料理宅配の出前館(ジャスダック上場)は、22年1月6日に資本金を551億円から1億円に減資して、中小企業の扱いになる。減資に先立ち、第三者割当増資と海外向けの公募増資で800億円を調達した。
公募増資は欧州やアジアを中心とする海外で最大1605万株を新たに発行した。公募増資と第三者割当増資で増加する株式数は最大5543万株で、発行済株式総数の65%に相当する。これだけ発行済株数が増え、資本金は161億円から551億円に膨らんだ。この間、自己株の処分などもあったが詳細は省いた。これまでの株主構成としては、LINEが35.8%、LINEと韓国ネイバーが共同出資するファンドが25.0%を保有していた。今回の資本の組み替えで、LINEとZHDが直接保有する割合が合計で41.99%となる。ソフトバンクグループ色が一段と強まる。
減資により税制上の「中小企業」となれば、税負担が軽減される。資本金を減らした分(550億円分)を資本剰余金に移す。資本剰余金は優先株の配当の支払いに充当することができる。
広告費に注ぎ込み、決算は真っ赤2021年8月期連結決算の売上高は前期比2.8倍の290億円となったが、最終損益は206億円の赤字(20年8月期は41億円の赤字)と過去最悪だった。
22年8月期の連結営業損益は500億円~550億円の赤字(21年8月期は179億円の赤字)になる見通しだ。営業赤字は21年8月期の売上高(290億円)をはるかに突き抜けた水準になる。22年8月期の出前館の流通総額は前期比2倍の3300億円、1年以内に1回以上購入するアクティブユーザーは6割増の1200万人を見込む。公募増資やZHDへの第三者割当増資で調達した800億円の大半を、割引クーポンやテレビCMなどに充当し、利用者の囲い込みや配達員の確保を進める。
一方、21年8月期の有価証券報告書の提出期限の延長を関東財務局に申請し、12月28日まで延長が認められた。未収入金や未払金の残高に誤りがあり、調査中に外注費の計上漏れが見つかった。過年度の決算を訂正する。
新型コロナウイルス禍による「巣ごもり」消費で料理宅配市場は急拡大したが、競争は激しい。マーケティングリサーチ会社のヴァリューズ(東京・港区)によると、ピークだった21年8月の料理宅配アプリの利用者はウーバーイーツが570万人で首位。出前館(442万人)、menu(125万人)が追う。21年10月時点の利用者は約1316万人。前年同月に比べると2倍近くに増えた。ただ、コロナ感染者の一巡によって、9月以降、減少に転じ頭打ちになりつつある。
料理宅配業者がインターネット通販の配送に乗り出すのは、成長に陰りが出始めたからにほかならない。出前館は22年から化粧品や衣料などの即配代行を始める。配達員が商品を企業の小売店や物流倉庫などで受け取り、スピード配送する。自転車やオートバイを使うため小さい荷物が中心になる。
ZHDは傘下の出前館やアスクルと連携して、食品と日用品を配送する「PayPayダイレクト by ASKUL」を始めた。
10万人の配達員を抱える料理宅配最大手のウーバーイーツジャパン(東京・港区)は、EC事業を手がける小売り向けの即配代行への参入を検討する。料理宅配「フードパンダ」を運営するデリバリーヒーロージャパン(東京・港区)は、料理以外の配送拠点を7都市9カ所から2年以内に100カ所に広げる。
新型コロナ禍で料理宅配が普及。海外勢の参入が相次いだ。しかし、感染者の減少で頭打ちとなり、配達員1人あたりの収入(報酬)が目減りしている。料理以外の配達需要をつくり出すことで配達員の収入を確保し、労働環境を安定させたいとしている。
出前館の中期経営計画では23年8月期に連結営業利益120億円を目指している。22年8月期の連結営業損益は500億円を超える大赤字の見通しであり、23年8月期の黒字転換が果たして可能なのか、投資家は疑問視している。
(文=編集部)
【続報】
出前館は21年12月28日、2021年8月期の連結決算を訂正したと発表した。それによると売上高は5400万円減の289億円、最終赤字は12億円増え218億円となった。未収入金や未払い金の残高に誤りがあったとした。未払い金の過大計上や配達代行業者に対する業務委託費の処理に誤りがあった。