1月8日からTBS系の深夜ドラマとして連続放送され、現在Season2が定額有料動画配信サービス「Paravi」(パラビ)で放送されているドラマ『新しい王様』は、お金をテーマにした作品だ。

 主人公のアキバ(藤原竜也)は、かつて日本郵政などに大型買収を仕掛けて世間を騒がせた男。

現在はアプリ開発で生計を立てながら、ときどきテレビに出演する文化人兼投資家となっていた。越中ファンド代表の越中勲(香川照之)とは過去になんらかの因縁がある犬猿の仲だったが、中央テレビ買収のために手を組むことになる。

 物語は、何を考えているのかわからないアキバと、セレブのパーティーや食事会に美女を派遣する人材派遣会社の駆け出し社長・鴨宮コウシロウ(杉野遥亮)、闇金の取り立てから逃げようとしていたところをアキバに助けられた、看護学校に通う三井エイリ(武田玲奈)の3人を中心に、テレビ局やセレブたちの人間模様が描写され、そこで「現代におけるお金の意味」が繰り返し問われるドラマとなっている。

 プロデューサー・監督・脚本を担当するのは、株式会社ヒントの山口雅俊。近年は『闇金ウシジマくん』(MBS)シリーズで知られるクリエイターだが、かつてはフジテレビに勤務し、『ナニワ金融道』シリーズや『カバチタレ!』といった金融モノのドラマを多数手がけている。

 山口が扱う作品の多くは「金」がテーマとなっている闇社会モノで、金の背後にあるヤクザやセレブのエグい姿が描かれる。そのままだと生々しすぎて、本来はとてもドラマや映画で見せられる題材ではないのだが、山口は描写をコミカルにしたり『カバチタレ!』のように主人公を女性にしたりして口当たりをやわらかくすることで、ギリギリ見ることができる題材に仕上げる。そのさじ加減のバランス感覚の絶妙さも含めて、毎回何が起きるかわからないスリリングなおもしろさがある。

 映画の代表作は、なんといっても福本伸行の人気ギャンブル漫画『カイジ』(講談社)シリーズの映画版(『カイジ 人生逆転ゲーム』『カイジ2 人生奪回ゲーム』<共に東宝>)だが、『新しい王様』でアキバを演じる藤原がカイジを、越中を演じる香川がカイジの宿敵である利根川を演じている。

●テレビ業界のタブーに踏み込む意欲作?

 本作について山口は「特定のモデルはいません」とインタビューで語っているが、アキバのモデルは誰がどう見ても元ライブドア社長の堀江貴文だろう。Season2に入るとテレビ局買収の攻防が物語の中心となっていくのだが、これは2005年に起きた、堀江によるフジテレビ買収騒動が下敷きになっているのではないかと思う。

 おそらく、文化人兼投資家となっている現在の堀江のイメージはアキバに、フジテレビ買収や政界進出を目論み時代の寵児となっていた00年代の堀江のイメージを越中に投影しているのだろう。


 こう書くと、「テレビ業界のタブーに踏み込む意欲作」ということもできなくはないのだが、すでにフジテレビ買収騒動から14年近くたっていることを考えると、「今さらこの問題を扱っても」という気持ちになってしまう。

 本作が描いている「テレビとウェブの対立」というテーマも、考えることが無意味なくらい現実は先に進んでいる。無料で見ることができる「ユーチューブ」はもちろんのこと、「ネットフリックス」「アマゾン・プライム」といった外国資本の有料配信メディアもすでに国内に入ってきている。また、「AbemaTV」のようなテレビ朝日とサイバーエージェントが業務提携するウェブテレビも生まれており、「SHOWROOM」のような双方向ライブ配信サービスや「TikTok」のようなショート動画サービスも含めれば、ありとあらゆる場所に動画サービスはあふれており、誰もが映像の送り手となれる時代がすでに到来している。

 ウェブにとって、もはやテレビは対立する相手でもないし、テレビもまた倒すべき王様というほどの存在感はない。

 買収騒動で揺れ動くテレビ業界で女優としてデビューすることになるエイリの物語が平行して描かれるのだが、こちらもいまいち食い足りない。戯画化されるテレビ業界の内幕劇――たとえば、越中が付き合っていた舞台出身の演技が下手な女優A(夏菜)を無理矢理ドラマにねじ込むという絵に描いたような醜聞が展開されるのだが、こういう裏側がまったくないとは思わないが、こちらの想像を超えるものが一切ないので、見ていてなんとも思わない。

 どうにも盛り上がりに欠けるのは、演出の軽さもあるだろうが、過激に見えるモチーフが一昔前の話ばかりだからだろう。テレビでアキバが発言したインタビュー映像が、テレビでは編集されて意図が変わってしまう姿を繰り返し見せることで、あらゆる映像は編集による操作が可能なのだと見せるシーンなどは悪くないのだが、せっかくウェブの有料配信なのだから、もっと最近の話題が見たいというのはぜいたくな注文だろうか?

 もちろん、Season2は始まったばかりであるため着地点はわからない。だから、今後の巻き返しに期待している。テレビとウェブの関係を示唆するような、2019年ならではの結末を描いてほしい。
(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)

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