ビジネスパーソンは、仕事を任せてもらえるようになるまで、常に試され、観察されているものです。周囲は、あなたが信用できる人かどうかを見極めようとしています。
信頼できる人かどうかは、特別に業績が優れているとか、才能があるかといったことよりも、基本的な事柄において常識的かどうかで判断されるものです。たとえば、不注意によるミスが多いようでは心配ですし、叱られてすぐにひねくれるようでは困ってしまいます。
そうしたなかで、最も気をつけておきたいことの1つに「時間を守ること」があります。時間を守る人かどうか、人の時間も大切に考えられる人かどうかは、信頼してもらえるかどうかの要になることが多いものです。具体的な例を見てみましょう。
●待ち合わせは「先に着いて待っている」のが基本
たとえば待ち合わせで、時間に間に合うように到着するのは当然のことですが、あなたはいつも何分前に到着する人でしょうか。待ち合わせの相手によって、到着する時間を変える人もいるようですが、かなり早めに着いて待つ人や、いつでも5分くらい前に来る人など、人によっておおよそ到着のパターンは決まっているものです。
目上の人に会うときや、自分が何かを頼む立場にあるときは、20分くらい前に到着して待っているのが基本と考えましょう。そのくらい早く着いていれば、相手が早く来ても待たせることはないからです。そして、もちろん待ったという素振りなどは、相手には見せないようにします。
待ち合わせの時間ぎりぎりになって現れる人がいますが、少なくともビジネスパーソンとしては、それは正しい時間の守り方ではありません。
●どのように現れるかを見れば、相手のことがわかる
筆者も先日、仕事を依頼しようかと考えていた相手と待ち合わせをしました。私はどんなときでも10分くらい前には到着しているタイプなのですが、相手は時間ぴったりに現れ、私の姿を見つけると小走りに駆け寄ってきました。私は、きっと相手は時間についてこのような感覚で、遅れて来るときもあるだろうと感じました。
そして別の日に待ち合わせたときには、やはり少し遅れて現れたのです。そのときまで私は、まだその相手に仕事を依頼するかどうか迷っていたのですが、このわずかな遅刻で、私は仕事を依頼すると、あとで私自身がストレスをためるときが来ると思えてしまったのです。
この相手は、悪い人ではないのですが、待ち合わせのときと同じように、普段のコミュニケーションでも次第に不安定さが目立つようになってきました。すぐにでも送れるはずのメールが数日後にやっと届いたり、レスポンスが不十分だったりといったことが起きてくるのです。
こうしたちょっとした付き合いから、まず相手のことを知ろうとするのは、ビジネスパーソンにとって、実は大事なことです。誰もが、このように私たちの行動を見ていて、信頼できるかどうかを見極めようとしていることを覚えておきましょう。
●商談などで相手を訪問するとき
ビジネスパーソンなら、「約束の時間より早め」を心掛けるべきですが、取引先のオフィスを訪問するような場合は、あまり早く着くのも迷惑になりますから注意が必要です。
昔は、顧客のオフィスでも早めにうかがって、約束の時間まで待たせてもらうという慣行もあったように思いますが、今日では、約束の時間の少し前くらいに着くのが常識的です。そのため訪問先のオフィスの近くまで早めに到着し、少し待機してから訪れるのが普通でしょう。
相手や状況によっては、早く来ているのなら、早くはじめようと言ってもらえることもあります。しかしながら、遅れて来るなら、それでもいいとは決してならないことを忘れないようにしましょう。
●気を遣いすぎた非合理的な集合時間
待ち合わせ時間については、お互いに気を遣いすぎて、おかしな関係になっているのを見たことがあります。
これまで最も滑稽に思ったのは、朝9時の待ち合わせのはずなのに、双方が2時間も早い7時ごろに到着しているのを見たときです。
あるセミナーの講師が、10時開始の企業研修のために、9時に会場に着いて、企業の担当者と打ち合わせをします。この場合、9時までに会場に着けばいいのですが、講師は、万一電車が遅れて、自分が遅れると皆に迷惑がかかるといって、朝8時に到着する電車で会場に向かうのです。そうすると、企業の担当者は、講師の先生より遅く会場に着くわけにはいかないといって、7時半に到着します。
すると、さらに講師は私のほうが遅いなんて申し訳ないと、もっと早い電車に乗り、結局2人は朝7時に会場で会っているのです。しかもその2人は、一度だけでなく、何度もそんなことを繰り返していたのです。
私も含めて、この話を知った周囲の人たちは、もっと合理的な時間管理をするよう双方にアドバイスしたのは言うまでもありません。
●レッドカードが出てしまうようなケース
若い世代の人たちを見ていて気になってしまうのが、待ち合わせに遅れるようなとき、あるいは行けなくなったときに、メールで一方的に連絡するだけという習慣です。
たとえば、以前から約束していたことを当日キャンセルせざるを得なくなったときに、テキストによるメッセージだけを送り、肉声で伝えることも、詫びることもないのは、失礼なことです。
知り合いから聞いた話ですが、あるとき若い人が夕食の待ち合わせの場所に現れないので、電話をすると、行けなくなった旨を昼間メールしておいたというのだそうです。その電話での話し方も、あとで見たメールの文章も丁寧だったそうなのですが、私の知り合いは、取りやめにしたいという意向が相手に伝わったか確認しないまま放っておける、その感覚がわからないというのです。
無論、緊急の用事で仕方のないときはあるものですが、そうではなく電話もできるのであれば、テキストのメッセージだけを一方的に送っておしまいでは、相手のことを十分に気づかっていないと思われてしまうでしょう。
若い人が来なかった理由は、午前中に行った歯科医での治療が大がかりで、その日は普通の食事が採れなくなったからということでしたが、私の知り合いは、鮨屋の予約をしてあり困ってしまったようです。若い相手はそうしたことまで想像が及ばないのでしょう。
ここで、その若い人を責めたいのではないのですが、ビジネスパーソンとしては、そのくらいのことを思いつけないようでは、不合格と言わざるを得ません。待ち合わせなどは簡単なことに思えるのですが、このように信頼を失う結果をもたらすこともあるものです。
周囲の人たちが、あなたが「時間(あるいは約束)を守る人かどうか」を見ながら、信用できるかどうかを観察しているのは、いじわるをしたいからではありません。人は誰でも信頼できる人と付き合わなければ、自分が痛い目に合ってしまうため、慎重にならざるを得ないのです。
(文=松崎久純/グローバル人材育成専門家、サイドマン経営代表)