録画やネット視聴が増えたとはいえ、視聴率は初回から6.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)、5.8%、6.0%と、民放4局のプライムタイム(19~23時)で最下位。メディアやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で話題になることも少ないなど、『パーフェクトワールド』(関西テレビ、フジテレビ系)が苦しんでいる。
同作は事故で車椅子生活となった鮎川樹(松坂桃李)と、高校時代の同級生・川奈つぐみ(山本美月)のラブストーリー。障がいという困難を軸にした恋愛模様は、若年性アルツハイマーという困難を軸にした『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)を見ればわかるように、ベタだからこそ今の視聴者に合うはずだ。
では、なぜ『パーフェクトワールド』はこれほどの大苦戦を強いられているのか? 企画、物語、キャスティング……カンテレの制作スタンスから、その理由が見えてくる。
●人気原作漫画と昨秋の実写映画化
同作は2014年から「Kiss」(講談社)で連載されている漫画の実写化。「累計発行部数170万部突破」の人気漫画であり、“原作ありき”の企画であることがわかる。
さらに、昨年10月に岩田剛典と杉咲花のコンビで映画版が公開されたばかりであり、「先の読めない」ワクワク感や「ほかでは見られない」オリジナリティは極めて薄い。それを承知で人気漫画を選んだところに、「視聴率がほしい」という思いが透けて見える。
肝心の物語も、「つぐみがなぜ車椅子の樹を好きになり、付き合おうと思ったのか?」という理由が「初恋だから」だけではリアリティに欠ける。視聴者の頭に「それだけでいきなり付き合おうと思える?」という思いがよぎり、気持ちよく感情移入できないのだ。
もちろん、視聴者に2人の恋を応援してもらうための仕掛けは用意している。幼なじみのつぐみを思い続ける是枝洋貴(瀬戸康史)、樹の理解者を自負する訪問介護ヘルパー・長沢葵(中村ゆり)、つぐみの過保護な父親・川奈元久(松重豊)など、「今後の盛り上がりは、2人の恋を阻むキャラと演じる俳優の奮闘にかかっている」といってもいいだろう。
●ムロのサプライズも、健史や流星の新星もなし
キャスティングの面でも、安定感こそあるものの、物足りなさを感じてしまう理由があった。
メインの四角関係を形成するのは、松坂、山本、瀬戸、中村の4人。いずれもすでに人気者であり、出演作も多く、安定感を生み出している。しかし、『大恋愛』ムロツヨシのようなサプライズも、『中学聖日記』岡田健史や『初めて恋をした日に読む話』横浜流星のような新星もない。これらはいずれもTBSの恋愛ドラマだが、キャスティングに工夫を凝らしている様子が伝わってくる。
対して『パーフェクトワールド』は絵に描いたような美男美女のキャスティングであり、「エッ?」という驚きや「誰?」という発見がなく、話題性に欠けるのだ。恋愛ドラマは、ほかのジャンル以上に、演技力より話題性が求められることもあり、放送前から視聴者に映像のイメージを持たれてしまっていたのではないか。
なかでも、「車椅子生活を送り、一度はあきらめた恋や人生と向き合うが、さまざまな困難に直面する」という難役に挑戦する松坂の責任は重い。恋愛感情だけでなく、車椅子を使った日常生活、車椅子バスケなど、ひとりで作品の世界観を体現しなければいけないのだから、そのプレッシャーは察するに余りある。
もともと人気や知名度の面でも、松坂ありきの作品であることも含めて、「頼りすぎではないか」と言いたくなってしまうのだ。
●近年、攻めに攻めていたカンテレ
同作を制作するカンテレは、近年攻めの姿勢を見せ続けて、ドラマフリークたちをうならせてきた。
17年は、圧巻のアクションと不穏な結末でザワつかせた『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』、高校生の犯罪と逃走劇を描いた『僕たちがやりました』、スクールカウンセラーが生徒の死を追う長編ミステリー『明日の約束』。
18年は、内片輝監督をチーフ演出に迎え、映像にこだわった『シグナル 長期未解決事件捜査班』、繊細な描写が求められる生活保護をテーマにした『健康で文化的な最低限度の生活』、わかりづらい大切なものをあえて描くヒューマン作『僕らは奇跡でできている』。
安易な1話完結の刑事、医師、弁護士ドラマに走ることはなく、他局はもちろん系列局であるフジテレビのドラマとも差別化されていたし、熱狂的なファンを生む作品も少なくなかった。
しかし、視聴率が取れなかったことで、今年に入って攻めの姿勢が失われている。前期の『後妻業』は16年8月に映画化された作品であり、木村佳乃演じるヒロインの悪女ぶりは抑えめで、むしろポップな印象さえあった。
そして、今期の『パーフェクトワールド』は前述したように原作漫画ありきで、映画も公開されたばかり。松坂の力に頼る作品でもあり、「カンテレらしくない」と感じてしまう。カンテレなら「松坂と山本のコンビで、オリジナルのラブストーリーがつくれたはず」「サプライズや新星のキャスティングでワクワクさせてほしかった」と感じてしまうのは、期待感が大きいからにほかならない。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)