そもそもニュートリノとは何か? ということからお話したいと思います。まずわたしたちの周りには極小の粒=原子(直径1億分の1センチ)があって、その原子の中心には陽子と中性子からなる原子核があります。さらに、その陽子と中性子を細かく見るとこれ以上分けられない素粒子にいきつきます。原子のまわりを回っている電子はそれ自体が素粒子です。ニュートリノはそういった小さな素粒子のひとつです。
ニュートリノっていうのは眼には見えないんですよ。
ニュートリノは、ほとんどの物を通り抜けることができるんだけど、完全に全てを通り抜けてしまうと探知できないんですよ。でもたまに通り抜けないで水とぶつかって反応することがあるんです。
日本人(小柴氏、梶田氏)がノーベル賞をとった研究では、巨大な水槽をつくって実験しました。水を貯めておくと、ニュートリノがそこでたまにぶつかって光に変換されるんです。その結果から「ニュートリノは水とぶつかって光になる」ということを計算上証明しました。そしてそれがどういうニュートリノかというのが分かる。ニュートリノには3種類(電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノ)ありますが、そのニュートリノが「振動」するというのを梶田先生は発見したのです。
ニュートリノが「振動」するとは?ひとことで言えば「振動」=「種類が変わる」ということです。
そもそも3種類のニュートリノが「変身する」っていうのは変な話なんですよ。素粒子は本来性質が決まっているものですから。これを人間に例えてみると、太郎くんが道を歩いていたら途中で花子さんに変わってまた最後、太郎くんに変わるっておかしいでしょう(笑)。でもそれが素粒子レベルでは起きているんです。
もうひとつ「振動」について視点を変えて説明してみましょう。
梶田先生が最初ニュートリノ振動の研究を発表された時、みんな「そんなものあるものか」と思っていました。でもそれをスーパーカミオカンデ(岐阜県の旧神岡鉱山内にある観測装置)という、カミオカンデがアップグレードされた装置で実証したんです。
「ニュートリノは役に立つのか?」は愚問じゃあこれがわたしたちの生活にどう役立つか? これは梶田先生が去年マスコミに対して散々言っていましたけど、「何の役にも立たない」。ただし、それは「いまは」ということで100年後どうなっているかは分からない。
こないだのオートファジーも、例えば将来的にはガンの研究に役立つ、パーキンソン病とか神経系の疾患に役立つと言われていますが、大隅(良典)先生はそれらの病気の研究をしていたわけではなく、酵母の基礎研究を長年続けてこられてきた。それがあって初めて将来の実用の可能性も見えてくるのです。
他には、電子の発見ですよね。
素粒子というのはある意味、宇宙の構成物質、宇宙を作っている一番小さな粒子じゃないですか。宇宙を構成している一番小さなもの。それを研究するというのは究極の研究ですよね。本当に基礎研究の中でも素粒子の研究ができるのは先進国に限られているんです。