10月期から始まった、NHK朝の連続テレビ小説『スカーレット』。女性陶芸家の草分けとなる主人公を戸田恵梨香が演じているのだが、やはり前作の『なつぞら』(主演:広瀬すず)と比べると「地味に感じる」という声も。

果たして『スカーレット』は観るべきドラマなのだろうか? あるテレビ誌の記者は次のように語る。

「朝ドラの歴代ヒロイン総出演だった『なつぞら』は、ある意味“反則”的な朝ドラでした。主演が今をときめく広瀬すず、朝ドラ100作目というメモリアルな作品ということもあって、NHKが出し惜しむことなく貫地谷しほり山口智子らの歴代ヒロインをいろんな役で投入、作品をおおいに盛り上げました。そのぶん、ストーリーよりも話題性に寄りすぎた作品だったともいえます。

 その点、今回の『スカーレット』は“古き良き”上質な朝ドラに回帰して、丁寧にヒロインを描いています。すでに民放ドラマでは十分な実績があり年齢も31歳とすでにベテラン感のある戸田恵梨香が主演ですから、初々しさはないものの、しっかりした泣ける芝居をしており、それを朝から観られるというのは非常に有意義だと思いますよ。兵庫県出身の戸田さんによるリアルな関西弁を毎日聞けるのもなかなかいいですよね。

 そんな戸田恵梨香と、彼女の親友役で出演している、同じく31歳の大島優子が元気いっぱいに15歳を演じていることも話題ですが、2人とも芝居がうまいので、意外とナチュラルに観られるのも、よく考えたらすごいことですよね」

「NHK朝ドラ」という“金看板”

 戸田といえば『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』シリーズ(フジテレビ系)、『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』シリーズ(TBS系)など人気作に出演し、女優としてのキャリアも申し分ない。とはいえ、「女優としてはもうひと皮むけたいはず」と語るのは、あるテレビ局のプロデューサーだ。

「戸田さんは確かに今でもドラマや映画で主演を張れる女優さんですが、30代を迎えて女優としてのステージをもう一段上げようとしたときに、この朝ドラは大きなチャンスといえるのでは。というのも、やはり“朝ドラ出身女優”というのは金看板なんですよ。そもそも少し前までのNHK朝ドラは“新人女優の登竜門”であり、朝ドラでヒロインデビューした女優さんがその後売れっ子女優になっていく……というパターンが王道でしたが、2作前の『まんぷく』に主演した安藤サクラしかり、前作のヒロイン・広瀬すずしかり、最近ではキャリアのある女優がヒロインをやることが増えてます。

次回作『エール』(主演/窪田正孝)のヒロインを決めるため、先日、4作ぶりにオーディションが行われましたが、合格したのは二階堂ふみでした。実績のある二階堂ふみがオーディションを受けてまでもこの役を獲りにいったのも驚きでしたが、女優としてステップアップするために“朝ドラ出身女優”という金看板は、やはり魅力的なのでしょう。

 そういった意味で、逆にいえば戸田さんは女優としてのキャリアの転機を今回の『スカーレット』で絶対に迎えなければならない、ともいえる。クランクイン前に陶芸の練習を3カ月もしたそうですが、この作品にかける意気込みは相当なものだということがうかがえますね」

林遣都がネイティブ関西弁で

 そんなさまざまな期待を背負って放送開始された『スカーレット』だが、意外にも放送第1週の平均視聴率は19.8%と、やや不調な結果に。20%には届かず、『ひよっこ』以来5作ぶりの大台割れとなった。これに対し、あるスポーツ紙の記者は次のように分析する。

「あれは完全に、『なつぞら』の“なつロス”でしょうね。『スカーレット』の第1週目は戸田さんは出てこず、ヒロインの少女時代を子役が演じていました。となると、やはり『なつぞら』がゴージャスすぎた分、なおのこと『スカーレット』の“地味感”が際立ってしまった。しかし、戸田さんが出演し始めた2週目後半から視聴率が急上昇、現在では安定して20%を超えています。前々作の『まんぷく』と同様、大阪NHK制作のため、派手さはないがしっかりと記憶に残る、いい朝ドラになるのではないでしょうか。滋賀を舞台に、信楽焼がテーマというのも、往年の朝ドラっぽくて実にいいですよね。

 また、北村一輝さん、林遣都さん、溝端淳平さんなど、関西出身の俳優さんがネイティブ関西弁でしっかり脇を固めているのもすごくいい。村上ショージさんや何かと今話題のTKOの木本武宏さんなど芸人さんもちょこちょこ出ていて、全体的に吉本新喜劇のにおいがする演出が非常に味わい深いです。

 脚本は『妹よ』(1994年)、『みにくいアヒルの子』(1996年)などでフジテレビの全盛期を支えた水橋文美江が、朝ドラ初挑戦。確かなストーリーテリングと構成力には定評があるため、テンポのいい朝ドラになる可能性は相当高いと思います。ドラマを観ていても、相当楽しんで脚本を書いているのが感じられますよね」

 ドラマの目利き筋からは早くも高評価を受け、視聴率も安定し始めた『スカーレット』。戸田恵梨香の新たな代表作になる気配は、非常に濃厚といえそうだ。

(文=藤原三星)

藤原三星(ふじわら・さんせい)
ドラマ評論家・コメンテーター・脚本家・コピーライターなど、エンタメ業界に潜伏すること15年。独自の人脈で半歩踏み込んだ芸能記事を中心に量産中。<twitter:@samsungfujiwara>

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