今月発売された「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/3月9日号)の記事『ユニクロ疲弊する職場』が一部で話題となったが、今回は「ブラック企業」というと社名がよく挙がる会社のひとつ、ユニクロを運営するファーストリテイリングを取り上げる。私自身、過去に取引先として接していたことがあるうえ、周囲にも同社にお世話になっている方がおり、日々さまざまな実情を耳にしている。
同社の場合、難しいのは「店舗」と「本社」では労働環境に違いがあることと、同じ店舗勤務だとしても、それが「アルバイト」なのか「一般社員」か、さらには「店長」なのかによって、ブラック度合の感じ方が違うという事実があることだ。
では実際にどんな点がブラックで、どんな点がいい会社と認識されているのか、以下に検証していこう。
【ブラックな面】
(1)残業しなければ終わらないのに、「残業不可」のお達しが……
業務量が多いのは成長企業の常だ。ハードワークでも残業代がキッチリ支払われるならなんら問題ないのだが、同社の場合は一癖ある。
まず、「月240時間以上の労働は不可」と厳命されている。これだけ見れば残業抑止のために手を打っているように感じるのだが、実はそうではなく、仕事量は多いままで、「気合でやり切れ!」という扱いになっているのだ。しかも、半期に一度の業務評価で設定する「残業なし」とか「有給全消化」といった目標をクリアできないと評価が下がり、ボーナスも目減りしてしまう。
するとどうなるか。
さらに、本社勤務の場合は朝7時出社だ。「早く帰って、プライベートな時間を有効に使おう」という発想からスタートしたものだが、仕事量が変わらずに残業せざるを得ない中で、出勤時間が繰り上がるのは常識的に考えてキツいものである。いかにも理不尽な環境といえよう。
(2)現場の責任が重い
同社の経営方針は「全員経営」だ。全員が経営者の自覚をもって、利益や売上にコミットしろという意識が徹底している。店長ならば、担当する売上規模的にはちょっとした中小企業を経営するような感覚であるから、それは理解できる。しかし同社では本社勤務のスタッフにまでその意識を徹底させていて、必ず誰かに「責任をとらせる」のだ。
「誰かが責任を負う」という意識そのものは大切だが、それが「魔女狩り」のようになってしまうなら問題だ。経営の過程で決めることには、多くの人間がかかわり、会議で議論がなされ、最終的に経営者が承認するものだ。
しかし、同社で売れない商品を出してしまった場合、社内でつるし上げを食らうのは、一番下っ端のデザイナーであり、マーチャンダイザーだったりするのだ。
(3)TOEIC750点以上を半年で達成できないと、E-ラーニングの授業料を給与天引き
本社勤務で日々海外業務に従事する人ならよいだろうが、アルバイトからたたき上げの現場社員にも同じ基準を押し付けることに意味があるのだろうか。
(4)課題図書の読書感想文提出。図書代は給与から天引き、感想文提出できないと面談。ほかには、毎週の朝礼で「緊張感をもて」「プレッシャーを感じろ」と追い立てられる。
仕事でもプライベートでも追い立てられ、精神的に参ってしまう社員も多い。
【フォローできる面】
(1)顧客第一志向の、妥協ないモノづくり
従業員にとってブラックな会社だとしても、「顧客にとっては優良企業」といえる。「顧客第一」に本気で取り組み、モノづくりには妥協がない。定番商品でも常に改善を施し、毎年バージョンアップし続けている。
(2)労務管理と品質管理、コスト管理を徹底した経営
ユニクロは「デフレだから低価格化して儲かっている」わけではない。多くの会社で徹底できていない「流通の基本を忠実に実践し、工夫を施すことで価格に反映させる」ことを地道にやり続けているのだ。具体的には、型をなるべく少なくし、色とサイズの充実を図り、それによって生産コストを下げて価格に反映させる。もちろん、その他縫製や素材の発注などにも数限りない工夫と苦労がある。単なる値引きをするだけなら、アパレルで50%近い粗利益率を達成できるわけがないのである。
【まとめ】
同社は、「従業員」にとってはブラックな面があるかもしれないが、「経営者」や「株主」にとっては理想的な企業といえる。「ワンマン」とか「厳しさ」は、裏返して見れば立派な「リーダーシップ」「労務管理」「品質管理」「コスト管理」につながる。
同社の経営理念、柳井氏のビジョンに共感し、プレッシャーのある環境の中でも「日本発の最高にいいモノを世界に発信したい」という熱いマインドを持つ人にとっては最高の環境だろう。
(文=新田 龍/ブラック企業アナリスト ヴィベアータ代表取締役)
【今号のフォロー企業】ファーストリテイリング
ハードワーク度 ★★★★☆
市場価値が高まる度 ☆☆☆☆★
(☆=優良度 ★=ブラック度 5段階評価中)
※本稿は、新田龍氏のメルマガ「ブログには書けない、大企業のブラックな実態」から抜粋したコンテンツです。
【筆者プロフィール】
「ブラック企業ランキング」ワースト企業で事業企画、コンサルタント、新卒採用担当を歴任。日本で唯一の「ブラック企業の専門家」として、TVや各種メディアでのコメンテーター、講演、執筆実績多数。