「さすが東村アキコ!」と言いたくなるインパクト大のタイトルとコンセプトで、放送前から注目度の高かった『偽装不倫』(日本テレビ系)。第1話の視聴率は10.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録し、「好スタート」という論調の記事が飛び交っている。

 しかし、今やドラマにおける視聴率は参考程度でしかなく、当の日本テレビも「広告効果の高い若年層にどれだけ見てもらえているか」を優先しているようだ。だからこそ、ネット上の声が気になるのだが、まさに賛否両論だった。

 さらに気がかりなのは、“賛”のコメントが「普通におもしろかった」「次回も見てみよう」という冷静なものだった一方、“否”のコメントが「最初から違和感があった」「すごく物足りなさを感じる」という強烈なものだったこと。

“否”の声が強烈だった理由には、どんなものが考えられるのだろうか。

番宣で幸せエピソードを話しすぎた

“否”のコメントでもっとも多かったのは、「現実の杏が幸せすぎて、婚活が失敗続きの32歳に見えない」という声。杏は同作の番宣で多くのバラエティに出演してきたが、そこで3児の子育てに励むエピソードを何度となく話していた。

 もちろん杏に非はないのだが、番宣に出すぎた上に、幸せエピソードに頼りすぎたバラエティの構成が弊害になっているのは間違いない。つまり、ドラマが始まる前に、視聴者の頭には幸せオーラを振りまく杏の姿が刷り込まれてしまったのだ。番宣出演は仕方がないにしても、やはり昭和の俳優たちがそうだったように、「できるだけ家族の話はしない」という対応が賢明なのだろう。

「現実の杏が幸せすぎる」という“否”の声には、「杏はラブコメが似合うはずなのに、今回はダメだった」というものもあった。これは同じラブコメで好評を博した2015年の『デート ~恋とはどんなものかしら』(フジテレビ系)のことを言いたいのではないか。

 当時は東出昌大との結婚を発表したばかりであり、まだ現在ほどの幸せオーラはなかった。

わずか4年の間に杏を見る視聴者のイメージが大きく変わったのだろう。

仲間由紀恵の不倫こそ背徳感

“否”のコメントで、それ以上に深刻さを感じさせたのは、「メインの2人に色気がなくてドキドキしなかった」という声。偽装ではあるが不倫を扱ったドラマであり、初回からキスシーンもあった。それにもかかわらず、「色気がない」「ドキドキしない」という声が少なくなかった現実は深刻だ。

 杏は前述したように幸せオーラを漂わせている上に、もともと色気のあるキャラクターではない。一方の宮沢氷魚も二世俳優らしい品の良さがあり、「僕と不倫しませんか?」のセリフに危険な香りはなかった。たとえば、上戸彩と斎藤工が背徳感を醸し出して熱狂的な支持を集めた『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ系)と比べたら、色気やドキドキの差は歴然としている。

 また、残念ながら“否”の声には、「杏はいいけど、相手役の子が微妙」「もう少し演技のできる人で見たかった」という宮沢に対するものも目立った。宮沢はフレッシュさが抜群である半面、不倫という作品テーマを担う最重要人物を演じる上で、経験の浅さを感じてしまうのだろう。

 近年、高橋一生、田中圭、中村倫也らバイプレーヤーとして実績十分の俳優たちがブレイクしている。また、今年のブレイク俳優である吉沢亮と横浜流星も若手ながらすでに多くの出演作を持ち、見る側も顔を知っている人がそれなりにいた。その点、宮沢を見る視聴者は、過去の出演作ではなく、まだ「宮沢和史の息子」というイメージにとどまっている段階だけに、俳優としての魅力を感じるところまでいかないのではないか。

 ただ、希望を抱かせるのは、正真正銘の不倫妻を演じる仲間由紀恵。“否”の声には、「こっちの不倫のほうが気になる」という声が多かったのだ。キャリアウーマンという表の顔、優しいイケメンのできすぎた夫、浮気相手の若いボクサーなど、仲間のほうが圧倒的に背徳感は濃い。「仲間の不倫で視聴者に色気とドキドキを感じさせながら、徐々に杏と宮沢の恋を盛り上げていく」という形が現実的な落としどころだろう。

“否”の声を変えるのは“杏”の出来次第

 そして、“否”の声で最後に忘れてはいけないのは、原作漫画からの設定変更。

 原作では、伴野丈(宮沢氷魚)の役は韓国人の設定であり、「だから女性に歯の浮くような言葉をかけられるし、婚活疲れのアラサー女性はそれになびいてしまう」という展開に説得力があったからだ。

 同様に、濱鐘子(杏)の旅先も原作のソウルから博多に変更。「出会ったその日に結ばれる」というヒロインの貞操観念がギリギリのところで受け入れられていたのは「異国だから」であり、原作を読んでいない人の「軽い女にしか見えない」という声も目立った。

 よく見ると、“否”と“杏”の文字は驚くほど似ている。“否”の声を変えられるとしたら、“杏”が幸せなイメージを塗り替える突き抜けた演技を見せるしかないだろう。東村アキコの原作漫画は間違いなくおもしろいし、相手役は発展途上の若手だけに、どうしても杏にかかる責任は重くなっていく。

 2話の注目は、やはり杏がどれだけ視聴者を引き込み、共感を集められるか。

ドラマ自体の成功も杏にかかっているのは言うまでもない。

(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)

●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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