングライターとして、J-POP界で活躍している。2014年タレントの関根麻里と結婚。昨年、第一子が生まれた。
Kオフィシャルサイト http://www.club-k.cc/
●番組情報●
「伝統の継承~笑顔に逢いに」
三重テレビ 毎土20:25~20:55
KBS京都 毎土10:30~11:00
びわ湖放送 毎土10:30~11:00
奈良テレビ 毎日 18:30~19:00
11月5日、6日放送予定「吉野手漉き和紙~文化財を守り継ぐ紙~」
11月12日、13日放送予定「心形刀流武芸形~剣に観る心の修養~」