スズキは2020年、創立100周年を迎える。記念行事の予定はないが、社内外から「鈴木修会長の引退こそが最大のセレモニー」との声が出ている。

 鈴木会長の長期政権は綻びが随所に出始めた。5月10日の決算発表で、記者の質問と噛み合わないやりとりもみられ、その情報は自動車担当記者の間に一気に広まった。米中貿易摩擦についての見解を聞かれ、鈴木会長は最初「アメリカと中国が喧嘩をすれば世界は不幸になる」と一般論を述べていたが、その後、「10連休の間、4日間は仕事をしていた」など、質問とはまったく関係ない話を脈略なく続けたからだ。

 鈴木会長は20年1月には90歳を迎える。本来であれば、長男の鈴木俊宏社長が引退を勧告すべきなのだが、絶対的権力者である父親に対して、何も言えないのだ。スズキの完成検査不正などの企業風土は、創業家支配のなかで醸成されたものだから、容易に改善できるものではない。16年に燃費測定への不正が発覚した。「(現時点では燃費不正の問題は)ない」。鈴木会長は16年5月10日の決算会見で燃費不正の存在を否定したが、わずか1週間後に一転して謝罪会見に追い込まれた。

「社風が影を落としている」(自動車担当アナリスト)と指摘される。スズキの経営の真骨頂はコストを徹底的に削る「ケチケチ作戦」。これが不正の温床となったといわれている。

不正の実態が経営陣に上がってこない風通しの悪さが最大の問題点なのだ。燃費不正が発覚した際、鈴木会長がCEO職を俊宏社長に譲ったが、その後にCEOそのものを廃止した。鈴木会長が今でも最高経営責任者なのである。

 今年の株主総会では、株主からは検査不正問題に関する質問が相次いだ。「3年前にも大きな不祥事があった。なぜ、また、さらに大きな不祥事が起きたのか」「不正が起きる体質は変えられないのではないか」と厳しい指摘が続いた。鈴木会長は「担当者が適法で大丈夫だというのを鵜呑みにして、間違いをしでかした」と発言。責任を部下に押し付けるもので、出席者は不正を繰り返してきた企業文化と決別できるのかと疑った。

 完成検査不正により201万台もの大規模リコール(回収・無償修理)を実施し、813億円の特別損失を計上したにもかかわらず、鈴木会長は1年間の役員報酬の返上で、お茶を濁した。6月27日の株主総会で鈴木会長の取締役選任への賛成比率は66%。前年の93%から27ポイントも大幅に下落した。俊宏社長の賛成比率も70%と前年の94%から急落。

創業家に対する株主の目は厳しさを増している。

“親離れ”できたトヨタ社長

「“スズキ=鈴木会長”といわれ、本人は心の内では生涯現役(経営者)を考えているのだろう。そうだとすると、企業風土の改革は絶望的だということになりはしないか。一方で、鈴木会長が辞めることには大きなリスクが伴うことも確かだ。株価が下がるかもしれない。しかし、企業の存続を考えるなら、もっと大きなリスクに目を向けるべきではないのか。俊宏社長が“親離れ”をしないと、次は俊宏社長が株主から不信任されることだってあり得る」(業界筋)

 鈴木会長は、自分が退いた後はトヨタ自動車の傘下に入って、社長もしくは専務を出してもらい、トヨタの旗の下で生きて行く道を描いているとされる。

「豊田章一郎名誉会長とは話はできていた。だが、このシナリオをトヨタの豊田章男社長は望んでいない。トヨタで章一郎氏の影響力が薄れた今、スズキのトヨタグループ入りは無理なのではないか」(トヨタの元首脳)

 章一郎氏の権力失墜は、トヨタホームとパナソニックホームズの経営統合ではっきりした。トヨタの章男社長は、はっきりと親離れした。次は俊宏社長の番だが、彼にはそれができない。

スズキの最大の悲劇である。

(文=編集部)

【続報】

 トヨタとスズキは8月28日、「資本提携に関する合意書を締結した」と発表した。トヨタが960億円出資してスズキ株を4.9%取得する一方、スズキもトヨタの480億円相当の株式(トヨタ株の0.2%に相当)を持つという内容だ。スズキはトヨタから自動運転や電動化の技術の供与を受ける。

 スズキにとってはVWから引き取った株式をトヨタにはめ込むわけで渡りに船だ。トヨタは自動運転などでのファミリー作りの一環。買収やグループ会社化の布石ではない。鈴木修会長は8月28日、共同通信の取材に応じ、「5月に豊田章男社長に資本提携を申し入れた」と明らかにした。トヨタの傘の下に入り、生き残りを図るという必死のあがきなのだろう。

 章男社長は父親(章一郎氏)の“約束”を守るかたちになったが、5月に資本提携を申し入れて実現したのが8月末。トヨタの元首脳の「章男社長はスズキのグループ入りを望んでいない」との証言が重みを増してくる。「スズキ、次の100年ト

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