トレーニングジム「RIZAP(ライザップ)」を展開するRIZAPグループの株価が急騰した。5月29日に一時、前日比277円高となり、終値は16%高の1987円、上昇率は全市場で5位だった。

ヘッジファンドなど短期筋からの買いが集まり、売買高は254万株と前日の18倍になった。翌30日は2000円をつけた。今年の高値は1月30日の2198円である。

 同社は5月28日の取引終了後、カルビーの会長兼最高経営責任者(CEO)である松本晃氏を6月24日付で代表取締役兼最高執行責任者(COO)に招くと発表した。創業者である瀬戸健社長は代表取締役社長兼CEOとなる。「プロ経営者」として知名度の高い松本氏がCOOに就任することが買い材料となった。

 同時に、7月31日時点の株主に対して1株を2株とする株式分割を実施すると発表した。創業15周年を記念して特別の株主優待も行う。

 さらに公募増資を実施する。2027万株の公募と上限303万株のオーバーアロットメントによる売り出しを行い、最大394億円を調達する。発行済み株式数は現在に比べ約9%増える見込みだ。

 大型の公募融資は既存の投資家から嫌気されやすい。
保有する株式の価値が希薄化するためだ。ところが、RIZAPグループの場合は買われた。東証1部への市場の指定替えの思惑と松本氏への期待が高いからである。

 過去3年間に、2015年1月1日、同年5月1日、17年10月1日を、それぞれ基準日に、1株を2株とする株式分割を実施した。これで15年半ばから株価が上昇していく。株式分割修正後の株価で換算すると、14年2月4日に50円だった株価が、15年5月26日に545.2円へと上昇。さらに17年11月24日には3090円に急騰。14年の底値からみて62倍になった勘定だ。

 同社は札幌証券取引所アンビシャスに上場しているが、公募増資を機に株式の流動性を高め、東証1部に指定替えを狙う計画だ。東証1部上場に向けての切り札が、松本氏のCOO招聘にほかならない。

●「名伯楽」になるのか

 松本氏は伊藤忠商事出身で、医療機器メーカーのジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人の社長を経て、09年にカルビーの会長兼CEOに就任。高コスト体質にあえいでいた同社を立て直し、17年3月期まで9期連続で最高益を達成した。
売上高を2倍、営業利益は3倍に成長させた。

 地味な存在に見えるが、クロウト好みの「プロ経営者」だ。実績から見ればスーパースターといえる。

 3月27日、カルビーが松本氏の退任を発表すると、同社の株価が3780円から一気に7%近くも下がったほどで、翌28日の年初来安値は3370円。ちなみに、5月31日の終値は3970円である。

 退任を発表した日、松本氏が「新たな挑戦の場を求める」と発言したことから、すぐ多数の会社からオファーがあった。その中から次の舞台として選んだのはRIZAPグループだった。

 瀬戸氏は松本氏に7回も面会して、招聘を承諾してもらったという。松本氏は6月20日付でカルビーを退職し、4日後にはRIZAPグループへ移籍する。

 RIZAPグループは「結果にコミットする」をキャッチコピーとするトレーニングジムで成長してきたが、近年はアパレルのジーンズメイト、フリーペーパーのぱど、サンケイリビング、さらにJリーグの湘南ベルマーレを傘下に収めるなど、積極的にM&A(合併・買収)を繰り返してきた。

 18年3月期の連結決算(国際会計基準)は、売上高に当たる売上収益は前期比42.9%増の1362億円、営業利益は33.1%増の135億円、純利益は20.5%増の92億円。買収に次ぐ買収で、連結売上高は6年で10倍に急膨張した。


 RIZAPグループがこれまで傘下に収めたのは64社。このうち上場企業は9社。過去2年にM&Aを行った上場会社は、女性用体型補正下着のマルコ、生活雑貨のパスポート、ジーンズメイト、呉服の堀田丸正、ゲームソフトのワンダーコーポレーションなどだ。

 業績不振企業を手当たり次第に買収し、グループを急拡大してきた。多様性といえば聞えはいいが、なんにでも食らいつく“ダボハゼ商法”そのものだ。買収したのは、いずれも万年赤字などで引き取り手のない企業ばかりである。

 RIZAPグループは、なぜ経営不振企業ばかり買収してきたのか。

 キーワードは“のれん代”だ。のれん代とは、企業の買収で支払った金額と買収先の純資産の差額をいう。同社が採用している国際会計基準では、高く買収した場合、4年目期首に資産価値を見直し、収益が上がっていなければ減損処理をしなければならない。安く買収した場合は、負ののれん代を利益として一括計上できる。RIZAPグループは、負ののれん代によって利益をかさ上げしてきた。


 18年3月期の営業利益は135億円。このうちM&Aによる割安購入益が74億円で、なんと営業利益の55%を占める。負ののれん代が利益をもたらすという、瀬戸流の会計マジックを駆使してきた。

 確かに一時的に会計上の利益は出るが、買収資金を借り入れで調達しているため有利子負債は768億円と1年で1.8倍に膨らんだ。株式市場では、急ピッチのM&Aの弊害を懸念する指摘が多かった。

 主力のRIZAP関連事業の売上収益は329億円。先行投資の負担が大きく、いまだに営業段階では赤字が続く。負ののれん代で利益を捻り出す“ヤリクリ決算”なのだ。つまり、業績不振企業をピカピカの優良企業に生まれ変わらせることができるかどうかにかかっている。

 松本氏がその再生を託された。6月2日付日本経済新聞のインタビューで、RIZAPグループを選んだ理由を、こう語っている。

「瀬戸健社長に尽きる。
(中略)瀬戸君はタイプが違うけど、(ソフトバンク社長の)孫(正義)さんの若い頃の雰囲気がある。2人ともじじ殺しだね。とにかくこの人を一流の経営者にしたら面白いと」

 プロ経営者、松本氏の「名伯楽」宣言といえる。松本氏の指南よろしきを得て、瀬戸氏は一流の経済人になれるのだろうか。
(文=編集部)

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