居酒屋大手のワタミは5月27日、「ミライザカ」や「和民」といった総合居酒屋を中心に全店舗の1割強にあたる65店を閉店すると発表した。閉店に伴い、減損損失19億円を計上した。
同日発表した2020年3月期連結決算は、売上高が前期比3.9%減の909億円、営業利益が91.3%減の9200万円、最終損益が29億円の赤字(前期は13億円の黒字)だった。減収は6期連続、最終赤字は3年ぶりとなる。
新型コロナの影響で外食は厳しい状況に置かれているが、居酒屋は特に厳しい。夜間に外食する人が減ったほか、在宅勤務の広がりなどで宴会需要が縮小しており、他業態以上に厳しい状況が続くことが見込まれている。
こうした状況を受け、居酒屋「甘太郎」などを傘下に持つ外食大手のコロワイドは、居酒屋業態を中心に不採算店196店の閉店を決めた。総合居酒屋から専門居酒屋への転換を加速させるほか、非居酒屋業態を強化し事態打開を図る考えだ。
専門居酒屋と非居酒屋業態の強化ワタミも不採算店の閉店を進め、業績回復を狙う。伴となるのがコロワイドと同様に専門居酒屋と非居酒屋業態だろう。
ワタミには専門居酒屋として焼き鳥居酒屋「三代目鳥メロ」がある。これまで和民から転換するなどして店舗数を増やしてきた。
専門居酒屋は、まだまだ競争力がある。焼き鳥居酒屋を展開する鳥貴族は17年10月に実施した値上げの影響で客離れが起き苦戦を強いられていたものの、新型コロナ直前は客足が戻りつつあったし、店舗数は600店超にもなり存在感を示している。コロワイドは専門店居酒屋を強化するにあたり、焼き鳥居酒屋「やきとりセンター」を積極展開する方針を示している。厳しいとはいえ、専門居酒屋には一定の需要がある。
非居酒屋業態の強化も、事態打開策になり得る。ワタミは非居酒屋業態として、レストラン「TGIフライデーズ」や、から揚げ専門店「から揚げの天才」などを展開しており、これらを強化することで居酒屋の落ち込みを埋めたい考えだ。同社はこれまで直営主義をとってきたが、今後はフランチャイズ(FC)展開を加速させることで成長を実現する戦略を描いている。
特に注目されるのが、18年から展開を始めたから揚げの天才だ。から揚げと卵焼きをメインに販売し、現在は7店を構える。卵焼きは、実家が卵焼き店でタレントのテリー伊藤氏と組んで開発した。
から揚げ業態は今、勢いがある。NISは「鶏笑」を現在約160店展開しているが、着実に店舗数を増やしている。アークランドサービスホールディングス(HD)は「からやま」と「からあげ緑」を3月末時点で計117店展開するが、1年前から31店増えている。ファミリーレストラン「ガスト」で知られるすかいらーくHDは「から好し」を3月末時点で83店展開するが、1年前から34店増となっている。いずれも出店攻勢で店舗数を増やしているのだ。
ワタミもから揚げの天才で需要の取り込みを狙う。今年2月からはFC店の展開を開始。3月には、コシダカホールディングスとFC契約を結んだ。同社は運営するカラオケ店「まねきねこ」に併設するかたちで今春にも1号店を出す考えだ。から揚げの天才はテイクアウト比率が8割と高いため、新型コロナの影響で外食を自粛する動きが広がるなかでも自宅などで食事をする人の増加で売り上げ増が見込める。
宅食事業と人材派遣で事態打開を図るワタミはこうして国内外食事業の立て直しを図るが、ほかに期待されるのが自宅などに食事を届ける宅食事業だ。同社は08年に九州を中心に食事を届けるタクショクの経営権を取得し、宅食事業の本格展開を始めた。
ただ、今後は伸びが期待される。新型コロナの影響で、自宅で食事をする人が増えているためだ。ワタミはこれを好機と捉えたかのように、新型コロナの影響で、全国で学校の休校が続く3月から子育て家族向けに宅配用の弁当の代金を無料にして提供し話題を集めることに成功した。その後、割引価格で提供するなどの取り組みを実施し、需要の取り込みを強化している。福祉施設など法人向けの宅配も強化している。今年2月に専門部署を設置して本格的な営業活動を始めた。これにより問い合わせが急増し、法人契約は100施設を超えたという。こちらの伸びも期待される。
外食各社が頭を悩ませているのは、収益だけではない。
人材派遣業にも参入した。5月20日に大阪の人材派遣会社を買収して「ワタミエージェント」を立ち上げている。新型コロナの影響で休業中の外食店に勤務する従業員を人手不足の店舗に派遣する。これにより休業中の店舗の従業員に働く場を提供し、雇用維持につなげたい考えだ。ワタミには従業員を派遣してほしいという依頼が寄せられていたという。
新型コロナの影響で厳しい状況に置かれているが、ワタミは斬新な発想と柔軟な対応で事態の打開を図る。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。