昨年から今年にかけてスーパーマーケットで飲食ゾーンの導入が、食品売場と融合するかたちで急速に進んでいる。米国発祥のグロサリー(食品)とレストランを組み合わせた造語で「グローサラント」と呼ばれ、その場で食べる「即食」需要の取り込みを狙った新たな取り組みだ。



 昨年8月にオープンしたイタリア食材専門店「イータリーグランスタ丸の内店」では、本格的なイタリアンを提供する80席のレストランと、その場で焼き上げるピッツアや生ハム、チーズ、ワインを気軽に楽しむことができる30席のイートインスペースを併設した。

 高級スーパーの成城石井も、昨年9月に京王線調布駅の駅ビル「トリエ京王調布」に出店した店舗で、42席の「SEIJO ISHII STYLE DELI&CAFÉ(成城石井スタイルデリ&カフェ)」を展開、ハンバーガー、パスタ、ステーキなどをワイン、コーヒーといったドリンクメニューとともに提供している。レストランで使用する食材や調味料について、売場でも販売しているアイテムはその旨を表示し、レシピも配布し家庭でもその味を再現できるようにし、購入につなげていく狙いだ。

 流通大手のイオンでも、イートインスペースを設け、「できたてを、おいしさを、楽しむ、その場で食べる」という「ここdeデリ」を提唱し、生鮮売場で販売する商品を使った海鮮丼「魚魚彩(ととさい)」「ガブリングステーキ」をはじめ、パスタショップやサンドイッチショップなど次々と新しい専門ショップを開発、取り組みに力を入れている。

 そして今春、「フードホール」という新手が登場した。米国発のイートインスペースで、ファストフード感覚の手軽に利用できるフードコートとは異なり、より高級なイメージを打ち出し、本格的な食事も楽しめる。
ニューヨークでは前述した「イータリー」をはじめ、高級ホテルにも設けられ、人気スポットとなっている。

●LUCUA FOOD HALL

 日本では今年4月、JR大阪駅の駅ビル「LUCUA osaca(ルクア大阪)」に、「LUCUA FOOD HALL(ルクアフードホール)がオープンした。開発したJR西日本SC開発によると、デパ地下でもない、フードコートでもない、マルシェとレストランが融合した次世代型の新しい食エリア。本家の米国版を進化させたジャパニーズバージョンだ。地下2階の約860坪に、スーパーマーケットの阪急オアシスの新業態「キッチン&マーケット」を核テナントに、テイクアウトも可能なレストラン6店舗とカフェ3店舗が出店している。

 注目はなんと言っても「キッチン&マーケット」。
肉、野菜、魚などの食材や惣菜、加工食品を購入する物販エリアと、その場で食べることができるダイニングエリアを融合させた売場となっている。

 イートインスペースは300席、エスプレッソ、ワイン、パスタ、生ハムなどを提供するインショップで構成するイタリアンフードマーケット「メルカ」、野菜、肉、魚など生鮮食材を提供する「フレッシュガーデンエリア」、ソフトドリンクやアルコールを提供するイートインスペース「ミート&イートスクエア」など7つのゾーンに分かれている。

 売場で買い求めた食材で屋内バーベキューが楽しめ、ワイン売場のアイテムもその場で飲め、惣菜、弁当も食べられる物販と飲食が連動し、それぞれのエリアは融合するかたちで展開されている。

 店内のBGMはイタリアの音楽を流し、マグロの解体ショーも1日5回行うなど賑わいも演出、イートインスペースは夜は照明を暗くするなどムードづくりにも気を配る。そして、選べるサラダバー、ドライフルーツの量り売りなども展開し、多様な楽しみ方を提供している。

 食品の品ぞろえも、缶詰250種類やさまざまな菓子を揃えた「おやつマーケット」、その場で削る鰹節などこだわりを打ち出し、デリカもあごだしを使用した鶏の唐揚げや総菜の「鶏三昧」など、5つの特色のある専門ショップを揃えた。


●スーパーマーケットの有用性向上

 こうして食のあらゆるニーズに応えることで、従来デパ地下の食品売場だった頃と比べて、午前中はスーパーとして利用するシニアや主婦、ランチ時はオフィスワーカー、夕方以降は勤め帰りに夕食を買い求める客や、チョイ呑みでの利用と、客層の幅も広がった。

 フードホールにせよ、グローサラントにせよ、その背景には食シーンにおける生活者のニーズや志向の変化がある。ただ、その場ですぐ食べられる「即食」は、スーパーマーケット側が積極的に仕掛けたもの。自宅の献立メニューの食材や、簡便調理志向といったマーケットインの発想による出来合いの商品を提供するだけではなく、新たな機能や場を設けることで需要を喚起しようとする取り組みだ。

 こうした動きがどこまで広がるか、今のところ展開できる企業は限られており、スーパーマーケットのメインストリームになる可能性は少ない、しかし、イートインスペースの拡充に取り組むところも目立ち、店で食べるという食習慣はある程度定着していくことが予想される。そこで、前述したような本格的な料理メニューを提供するのか、あくまでも惣菜、弁当、ドリンク類にとどめるのか、店舗の立地や規模などによって分かれることになる。


 イートインスペースでは、ドリンクやサンドイッチなどの軽食利用が主で、滞在時間も15分程度という調査結果もある。そこでポイントとなるのが惣菜売場での対応。単に弁当、惣菜を販売するのではなくイートインに適した商品開発も求められ、スペース自体の工夫も必要だ。いずれにしても、なんらかのかたちで即食機能を備えれば、スーパーマーケットの有用性は確実に高まることになろう。
(文=西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー)