「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービスは、米ナスダック取引所に上場廃止を申請した。米証券取引委員会(SEC)の登録もやめる。

2018年9月に日本の外食チェーンとして初めて同取引所に米国預託証券(ADR)を上場したばかりだったにもかかわらず、早々に撤退することになった。

 17年2月、「いきなり!ステーキ」は鳴り物入りでニューヨークに進出した。ステーキは20ドル(約2200円)前後。高級店は廉価なランチでも50ドル前後(約5500円)なので、半額以下だ。皮肉なことに、安さはニューヨークではまったく武器にならなかった。

 ニューヨーカーの低所得者は20ドルのステーキは高すぎて手が出せない。

スーパーで買って家で食べる。金持ちは高級レストランで食べる。中間層も自分たちのステーキ文化へのこだわりがある。そもそも米国人は立ってナイフやフォークを使うことを嫌がる。

 米国のステーキ文化を無視して、日本で流行ったからと「立ち食い」式で始めたところで、客を呼び込めるわけがない。慌てて立ち食いではなくテーブルに切り替えたが、客足は回復しなかった。

 一時は11店舗に拡大したが7店舗を閉鎖。残りの4店舗は「ペッパーランチ」に衣替えさせ、卓上で自ら肉を焼く方式を採用する。

 だが、肉はシェフが焼くのが米国のステーキ文化だ。米国人になじみのないこうしたやり方が通用する可能性は低い。お好み焼き方式は、立ち食いの失敗の上に失敗を重ねることになるのではないかと懸念する声が多い。

 ペッパーフードサービスの18年12月期連結決算は米国事業の不振から約25億円の損失を計上したのが響き、最終損益はマイナス1億2100万円と8年ぶりの赤字に転落した。

 ステーキの本場、ニューヨークに殴り込みをかけたはいいが、国内の勢いに乗って米国に出店しただけで、米国進出は完全な失敗に終わった。

「いきなり!ステーキ」の既存店売り上げは15カ月連続前年割れ

 ペッパーフードサービスは、19年12月期の連結業績予想を下方修正した。売上高は18年12月期比20%増の764億円に引き下げた。従来予想は47%増の935億円。営業利益は47%減の20億円。同45%増の55億円から一転、減益となる。

最終損益は従来予想の34億円から15億円の黒字(18年同期は1億2100万円の赤字)に下振れした。

 18年12月期の連結売上高635億円の85%を占める「いきなり!ステーキ事業」が失速したのが原因だ。

 13年末に1号店を銀座に出店して以来、「分厚いステーキをリーズナブルな価格で立ち食いする」というスタイルを打ち出して急成長した。16年末に115店だった店舗数は、17年末に188店、18年末に389店、19年5月末には459店と1年前より196店増えた。

 飛ぶ鳥を落とす勢いだった「いきなり!ステーキ」だが、実は既存店売上高は18年4月からマイナス成長となり、その落ち込みは激しい。

郊外店が大苦戦

 店舗は駅前立地を中心に立地していたが、17年5月、群馬県高崎市で初の郊外店を出店したのを皮切りに、出店エリアを都心から地方に拡大。

18年の大量出店も半数は郊外立地で、閉店したコンビニエンスストアの店舗などを活用。店舗網は47都道府県に広がった。郊外は都心に比べ出店余地が多いうえに家賃も安い。

 郊外への進出を続けたが、ひとつの商圏で複数出店するケースが続出。カニバリゼーション(自社競合)が起きてしまった。

 ペッパーフードサービスは店を増やすことだけに目を奪われ、“ひとつの商圏にひとつの店”という基本ルールを忘れたかのようだった。

 出店ペースを緩め、19年12月期の出店計画は210店から115店に減らした。店舗の約4割はFC(フランチャイズ)店。オーナーの多くが苦境に立たされている。人気に釣られてFC店に飛びついたオーナーは、臍(ほぞ)を嚙んでいることだろう。

【いきなり!ステーキ 既存店売上高の前年同月比増減率】

2018年1月:+7.0%

2月:+17.0%

3月:+16.8%

4月:▲1.7%

5月:▲9.8%

6月:▲9.5%

7月:▲10.2%

8月:▲2.8%

9月:▲9.3%

10月:▲3.2%

11月:▲13.1%

12月:▲13.8%

2019年1月:▲19.5%

2月:▲24.9%

3月:▲26.7%

4月:▲24.8%

5月:▲26.6%

6月:▲23.8%

(文=編集部)