放送前から「『ナースのお仕事』(フジテレビ系)そのまんま!」という声が飛び交い、スタート後には、さらに過熱。CMクイーンである中条あやみの初主演ドラマとして期待値の高かった『白衣の戦士!』(日本テレビ系)が、中盤に差し掛かってなお、人々の厳しい声にさらされている。
『ナースのお仕事』の最終シリーズが2002年だったことを踏まえると、「そろそろ同じ看護師コメディがあってもいいのでは」と考えても不思議ではないだけに、制作サイドとしては「これほどの厳しい声は想定外だった」と感じているのではないか。
ただ、視聴者から批判されているのは、「『白衣の戦士!』が『ナースのお仕事』に似ているから」ではなく、「『ナースのお仕事』放送開始の頃よりも古いのでは?」と思わせる感覚の脚本・演出だろう。
●物語を分断するインサートカット
初回のファーストシーンは、ヒロインの立花はるか(中条あやみ)が廊下を走り回り、水を床にぶちまけて、指導係の先輩看護師・三原夏美(水川あさみ)から「立花さーん!」と説教されるというものだった。
そのドジとドタバタは放送が進んでもやむ気配がなく、仕事中に加えて、はるかと斎藤光(小瀧望)、夏美と本城昭之(沢村一樹)の恋愛シーンにもおよんでいる。たとえば、5月8日に放送された4話では、斎藤に「お前しかいないんだよ」と言われて部屋に連れていかれたはるかが、「私にも心の準備が~」と動揺していると、「ゴキブリ退治の依頼だった」というオチ。
あるいは、本城から「好きな人とかいるのかな?」と声をかけられた夏美は、「いきなりそんなストレートな」と戸惑うが、「(娘は)16歳だと普通、彼氏とかいるのかな。どう思う?」と言われてガクッと崩れ落ちるシーンがあった。
それ以外にも、斎藤と食事しているはるかのごはんが丼にてんこ盛りで、レモンサワーが巨大メガジョッキ。外科医の柳楽圭一郎(安田顕)が看護師たちに妄想を語りかけるが誰も聞いていなかったなど、昭和のコントを思わせるシーンが続いた。
極めつけは、不意に差し込まれるインサートカット。全面ピンクの部屋で「キタ! キタ! キター!」と喜び、全面ブルーの部屋で「アイツだけはナイ! ナイ! ナイ!」と拒否するなど、心の声を映像化していたのだ。
これ以外にも、「私、何気にしてんだろう?」「なんで私、ホッとしてんだ?」「デートじゃん!?」「まさかこれって恋?」「よっしゃー!」と視聴者に話しかけるカットをはさむなど、あえて物語を分断するような演出を多用している。
●ベタは好きでも古さは許さない視聴者
視聴者の感情移入を分断すること以上に問題なのは、どれも1980~90年代のノリであり、コメディとしての質が古いこと。ドラムロールなどを使った効果音、喜んだり怒ったりすると全身から線が飛び出す漫画的な映像加工、ギャルのキャラクター造形……。ここまで徹底している以上、「現在の視聴者はこれくらいベタなほうがウケる」という判断に基づいた脚本・演出であることは間違いない。
しかし、現在の視聴者は、『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)、『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)を見ればベタな展開が好きな感こそあるが、ディテールの古さは見逃してくれない。しかも、制作サイドにとって恐ろしいのは、脚本家や演出家の過去作品はおろか、年齢まで調べられた上で、「だから古い」と断定されてしまうことだ。
もし通用するとしたら、古いノリを知らず“初見”となる上に、中条のファンが多い10~20代前半なのかもしれない。すると、必然的に水曜22時台という大人層向けの放送時間ではなく、19時台か20時台が最適帯となる。
たとえば、80年代の中山美穂主演『な・ま・い・き盛り』、南野陽子主演『熱っぽいの!』(看護婦が主人公の作品)、90年代の宮沢りえ主演『いつか誰かと朝帰りッ』、松雪泰子主演『白鳥麗子でございます!』などを放送していた「フジテレビ木曜20時台のラインナップとみなせば、ちょうどいいかもしれない」と感じてしまう。
●終盤に意外な感動を得られる可能性も
15日放送の第5話では、はるかと斎藤、夏美と本城に加えて、主任の村上真由(片瀬那奈)の恋も描かれるなど、予告映像は恋愛モード一色。「どんな病気のどんな患者が現れるのか」がわかるところは一切ない。
久々の看護師コメディだけに、その方針は必ずしも悪いとはいえないのだが、ならばもっと“看護師あるある”をフィーチャーしてもいいのではないか。4話の冒頭で、「健康相談会になりがち」「お酒強いだけで『白衣の天使のイメージ崩れた』と言われる」「下ネタを言ったらドン引きされる」という合コンにおける“看護師あるある”を連発して笑いにつなげていたからだ。
ドジとドタバタを繰り返す古い脚本・演出ではなく、看護師の今をとらえた “あるある”で笑わせるほうが、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の動きも活発になるだろう。
前述した80~90年代に放送されていた20時台の作品は、「演技経験の浅いアイドル女優の成長を見守る」という楽しみ方もあった。同様に『白衣の戦士!』も、水川に引っ張られて中条が成長した姿を見せられれば、終盤に意外な感動を得られる可能性がまだ残っている。それは「中条と水川は自分ができる精一杯の仕事をしているから」にほかならない。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)