旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)が不動産会社、ユニゾホールディングスへのTOB(株式公開買い付け)を始めた。8月23日までの間に、発行済み株式の40.2%を上限に最大427億円で買い付ける。
HISは18年9月から19年4月にかけてユニゾHD株の4.79%を取得し、単独筆頭株主となった。この間、複数回にわたって資本業務提携について話し合いを求めたものの、「相手にされなかった」(澤田秀雄HIS社長)ためTOBに踏み切った、としている。TOBが成立すれば、HISの持ち株比率は45%に上昇。ユニゾHDに役員を送り込み、持分法適用会社にする見通しだ。上場は維持する。
ユニゾHDは一貫してHISとの対話を拒否している。ユニゾHDとの事前協議が一切なく、TOBが発表されたことから、「一方的かつ突然」と反発。8月6日、ユニゾHDの取締役会は「TOBに反対」の意見を表明した。提携による相乗効果に期待が持てず、企業価値を毀損する恐れがあることを反対の理由にあげた。HISのTOBは敵対的買収に発展することとなった。
ユニゾHDは当初、HISが実施しているTOBに対する意見表明を留保した。同時にHISに質問状を出し、TOBに至るまでの経緯の詳しい説明や、経営の独立性の確保について質している。この質問状に対するHISの回答が、HISのホームページにアップされている。HISが保有している賃貸用不動産の所在地、各物件の収支、空室状況などの質問には、「(HISは)情報を開示していないため、回答を差し控える」とした。
「TOBが成立した場合でも(保有株の上限は45%なので)ユニゾHDの経営の独立性は保たれる」とHISは主張しているが、ヤフーがアスクル株を保有していたのが45%。ヤフーは第2位の株主、プラスと行動を共にして、アスクルの岩田彰一郎社長を解任した。「45%」という数字は、そういう数字なのである。
ユニゾHDは社外取締役5人で構成する特別委員会の判断を踏まえた上で、TOBに反対を表明した。HISが強気なのは、「ユニゾHDとみずほフィナンシャルグループ(FG)の関係が悪化したから」(有力金融筋)だと伝わる。
そもそもユニゾHDは、常和ホールディングスという旧日本興業銀行(現・みずほ銀行)系の不動産会社として発足した。今も小崎哲資社長を筆頭に旧興銀出身者が経営陣に名を連ねている。大株主には、HISが躍り出てくるまで筆頭株主だった系列保険代理店の共立や日鉄興和不動産、興銀リースといった旧興銀系の金融会社や事業会社が多い。
ところが小崎社長以下、ユニゾHDの経営陣は、「脱みずほを志向してきた」(みずほフィナンシャルグループの幹部)。実際、18年5月までに過去5年で4回の公募増資を実施。みずほグループの持ち株比率を薄めてきた。だから買収防衛力は低下した。「ユニゾが勝手にやったこと。自業自得だ、とみずほの首脳は立腹している」(金融担当記者)との情報もある。
公募増資の結果、外国人の持ち株比率は19年3月期末で17.2%と、14年3月末の8.9%からほぼ2倍になった。個人投資家は同期間に9.2%から28.2%と3倍に。HISは株主構成の変化に着目した。外国人投資家や個人投資家は、相次ぐ公募増資で株価が低迷していることに不満が強い。条件次第ではTOBに応じる可能性がある。
しかし、みずほFGには、HISにみすみすユニゾHDをM&Aされるわけにはいかない事情がある。株式市場では、「同じみずほ系の日鉄興和不動産やヒューリックなどをホワイトナイトに仕立て、対抗TOBを仕掛けてくるのでは」といった観測が流れている。日鉄興和の筆頭株主は45%の株を握る日本製鉄である。日鉄サイドの了解を得る必要がある。
かねてからみずほグループは、旧3行の不動産会社を一本化すべきだと指摘されてきた。旧興銀系がユニゾHD、旧富士銀系がヒューリック、旧第一勧銀系が日本土地建物である。HISからTOBを仕掛けられたことを奇貨としてヒューリックを核に、みずほグループの不動産会社の統合に向かうのではないかという見方が根強い。ホワイトナイト登場の期待からユニゾHDの株価はTOB価格(3100円)を上回り続けている。
HISがユニゾHDを買収する狙いはどこにあるのか。澤田氏は「ユニゾHDと提携してホテル事業を強化して、トップ10入りしたい」と表明した。ユニゾHDは「ホテルユニゾ」「ユニゾイン」「ユニゾインエクスプレス」の3つのブランドで25棟(他に計画中のものが8棟)のビジネスホテルを展開。
ユニゾHD側はHISが想定するホテル事業での相乗効果について「ターゲットとなる顧客層が明白に異なる」とし、「シナジー創出は期待できない」と指摘した。確かにユニゾHDはビジネスホテルで完全にビジネス層。一方、HISはロボットホテルなどレジャー客が主流だ。もっとも、HISがユニゾHDを買ってもビジネスホテルの勢力地図は変わらない。アパホテルが518カ所。ルートインホテルズが301、東横インが298と、大手チェーンの牙城を崩すことはできそうにない。
「HISが本気でホテル事業をやるというのなら、もっと大きなチェーンを買うべき。ユニゾになったのは、損をしない程度に投資するという印象。株主対策という側面もあるのではないか」(M&A仲介会社の幹部)
メガバンク系上場企業も敵対的TOBと無縁でなくなったことだけは確かだ。
米エリオットがユニゾ株を保有米投資会社、エリオット・マネジメントが関東財務局に提出した大量保有報告書で、ユニゾHD株を5.51%保有していることが明らかになった。その後、保有比率は6.62%まで上昇した。
ユニゾHDの株価は日経平均株価が急落しているなかでも8月7日、3710円(150円高)で取引を終了しており年初来高値。TOB価格(3100円)を20%上回っていた。8月9日の終値は3400円とさすがに下げた。
エリオットは米投資ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)の日立国際電気のTOBに介入し、2度、TOB価格を引き上げさせた。この連想もあって、エリオットのユニゾHD株取得がTOBの新たな波乱要因となる。
(文=編集部)
【続報:新展開】
ユニゾHDは8月16日、HIS(エイチ・アイ・エス)に仕掛けられた敵対的TOB(株式公開買い付け)への対抗策を発表した。
ソフトバンクグループ系の米投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループがホワイトナイト(友好的な第三者の買収者、白馬の騎士)として、TOBを8月19日から10月1日まで実施する。買収価格は1株4000円。8月16日の終値4165円より安いが、HISの買い付け価格3100円を29%上回る。最大で全株(3422万295株)を買い付け、完全子会社化を目指す。取得資金は1368億8118万円。
フォレストは世界最大規模の不動産投資ファンドを運営している。ユニゾHDはHISに対抗するため水面下でホワイトナイトを探していた。企業や投資ファンド16社と接触。最終的に4社が残ったが、「フォートレスは当社の経営方針を尊重しており、オフィスやビジネスホテルへの投資の豊富な実績がある」(ユニゾHD)ことから、フォートレスに絞り込んだ。フォートレスはマイスティズブランドでホテルを展開している。17年にソフトバンクグループの傘下に入り、18年に三菱マテリアルの不動産子会社を買収している。
「フォートレスの親会社のソフトバンクグループは今回の決定に関与していない」(関係者)としているが、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長とみずほフィナンシャルグループの佐藤康博会長は「一心同体の関係」(有力金融筋)である。ユニゾはみずほ系の不動産会社の1社である。
TOBが成立した場合でも、「ホテルユニゾ」などのブランド名はそのまま存続する、という。上場は廃止される。
フォートレスの参入でユニゾの争奪戦に発展した。HISは8月16日、「ユニゾの意思表明について精査している。対応が決まればコメントする」とした。HISのTOBの期限は8月23日である。3100円の提示価格を引き上げて対応するのか。HISの出方が次の焦点となる。
8月16日のユニゾの株価は一時、570円高の4170円の年初来高値をつけ、終値は4165円(565円高)である。HISが提示した3100円より35%も高い。このままだとHISのTOBは不成立に終わる。
「物言う株主」として知られる米エリオット・マネジメントがユニゾHD株を9.9%保有している。投資目的としているが「建設的な対話や助言などを行う可能性もある」と含みを残す。エリオットはTOBに関与して、赫赫たる戦果を挙げている。
エリオットがフォートレス(=ユニゾHD)側につくのか。HISと共闘するのかも見えていない。まだ紆余曲折がありそうだ。
【続報】
ユニゾホールディングスの買収合戦からエイチ・アイ・エス(HIS)が撤退した。8月23日にTOB(株式公開買い付け)を終了したが、応募はゼロだった。HISが7月にTOBを開始して以来、株価がTOB価格(3100円)をずっと上回っていたのだから、応募ゼロは当然の帰結である。
HISはTOB価格を引き上げることなく、TOB終了まで傍観していた、といっていい。「TOBに対する本気度が疑われる」(M&Aに詳しいアナリスト)との厳しい指摘もある。
一方、ソフトバンクグループ系の米フォートレス・インベストメント・グループが“白馬の騎士”(ホワイトナイト)となり、8月19日に対抗TOBを開始した。フォートレスのTOB価格は4000円である。
ユニゾHDの株価は8月23日の終値で4335円(60円高)をつけた。年初来高値は8月21日の4490円である。
HISがTOBを発表する前から株価は2倍になった。ユニゾHDの取締役会が友好的買収と認めるフォートレスも、このままの株高が続けば、TOBの応募の下限としている66.7%の取得には、とても達せず、TOBが不成立に終わる懸念が出ている。フォートレスは価格を引き上げるのであろうか。
フォートレスとは別の外国&国内の投資ファンドが買収提案をする可能性もゼロではない。「ユニゾHDの保有資産の含み益を考慮すると、株価が7000円をつけてもおかしくない」(国内中堅証券会社)といった超強気の見方さえ台頭している。
HISが持ち株を売れば30億円の利益TOBに失敗したHISは現在5%弱のユニゾHD株を保有している。HISのユニゾHD株の取得価格は平均で1000円台とみられている。仮にフォートレスのTOBに応じて持ち株を売却すれば「30億円前後の売却益が見込める」(同)。8月23日の終値で売っていればもっと売却益は膨らんだことになる。転んでもタダでは起きないHISの澤田秀雄社長がどう出るかも注目点だ。
ユニゾHDの不動産の含み益に注目した米投資会社、エリオット・マネジメントや国内系のいちごアセットマネジメントがユニゾHD株を買い増したため株価は急騰した。
エリオットが10%弱、いちごアセットが7%弱のユニゾHD株を保有している。2社はさらに買い増すのか。買い増さなくても、フォートレスや新しいM&Aの買い本尊のTOBに応ぜず、持ち株を売らないとすると、TOBの成立はより困難になる。
不動産(投機)市場では、次のような思惑(期待)が語られている。
「フォートレスはユニゾHDが東京駅八重洲口に持つユニゾ常和ビル(土地だけで3300平方メートル)を以前から狙っていた。ホワイトナイトの要請はフォートレスにとっては渡りに船だった」
ユニゾHDの「実質1株当たり純資産は7200円余り」と不動産関係者は試算している。ユニゾ常和ビルの敷地に超高層ビルを建てる計画が進行中だとも。ユニゾHD株の争奪戦は東京駅前の一等地を「時価より安く買う権利」を手に入れるための前哨戦と位置づけられている。不動産の含み益が潤沢な企業は、往々にして収益力が低い。ユニゾHDも「持てるものを生かして切れていない企業の典型」と呼ばれてきた。
次の標的はフジ・メディア・ホールディングス土地持ち企業が覚醒する絶好のチャンスなのかもしれない。「次のターゲットはフジ・メディア・ホールディングス」(首都圏の不動産に詳しいアナリスト)。同社の不動産の保有価値は2400億円強。フジ・メディアの時価総額は3100億円だから、仕掛けてみてもおもしろい。フジ・メディアのPBR(企業の解散価値。株価純資産倍率)は0.4%台。解散価値を大きく下回っている。
しかも株主総会での宮内正喜会長の支持率は60.63%。他の取締役も60%台が4人、55.63%という極端に低い人もいる。多くの株主が経営陣に不満を強く持っているということを表している。
ROE(自己資本利益率)は5%を下回る水準が長らく続いている。物言う株主がフジ・メディアに登場するのは時間の問題かもしれない。経営の刷新と収益改善が実現しなければフジ・メディアにTOBの爆弾が炸裂する。ホリエモンがフジ・メディアに“乗っ取り”を仕掛けて莫大な利益を得たことが憶い出される。