13万部のベストセラーになった『医者の本音』(SBクリエイティブ、2018年8月発売)の第2弾、『がん外科医の本音』(同)を今年6月に上梓した外科医の中山祐次郎氏(39歳/総合南東北病院外科医長)。日本人の2人に1人ががんに罹患する現在、多くの情報があふれているなかで「おそらく私以外に書ける人はいない」との思いで本書を綴ったという。
――そもそもですが、「がん」はほかの病気とどのように違うのでしょうか。
中山祐次郎氏(以下、中山) がんはほかの病気と違う「悪性」の疾患で、放っておくと、ほぼ亡くなってしまいます。医療技術の進歩で少しずつ治るようになってきましたが、克服できたとは、まだ到底言えない状況です。たとえば、膵臓がんは過去20年で生命予後はほとんど改善していません。ほかのがんでも、ステージ4となれば完治するのはまだまだ難しい。
一方で、がんという病気はかかった方が急に亡くなることはあまりなく、発覚から亡くなるまでに時間があるので、自分の人生を総括したり遺される人への準備ができたりという面はあります。
――もしがんとわかったら、何をしたらいいのでしょうか。
中山 まずは担当医師の話を聞くことになると思いますが、それだけではなく、自分でも情報を集める人が多いでしょう。多くの人はインターネットがファーストチョイスだと思います。しかし、残念ながら、商売目的からか正しいとは言えない情報を載せているサイトも多く、信頼できる情報源にあたってほしいと思います。
書籍や雑誌を買う人もいるかもしれませんが、残念ながら信頼性の低い情報が多い点は否めません。「○○だけでがんは治る」のような過激なタイトルの本が売れていますが、出版社の倫理観を問いたいと思っています。その状況をなんとかしたくて、今回の本を書いたということもあります。
一方で、私もここ1年ほどは週刊誌の取材を受けるようにしていました。かつては抵抗がありましたが、情報を届けたい中高年の方々に伝えるためにはとても良いメディアであることも確かです。実際に取材を受けてみると、きちんと取材される記者もいる一方で、なかには自分が事前につくったストーリーに当てはまる言葉を医師に言わせたいだけの人も少なくなかったですが。
代替療法にのめり込む患者も――がんに関する情報では、「がん放置療法」も影響力が大きそうですね。
中山 我々ががんと診断した後に、がん放置療法やほかの代替療法――棒で体をこするだけで良い、あるサプリメントを飲むだけでよい、など――にのめり込んでしまって、通院しなくなる患者さんもいらっしゃいます。だいたい数カ月後に痛みが耐えがたくなったり出血が止まらなくなったりという緊急事態になって、再び病院に来ることもありますが、そのたびに我々は悔しい思いをします。あのタイミングなら助かったかもしれないのに、と。
放置療法やその他の代替療法はデータを出しておらず、恣意的な解釈ばかりで信頼性が高いとは言えないでしょう。
――なぜ患者さんは代替療法にのめり込んでしまうのでしょうか。
中山 保険診療に対する誤解が少なからずあると思います。医療にかかわる費用はすべて国が決めていて、しかも誰もが7~9割引で受けられる素晴らしい仕組みですが、それゆえ安かろう悪かろうと考えるのかもしれません。特にお金持ちの人は、その傾向があるように思います。
経済原理だとそうなるのかもしれませんが、医療に限っては違うのです。治療に高いお金を払えば予後が延びるということは、今の日本ではまったくないわけです。現状でわかっているなかでの最善が、私たちが行っている標準治療であり、公的保険での治療です。そのあたりも理解されていないのかなと思います。
がん予防の6カ条――早期発見が重要ということで、がん検診を積極的に受けるべきでしょうか。
中山 がん検診については、おおざっぱな議論ができないので1章まるまる使いました。市販されているほぼすべてのがん検診についての本を読み込み、さらに米国のデータも参照して、膨大な資料を基に書きました。
ただ、一概に言えないのでとても難しくて、「100人に1人、がんが見つかるが、5人に不利益がある」検査があったときに、それを受けるかどうかは個人の価値観によるでしょう。
――できればがんを予防したいと思うのですが、どうすればいいでしょうか。
中山 週刊誌では「医者1000人がやっている○○」といった記事が人気ですよね。科学的にわかっているがん予防はシンプルで、(1)禁煙(2)お酒を飲みすぎない(3)食生活に気をつける(減塩、野菜と果物をバランス良く、冷ましてから、など)(4)運動の習慣(5)太りすぎない、やせすぎない(6)肝炎ウイルスなどの感染をチェック、の6つです。
ただ、がんを予防することは完全にはできず、「危険性を半分くらいに下げることはできる」のように考えていただければと思います。なぜがんになるかは、よくわかっていない面も大きいのです。
――病気になったのは自己責任、と感じる人も多そうですね。
中山 ご自分を責める方はたくさんいらっしゃいます。だからこそ、本書では「がんになったのはあなたのせいではない」と強く主張しています。専門家として、がんの患者さんを診続けている立場からこう言うことは、大切なことだと思っています。
また、こちらはある意味で悪魔的な表現かもしれませんし、実際、事前に読んでいただいた監修者の方からは「医者がこんなことを言うと救いはない」との意見もいただきましたが、「がんにかかるのは雨降りのように自然なこと」だとも書きました。
――「良い患者」になるには、どうしたらいいでしょうか。
中山 苦しいことですが、周りと協力して、できるだけ確かな情報を集めて、たくさんの選択肢を用意した上で、ご自身の価値観で選択することができればいいのではと思います。もちろん、それが簡単ではないことはよくわかっていますが、本書がその手助けになると思います。
がん患者の家族は「第2の患者」に――今回、なぜ本書を執筆することになったのでしょうか。
中山 私は大腸がんを専門にしている39歳の中堅外科医です。ずっと病院現場でがんの患者さんの治療をしてきて、「こんな情報があったら、もっとこの方の苦しみは減らせるのに」と思っていました。その思いから、本書を書いたのです。
この本では、がんとの戦い方、がんの予防の仕方、そしてがんにかかってしまったときの対処法、さらには家族ががんにかかってしまったときの心構えをお伝えしています。ややこしい話は抜きにして、とにかく「使える」情報を書きました。さらには、プロの物書きとして「読みやすい読み物」になるようにもこだわりました。
私は、この本を通じて、がんにかかってしまった方、そして家族や大切な人ががんにかかってしまった方と手を携え、少しでもその苦しみと哀しみを減らしたい。私もまた、がんで大切な友人を喪った者のひとりですから。
――読者にはどのような人を想定しているのでしょうか。
中山 ご自身や家族、知人ががんになった人、また今後がんになりたくないと思っている人、つまりほとんどすべての人を対象としました。2人に1人はがんにかかる時代です。それほど、がんは身近な問題です。特に、がんにかかった方の家族は「第2の患者」と呼ばれることもあります。そのため、ご家族の大変さにもスポットを当てたかったのです。読んで「救われた」という声もいただいており、ホッとしています。
(構成=編集部)

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