日本球界からシアトル・マリナーズに移籍した、メジャーリーグ1年目の菊池雄星投手。5月8日(現地時間)に行われたニューヨーク・ヤンキース戦で、禁止されている“松ヤニ”を使用したのではないかと話題を呼んでいる。
松ヤニ疑惑が持ち上がったのは、テレビカメラが菊池投手をアップでとらえたときのこと。帽子のツバの裏側が茶色く汚れていたため、指につけた松ヤニが付着したのではないかというのだ。松ヤニは滑り止めの役割を果たすため、メジャーだけでなく日本でも使用が禁止されている。現地記者によると、ヤンキースのアーロン・ブーン監督は汚れに気づきながらも抗議はしなかったという。
松ヤニを使用したのであれば違反行為に違いないが、現地メディアの論調は菊池投手を糾弾するようなものではない。ウェブ版「NBC Sports」の記事は「すべてのチームのピッチャーが使用している」と明言し、打者も頭部にボールが飛んでくる可能性が低くなるため「使用を気にしていない」と伝えている。
一方、野球ファンの心境は複雑なようで、インターネット上には「暗黙の了解ということ? モヤモヤしますね」「程度の差こそあれ、ほかの選手もやっているということか」「みんな、自分の首を絞めることになるから菊池を責められないんだな」「ヤンキースが気づいていながら抗議しなかったって、なんか闇が深そう」という声が続出した。
もちろん、過去に“ルール違反”を犯して厳格な処分を受けた選手は多い。たとえば、飛距離を伸ばすため軽量化された“コルクバット”は日米ともに使用が禁止されている。ところが、2003年に前年の本塁打王であるサミー・ソーサ選手のバットが折れた際にコルクが見つかり、ソーサ選手は退場処分を受けた。
日本では、11年に中日ドラゴンズ(当時)の井端弘和選手が日本人初のアンチ・ドーピング規則違反者となった。目の治療薬に禁止薬物成分が含まれており、除外申請にミスがあったため違反と認定。
今のところ菊池投手の疑惑は不問に付されそうだが、一方で「いつ手のひらを返されたり、何かあったときに蒸し返されたりするかはわからない」と懸念を示すのはスポーツライターだ。
「メジャーでは人種差別ともいえる行為が横行しているのが現実です。あのイチローでさえ、試合中に観客から暴言を受けたほか、アイスやコインを投げつけられた経験を明かしています。1年目に“レーザービーム”を見せて伝説となった試合でも、その直前まで観客席から物が飛んできていたそうです。また、打席で構えに入る前に体の近くにボールを投げられるなど、嫌がらせとしか思えないような目にも遭っています。
04年にシーズン最多安打記録を更新してメジャーでもレジェンドとなってからも、『チームが低迷しているのにヒットを打ち続けている』というだけで『利己的だ』『チームプレーに徹していない』という不可解な批判を受けたことがありました。これらには、イチローが外国人選手であったことも少なからず影響していると見るのが自然でしょう」(前出のスポーツライター)
17年のワールドシリーズでは、ロサンゼルス・ドジャース(当時)のダルビッシュ有投手への侮蔑行為も問題になった。ヒューストン・アストロズのユリエスキ・グリエル選手がダルビッシュ投手からホームランを打った際、ベンチで両目尻を引っ張るようなしぐさを見せた上に、アジア人を侮辱する意味合いの「チニート」というスペイン語を発したのだ。これが「アジア人差別」「侮蔑行為だ」と大バッシングを受け、グリエル選手はのちの対戦時にダルビッシュ投手に謝罪している。
同年、ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手に対してテレビ局の解説者が「(英語の)野球用語を覚えろ」と発言し、「人種差別だ」などと批判を浴びて謝罪。昨年10月にも、田中投手にテレビ局の解説者が「Chink」(中国人や東アジア人を表す英語の差別的表現とされる)と発言し、「言葉の選び方が不適切でした」と謝罪に追い込まれた。
そうした背景があるため、「今回の騒動が沈静化したとしても、のちに菊池が人種差別まがいのバッシングに遭う可能性もある。そのときに、『1年目からこんなことをしていた』と大げさに伝えられたり、この疑惑が差別行為を助長したりすることも考えられます」(同)という。
いずれにせよ、菊池投手には騒動を吹き飛ばすスカッとした活躍を見せてほしい。
(文=編集部)