首相を支配する官邸ポリス、闇の警察集団…首相の敵対人物を追い落とし、世論操作

 元警察キャリアが書いたリアル告発ノベル、というキャッチコピーで、『官邸ポリス 総理を支配する闇の集団』(講談社)という小説が昨年末発刊された。著者とされる幕蓮はこれまでの著作歴はなく、メディアにも登場していない。この本のための覆面作家ということになる。プロフィールには「東京大学法学部卒業。警察庁入庁。その後、退職」とのみ書かれている。

「中にいた人間じゃないと書けない、リアルさはあります」

 そう断言するのは、匿名で取材に応じてくれた警察庁OBである。

「ただ書かれている内容は、すでに報じられていることで、そこに内部の話をうまく入れながら繋いだ小説で、告発本とはいえません。ただ、その繋ぎ方に、内部にいた者にしかわからない情報が使われていて、そこがものすごくおもしろいですね。使われている専門用語も正確ですし、尾行の仕方ひとつとってもリアルです。キャリア警察は尾行なんかしませんけど、やってた人間から聞いたんでしょう。政治家や他省庁の官僚のことは『国賊』『最低』『唾棄すべき』などと書いている一方、キャリア警察のことはディスってないので、その意味でも中にいた人間が書いたのだと思います」

 内閣の重要政策に関する情報の収集・分析その他の調査を行っているのが、“日本のCIA”とも“警察庁の出先機関”ともいわれる内閣情報調査室だが、その内部に「エイワン」と呼ばれる官邸ポリスのアジトがあるというのが、小説の設定だ。

 安倍晋三首相は、多部敬三という名で登場する。杉田和博官房副長官は、瀬戸弘和。北村滋内閣情報官は、工藤茂雄などとなっているが、報道を知っている読者にはモデルが誰かはわかる。特定のモデルが見当たらないのが、さまざまな出来事を繋いで小説として成立させていくのに欠かせない、若い2人だ。官邸ポリスのメンバーで内閣情報調査室参事官補佐の澤村有、30歳。中央新聞政治部記者の奥田麗、24歳。この2人が恋人になっていくのは、小説ならではの展開だ。

 森友学園(作中は盛永学園)問題が発生した時に、たまたま澤村が大阪府警察本部警備部外事課長に就いていたというのも小説的だが、大阪府警からの近畿財務局への出向者に知り合いがいたというのも意外な展開だ。だが、警察庁OBは言う。

「警察と財務局との人事交流は、巡査部長、警部補クラスでけっこうあります。金融犯罪、経済犯罪を扱う捜査2課にとっては欠かせない知識が得られますからね。税金徴収などの税務を見張る必要があるので、国税局にも出向しています。澤村の経歴も正確です。官僚である警察庁の職員が交番勤務から始めるのか、と疑問を持たれた方もいるようです。実際にまず警察大学校にいる間に全員、交番勤務を1週間程度やります。まだ巡査にもなっていないので、見習いのそのまた見習いという感じで、単独行動はあまりさせてもらえません。警察大学校を出たら、また地方で交番勤務をやります。その後は、警視庁や県警などに出向する場合は、課長や課長補佐という役職になるのもその通りです。一般的にいって、30歳で内閣情報調査室に呼ばれたというのは早いという印象ですけど、“英才教育”と語られているように小説的な展開でしょう」

●対立する政党の議員のスキャンダルを炙りだし?

 官邸ポリスからリクルートされた澤村が最初に行なったのは、特定秘密保護法への反対デモに参加するメンバーの実態把握。だが、そのような情報収集は、常に警視庁公安部が行っているのではないだろうか。

「証拠資料集めは警視庁がきっちりやっているでしょうから、顔バレしていない澤村に、今後の勉強のために練習としてやらせたということはあるでしょう。武装革命を標榜するような極左のアジトに家宅捜査などで踏み込むというような職務だと、危険性もあるでしょうけど、デモだったら安全じゃないですか。危険性があるとしたら、場慣れしておらずキョロキョロしているだろうから、警視庁公安部に不審人物としてリストアップされちゃうということが考えられるかもしれません。まあ、深読みすれば、『こういう人間がいるからよろしく』って、警視庁公安部に伝えてあるかもしれませんけど」

 澤村は首相夫人の行動確認の任務が与えられる。名前は変えられているが、モデルはもちろん、安倍昭恵氏だ。

「澤村のパートナーとなるのが、刑事OBの探偵・調査会社となっていますけど、そうした職務を民間にアウトソーシングすることはよくあります。ただ実際には、内閣情報調査室から直接頼むということはなくて、ワンクッションどこかをかませているはずです。民間といっても、秘密を守ることができてコントロールのきくところになるので、警察OBでつくられた会社ということなら、実態に沿っているでしょう。

 ファーストレディの行動確認をするということは、過去にも聞いたことがないですし、普通では考えられません。大臣、あるいは選挙の立候補者を決める時に、身体検査というのはつきものですけど、普通は書類審査とか聞き取りくらいで、尾行まではしません。ただ彼女の場合、いろんなパーティに顔を出したり、大麻解禁論を口にしたり、原子力発電所輸出への異論を唱えたりして、自ら『家庭内野党』だと言ったくらいですから、なんらかのかたちでチェックしないとヤバいと思ったとしても不思議ではないですね。そもそも秘書官がついただけでも異例なことですから。彼女の場合、例外中の例外でしょう」

 野党の幹事長候補だった女性議員が、週刊誌に不倫を暴かれ離党を余儀なくされたという件も、官邸ポリスがキャッチして週刊誌にリークしたと書かれている。モデルはもちろん、民進党の幹事長に内定していた山尾志桜里衆院議員。実際に2017年、不倫の事実は写真とともに「週刊文春」(文藝春秋)で報じられて離党した。政治とは関係ない芸能人の不倫をスクープして“文春砲”と恐れられ、張り込みや尾行のスキルは高いはず。独自取材の成果ではないのだろうか。

「政党が、対立する政党の議員のスキャンダルを炙りだしてマスコミにリークしたという例は、聞いたことがあります。政府がそこまでやるかなと思いますけど、やってもおかしくないでしょう」

●官僚の行動確認、身体検査

 加計学園の獣医学部新設について、学園理事長と安倍首相が「お友達」だから行われた岩盤規制改革なのではないかと疑惑が渦巻いていた2017年5月。「総理のご意向」等と記された文部科学省の文書を明らかにした、前川喜平前文部科学省事務次官も別の名で登場する。

 前川氏が文科省在職中の15年頃から新宿・歌舞伎町の出会い系バーに通っていたことが、読売新聞で報じられたのは事実だ。買春の温床ともいわれる出会い系バーに通っていた理由を「貧困女性の売春の実態を知りたかった」と会見で語った。前川氏の出会い系バー通いも、官邸ポリスの依頼により、探偵・調査会社が掴んだものと書かれている。

「官僚に行動確認をかけることはそんなにはないと思いますけど、あいつどうなんだ、っていう時には身体検査はします。政治主導ということで、局長クラスの人事は内閣人事局でやるようになっていて、政府の任命責任が問われるようになったので、昔と比べて身体検査はそこそこやっているはずです」

 18年の総裁選から国民の目を逸らすために、日本大学アメフト部の反則タックル問題やスポーツ界でのパワハラ問題を、官邸ポリスは次々と表面化したと書かれている。

「そのあたりは若干違和感を感じるところではあります。ただ、警察にはあらゆるところから情報が集まっています。別のネタを流して目を逸らしたりっていうのは、芸能界もやってるし、ほかのネタで盛り上がるであろう時期に企業が不祥事の説明会見をやるとか、そういうことはどこでもやっていることですから、あり得ることでしょう。

 あれだけ連チャンで不祥事が出てくるっていうところには、何かしら作為を感じます。政権としても、世耕弘成さんあたりを広報担当にして、対立候補となった石破茂さんをあんまりテレビに出ないようにしていたと聞いてますから。攻めているほうが恰好よく見えて応援が集まるということがあるので、2人で並んで出るようなことは避けたということはあるようです」

●問題の収拾にも奔走

 官邸ポリスのメンバーとして、総括審議官兼警備局の中村格氏をモデルとした人物も登場する。15年に、当時TBSの報道記者でワシントン支局長だった山口敬之氏からレイプされたとして、伊藤詩織さんが訴えて、高輪警察署の捜査の末、逮捕状が発行された。その執行の停止を命じたのが、当時、警視庁刑事部長だった中村氏である。山口氏は安倍首相と親しく、『総理』『暗闘』(ともに幻冬舎)など安倍首相を称える本を書いている。

「あそこだけは、説明しようがないですね。有名人だから逃走の恐れもなく、証拠隠滅の恐れもないから逮捕しないで任意で話を聞くという理屈だったら、最近、強制性交等の容疑で逮捕された俳優の新井浩文だって、逃げも隠れもしないだろうから逮捕しないでいいということになっちゃう。そういう理屈は逮捕状の請求前だったらありえますけど、逮捕状が発行されているのにその執行を停止するだけの理由にはなっていません。『我々の手で、私利私欲に走る政治家や官僚を排除していかなければならない』というのが官邸ポリスの出発点のはずなのに、そういう正義感から著しく逸脱している気がしますね」

 中村氏にも取材した「週刊新潮」(新潮社)は17年、レイプの内実と逮捕状の執行停止を報じている。女性記者へのセクハラが18年4月に「週刊新潮」で報じられた、福田淳一元財務省事務次官の一件も名前を変えて登場するが、そこには事態を収拾しようと右往左往する官邸ポリスの様子が描かれている。

 週刊誌に事実を暴かれ、時にはその報道にあたふたする官邸ポリスは、果たして恐るべき存在なのだろうかという感も抱く。だが、この本に書かれたことは、すでに報道されたことを小説に仕立てたのであって、それは氷山の一角にしかすぎないのかもしれない。ここ数年に起きた政治家や官僚をめぐる出来事を、記憶にとどめておくという意味で、意義ある1冊である。
(文=深笛義也/ライター)

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