「知られざるCAというお仕事の裏側や難しさ、魅力とは?」
「接客、クレーム対応、“トクする”コミュニケーションの極意とは?」
「他人を頼りにして成果を出す仕事術、人材育成、チームマネジメントの秘訣とは?」
などについて聞いた。
--里岡さんのクレーム対応のコツは?
里岡美津奈さん(以下、里岡) 何かひとつは具体的な提案をお返しすることですね。自分がクレームを言うときのことを振り返ると、ただ文句を言いたいだけではないんですよね。明確に変えてほしい何かがある。また謝罪を望んでいるわけでもない。謝られずとも、変えてほしいと求めていることがかなえば、それでいいんですよね。
自分がそうですから、それをお客様にも置き換えて考えるんです。私だったら、自分の要求を少しでもくみ取ってほしい。だから、私は受けたクレームに対しても、そのように対応するんです。
機内という限られた環境の中では、なんともならないことが多いのですが、それでも具体的なことを何かひとつご提案させていただくようにしていました。
--例えば具体的に、どのようなクレーム対応をされましたか? 実例をお聞かせください。
里岡 「前の席の方がシートをリクライニングされた。自分の座席が狭い。
そこで私は「はっきりと言わせていただいても、よろしいでしょうか?」ということで、こう申し上げました。
「お客様、物事にはすべて矛盾や条件がございますよね。通路側のお客様であれば、お手洗いにお立ちになる際、誰にも気を使わずに済む。ただし、外の景色をご覧になることはできません。一方、窓側のお客様はお手洗いの際に、隣のお客様に気を使わなければならない。けれども、外の景色をご覧になることはできますよね」と。すると「そうだ」と。そのお客様の求められている回答は、それだったようなんです。
ですから、何を求めていらっしゃるかを見極めて返すことが大切なんだと学びました。そんな禅問答のようなことばかりですから、クレームのご対応というのは(笑)。
--なかには、ただ文句を言いたいだけの困った方もいらっしゃるのでは?
里岡 そういったうっぷんを晴らしたいだけの方は、相手を見てますから、私のような、ひとつ言えば10倍返ってくるような(笑)タイプのCAに言ってこられることは、まずありません(笑)。やさしそうな、かわいらしい感じのCAにしか言ってこられませんよ。
--クレーム対応の際、どのような態度で臨まれますか?
里岡 にこやかに、しかし毅然と向かいますね。私たちCAは女性警察官ではありませんから、取り締まるわけではない。ただフライトというのは、私の舞台なんです。どなたでも楽しんでいただきたい。楽しめない方がいらしたら、楽しめないなりに楽しんでいただこうと思う。ですから、決して怖い顔をする必要はないんですよ。にこやかに対応すればいい。
ただし、機内という限られたステージですから、地上とは違って物品なども限られます。その中で、ご納得いただかなくてはならない。ですから、時には毅然とした態度で臨まざるを得ない事例もあるわけです。周りの秩序というものがありますから、時にはひとりを捨ててでも周りを救わなければならない。そういったジャッジも必要になってくるんです。
例えば航空法に抵触するような機内での迷惑行為は犯罪ですから、それをなさった場合には、毅然とした態度で臨まなければなりません。はっきりと申し上げるべきことは申し上げますし、着陸時に警察官を呼ぶことになります。ですが24年間の経験の中で、実際に警察を呼ばなければならないという事態に陥ったことは、幸いありませんでしたね。
--一般のビジネスパーソンも、クレーム対応の場面に遭遇することは、大なり小なりあるかと思います。彼らがすぐに使えるテクニックがあれば、教えてください。
里岡 声、表情、言葉。それら三位一体で受け答えすることですね。
また、いかに気持ちよくお話しいただくかですから、途中で口を挟まないこと。そして、いい合いの手を打って、気持ちよくお話しいただくこと。言いたいことを言えて、相手に伝わった、という感覚を持たれれば納得されるわけですから、そうお感じいただくことが大事なんですよ。わかっているはず、伝わっているはずではなく、「こちらに伝わっていますよ。わかっていますよ」というのが、相手にもわかるように話を聞くんです。例えば「おっしゃりたいことは、こういうことですね」と復唱する。そこで、お互いの認識の一致を図るわけです。
--クレーム対応をはじめとした、人の話の聞き方ですが、男女差はあるでしょうか?
里岡 ありますね。どちらかというと、話を聞くのは女性のほうが得意なのではないでしょうか。
また逆に黙って聞いているだけで、相手に「本当に聞いているのか?」という不満を抱かせてしまったり。人の話を聞くとき、男性は用件から聞きたいもの。ですが、女性は自身が「聞いてくれればそれでいい」ところがあるので、相手にもうまい相づちを打ちつつ、そのように対応するんですよね。
--すると、クレームを言う側としては、男性と女性、いずれに言うといいかというと……。
里岡 私が言う側なら、女性に言うでしょうね。女性のほうが共感能力が高いですから、相手の気持ちをくんでから解決しようとする。でも男性は、まず解決しようとしますから、言う側は共感されていないと感じて、心が置いてけぼりになってしまうんです。
また女性は個として対応する傾向にありますが、男性はよきにつけあしきにつけ、集団に忠実。具体的にどういう言葉に表れるかというと、女性は「私は~」。
--里岡さんはチーフパーサーとしてCAの方々を取りまとめたり、また人材育成もされてきたかと思います。人材育成の際に、最も大切にされてきたことは?
里岡 人の上に立って指導する立場になると、「育てよう」と気負うあまりに、強い態度に出てしまう女性も多く見受けられますよね。
若くして役職に就いた方などは特にそういう傾向があって、でも残念なことに、それでは周りが引いてしまうんですよ。ですから、私は人の上に立つ身になってからでも、苦手なことは得意な人に頼むようにしていました。
--上の立場でありながら、自分の苦手なことを人に頼むというのは抵抗がある、うまくできないという人も多いと思います。
里岡 恥ずかしいという意識があるようですね。私はそもそもできないことはできないこととして自覚しているし、いろんな方に助けられてきた人生でしたから、気負うことなんてありませんでした。人に頼まない、頼めない方って、私からすると、「そんなに自信があるんだ」って思ってしまいますね。優等生タイプに多いのかな。気負って、周りが離れてしまい、みんなついてこないし、仕事もおもしろくない……という悪いスパイラルに入ってしまっている方もいましたね。
--そうならないために大事なことはなんでしょうか?
里岡 「自分という人間は、自分以上でも以下でもないことを認識する」ことだと、私は考えています。たとえなんらかの役職に就いたとしても、経験したことのないシチュエーションだってあるはず。やっていないことをやれと言われても酷な話ですし、周りだって、実はそこまでは求めていないもの。その役職にあるからといって、すべてがこなせるとは誰も思っていないわけですよ。
だから気負う必要なんて何もなくて、できないことがあっても、それは自分にはそこまでのキャリアしかないから仕方がないんだと。ただそれでもこの役職にあるということは、背負わなければならないもの、担わなければいけないこともある。でも、誰しも当然できることとできないことがあるよね、だからみんな助けてね、と。そう考えれば、苦手なことを人に頼るのなんて、なんら難しいことではないと思います。
--先ほど、里岡さんご自身も、苦手なことは積極的に人を頼るとおっしゃいましたよね。目下の方に対しても、そうされていたのですか?
里岡 もちろんです。チーフパーサーになろうが、どんなに上の立場になろうが、「苦手なんだけれど、協力してもらえる?」というお願いはしてきましたね。
だって、私よりいいものを持っているCAがほかにいるのならば、そこは感情ではありませんから。
トップに立つと、なんでも自分でやらなければとか、すべて自分でこなせなければ、このポジションにいてはいけないのではないかとか思ってしまう人もいるようですが、いいんですよ。
自分がそのポジションを選んだわけではなく、周りが選んでくれたんです。それだけの理由があるはずなんですから、「いいんだ、ここにいて」と当然思っていいんです。
--人の上に立つ者、CAであればチーフパーサーなどになるのだと思いますが、そういった立場に立った時に大切なこととはなんでしょうか?
里岡 チーフパーサーとはなんのためにいるのかという原点に立ち返って考えれば、チーフパーサーは全体を把握しなければなりません。機内でお客様の過ごされる時間の演出をするわけですから、自分に余裕がなければなりませんよね。いっぱいいっぱいになってしまうと、いい仕事ができないんです。ましてや、お客様は毎回違う方が搭乗されているのですから、自分が手いっぱいだと、何かあったときに慌ててしまうんですよね。
自分があれをやらなきゃ、これもやらなきゃではなく、できるだけ自分にアイドルタイムをつくること。それが、トータルで見たサービスのクオリティを向上させることにつながります。
チーフパーサーという立場や仕事の難しさは、監督であり、プレイヤーであること。そこの難しさはありますね。プレイヤーになりすぎるリスクがあるんです。チーフパーサーというのは、動きながら全体を把握しなければなりませんから。
--具体的に、どのような難しさがあるのでしょうか?
里岡 「イケてない」と言われるCAがメンバーにいると、ほかのCAたちが、私にそれを言ってくるんですよね。「なにがイケてないの?」と聞くと、「あれもダメ、これもダメ」と、いろいろと言ってくる。「そうなんだ」と、とりあえず聞いておきます。じゃあアピアランスは? と尋ねると、「それは良いです」と返ってくる。そしたら、私はこう答えるんです。「見た目が良いなら十分でしょ」って。
苦手なところは得意な人の隣について勉強してもらって、得意なことを生かせるようなポジショニングを心がけていたのですが、彼女はどうも得意なところはなさそう。見た目の印象が良いのであれば、ドアサイドでお客様をとびっきりの笑顔でお出迎えしてもらいましょうと! それだけでも十分貢献していますよ。
美しさって、絶対に人を癒やしますから。見た目が美しいというのは、私にないリソース。ならば、それを生かしてもらおうと。あとで「お客様、あなたの顔を見てうれしそうだったわね」とでも伝えて自信を持ってもらうことも大事ですね。まぁ自信を持たせすぎると、それもそれで厄介ではあるんですが(笑)。でも自分も役に立っていると感じるのは、やりがいにつながりますからね。あからさまに期待しているという感じを出すのではなく、自然に居場所をつくっていくことが大事です。
--CAといえば女性ばかりの社会。女性同士の関係って、なかなか難しいところもありますよね。なかには、居場所のない思いをしている方もいらしたのではないでしょうか?
里岡 仲間に入りづらい人、スタンドアローンで頑張っている人ももちろんいますし、見ていればそれはわかります。そういう方って誰にも相談しないんですよね。ひとりでやろうとしてしまう。だから周りも彼女が何をやっているのかがわからなくて、助けようにも助けられないわけですよ。それで手いっぱいになってしまい、「○○を忘れられた」といったクレームをお客様からいただくことになってしまう。
お客様の視点から見て、クルーの関係がよくないというのは絶対にいけません。仕事のやりがいを含めて、みんなに楽しかったと言ってほしい。私の考える「おもてなし」というのは、お客様に対してはもちろんのこと、クルーに対してのものでもあるんですよ。
●コミュニケーション、人付き合いの極意--コミュニケーションや人付き合いで、心がけていらっしゃることはありますか?
里岡 たとえ気の進まないお誘いであっても、拒絶から入らないことですね。すべてのチャンスは「NO」の一言で二度とやってこないものですから。気の進まないお誘いでも、何か工夫することによって最適化して乗れるなら乗るし、乗れないなら乗らない。例えば「この人には興味がない。けれど、この人のやっていることには興味がある。でも、ふたりきりにはなりたくないな」という場合。ならば、会うシチュエーションを工夫してみる。誰かを一緒に連れて行くとかね。
--それがご著書『誰から~』にも書かれていた、人と運を引き寄せるということにつながるのでしょうか?
里岡 そうですね。だって、人生の時間なんて限られているんですもの。欲しいものだけ、欲しい時に手に入れば、それが一番じゃありませんか。そういうことをお伝えしているのが、私の主宰する「美津奈塾」ですね。幸運ではなく強運を手に入れましょう、と。幸運は清く正しく美しく生きてさえいれば、ある程度手に入るんですよ。それに対し、強運は一生もので、かつ手に入れるノウハウがあるんですよ。そういう生き方のヒントをお伝えしています。
--例えば一例として、どのようなことが挙げられますか?
里岡 勘や本能、感性による導きですね。体って、いわば人生を味わうための器だと思うんです。そして勘や本能、感性のアンテナって、それまでの経験値によって、引っかかるものが形成されている。だから「私」と「五感」の信頼関係に忠実になること。忠実にあろうとすれば、それはちゃんとした答えを出そうとするはずなんですよ。
よって、いらないものは淘汰されてゆく。だから、人と運は引き寄せられるんです。私だって、いい大学を出たわけでも、何か人より秀でたものを持っているわけでもありません。それでもそこそこ恵まれているのは、強運体質だからだと思うんですよね。そして、それは習慣によってつくられていると考えているんですよ。
--「習慣」について、詳しくお聞かせいただけますか?
里岡 私は「毎日が自分をつくる」と考えています。仕事でもなんでも、とっさのときにこそ、その人の真価が問われるものだと思います。そんなときには、常に身についているものしか出ませんから。ここだけ何か取り繕わなきゃと考えていても、それはとっさのときには出ないものでしょう。
いい習慣を身につけるには、毎日の生活が大事だと思います。何を着るか、何を食べるか、どこで生活するか……そういったことすべてです。なんでもおなかいっぱいにさえなればいいとか、とりあえずなんでも着ていればいいとかでは習慣は身につきません。
また一方で、自分だけの時間を大事にすること。私などは、一歩外に出れば人様に見られる仕事です。みなさんからマナーなども期待される立場。でも家の中では好きなように振る舞える。好きなものを身につけられる。そうやって思いきり自分だけの時間を楽しむこと。そうすることで、またセンスが磨かれていきますから。
●人生に対する考え方--里岡さんは、41歳の時に乳がんに罹られたのですよね。それも人生への考え方や価値観、生き方を見直すような転機でもあったのでしょうか?
里岡 がんをはじめ、大病を患った時って「なんで自分が」と思われる方が多いそうです。ですが、私は乳がんが判明した時に、まったくそうは思わなかったんですよね。これまでの人生でも、まったくそういった思いに至ったことはありません。「なんで私が」そんな思いに駆られてみたところで、いったい何が生まれるでしょうか。いまどき珍しい病気でもありませんし、まぁちょっと早くないか? とは思いましたけれど(笑)、いきなり死ぬこともありませんからね。
友人にも言われたんです。彼女は心臓の手術をしたんですが、「あなたは死ぬまでの時間があるからいいじゃない。心臓発作なんて気付いたら死んでるのよ(笑)。あなたは死ぬまで準備ができるんだから」って。
--当人としては、とても苦しい時でしょうが、前進あるのみなのですね。
里岡 ただがんのような病気になってしまうと、本人よりも親が苦しみますよね。その姿がまた苦しい。「そんな体に生んでしまってごめんね」なんて言われてしまって、そんなこと一切思っていないのに……。私の場合、生活習慣病のようなものだったと思いました。
だから、術後ドクターから「もう心配ありません。今までと同じ生活を送って大丈夫ですよ」と言われたんですが、私はまた同じ生活なんてしていたら、またきっとがんになってしまうと思ったんです。ただでさえ一度罹患して、ハイリスクなわけですしね。ですから、以来、自分の生活をがらっと変えました。もうすぐにです。
「いつか」は自分で決めない限り、永久に訪れないもの。もしいつか自分がこれくらい成功したら、その時にはあれをやろう、なんて考えていたって、「もうそろそろいいのでは? あなた成功していますよ」なんて誰も言ってくれませんからね。
ですから「今を生きる」こと。未来なんてあるかどうかわかりません。ましてや過去を生きるなんて愚の骨頂。今の積み重ねが人生なのですからエンジョイしなくてどうするというんでしょう。今が楽しければ、過去も未来も楽しい。逆に今満足していなければ、過去も未来も満足できるものにはならないはず。「今を生きる」ことに集中することですね。
--最後に、読者へ向けてメッセージをお願いいたします。
里岡 日本人男性には、もっとチャーミングな男性になってほしいですね。チャーミングさというのは、気の利いたジョークですとか、ウィットに富んだユーモア、それから笑顔や、心の余裕といったものですとか。残念ながら、それらが感じられる方が少ないのです。そのためには、もっと人生を楽しんでほしいと思います。内向きではなくアクティブに楽しむことで、体も精神もつくられていきますから。
今は、女性のほうがよくチャレンジしているように思いますね。失恋も、女性のほうがたくさんしているんじゃないかな。男性は自分から「好き」とも言わないから、失恋もしない。このままだと、日本人女性は外国人男性にみんな持っていかれちゃいますよ(笑)。彼らはシンプルでわかりやすいですから。
若手ビジネスパーソンの男性たちって、言葉の出し惜しみをしすぎだと思うんですよね。「思ったことは、はっきり言いなさい」って、私なんかは思っちゃう(笑)。経験値がないから、努力して何かを勝ち得たという経験と、それに伴う自信というものに欠けるのでしょうか。失敗という体験だって大事なものですから、いいんですよ。
恋愛において無駄なことってないけれど、もじもじとしている草食系男子などを見ていると、それでもやはり無駄なことは要らないと思ってしまいますね(笑)。ああだこうだと理屈をこねる前に、まず感情を出そうよって。多くの男性に、最近はそういった傾向が見られるんですが、たまに集中してモテる男性っていますよね。彼らは一様にチャーミングなんですよ。その点だけがもったいなく思えてしまうので、読者のみなさんには、ぜひともチャーミングな男性を目指してほしいですね。
(構成=大川内麻里)
プロフィール
●里岡美津奈(さとおか・みつな)
24年間に渡り、ANA国内線、国際線のチーフパーサーとして、またそのうちの15年間は天皇皇后両陛下、英国元首相マーガレット・サッチャーをはじめとする、各国の国家元首のVIP特別機の担当として活躍。2010年のANA退職後は、それまでの経験を生かし、企業や病院で人財育成のコンサルタントとして「コミュニケーションの素晴らしい世界」を提案。また個人のクライアント向けに“パーソナルクオリティーコンサルタント”として個人の持つ能力、魅力をさまざまな分野において遺憾なく発揮できる人財育成を行っている。
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