『少女革命ウテナ』で一世風靡した幾原監督の12年ぶりの作品『輪るピングドラム』は“家族”がテーマの愛のアニメ。余命わずかの妹「高倉陽毬」を助けたい「高倉冠葉」「高倉晶馬」兄弟が手に入れたペンギン帽子。
それを被ると陽毬は生き返り、プリンス・オブ・クリスタルという別人格となってしまいます。「助けたければピングドラムを手にいれろ」と指示される兄弟の奮闘を描いた作品です。今回ご紹介する「夏芽真砂子」(なつめまさこ)は、同じくピングドラムを手に入れるために、最初に立ちはだかる対抗者です。

【※一部、ネタバレの内容を含む可能性が御座います。ご注意下さい。】

■縦ロールといえばお嬢様

 1995年3月20日生まれの女子高生でありながら、亡き祖父から引き継いだ「夏芽ホールディングス」の社長も務める女帝。
お庭の広い洋館で、弟のマリオと暮らしています。お嬢らしい発言と上から目線で、どんなに非道なことをしても「まあ、真砂子さまだから仕方ない」という気持ちにさせるオーラがあります。

 ヒロインの「荻野目苹果」(おぎのめりんご)の「プロジェクトM(マタニティ)計画」に対し、真砂子は「プロジェクトM(マリオ)計画」を進めています。マリオも陽毬同様に余命わずかで、ペンギン帽子をかぶることでその命を延ばしています。

 高倉兄弟や、自身の父が所属していた組織「ピングフォース(企鵝の会)」のリーダー「渡瀬眞悧」(わたせさねとし)に、「日記の呪文がマリオの命を救う」からとピングドラムを奪うことを指示されて動いていますが、眞悧を胡散臭く感じており、信用はしていません。お兄様に比べて判断能力がある娘さんなのであります。


■兄と父と組織との関係

 高倉夫妻が幹部を務めていたピングフォースに、父や兄とともに参加していた真砂子ですが、兄の「二人を普通の子どもに戻したい」という希望で、真砂子と弟のマリオだけ連れ戻され父と兄は自主追放されます。その後、父は切り捨てられ死亡し、兄は高倉家に養子に入り、高倉家の長男として育てられます。真砂子としては兄を取られた気持ちも強く、高倉家の弟妹に関してはあまり良い感情は持っていません。冠葉は夏目家とは断絶するつもりでいたので、真砂子からのプレゼントをつっ返し続けていたようです。そのため、兄妹だとわかるまでは、真砂子は振られた元彼女でストーカーだと思われていました・・・。

■命がけで兄を止めたい、熱い思い

 ペンギン帽子の力で冠葉から命を分け与えられた陽毬。
組織のボスである眞悧により、命を長引かせる薬を投与されます。法外な値段を要求された冠葉は、組織の仕事をせざるを得ない状況に・・・。次々と危険な仕事を請け負い、組織の中核となっていく冠葉。父の二の舞にしたくない真砂子は必死で止めようとしますが、冠葉は聞き入れません。真砂子のことを「大切な妹」と過去には言っていたはずなのに・・・。ウソの妹である陽毬のためにドロ沼にはまる兄をみていられないのです。
実際には、冠葉の陽毬に対する気持ちは、兄としてではなく“LOVE”なのですが、それを知らない真砂子にとってはもどかしいですよね。

 そして冠葉は、人の命を奪う行為を否定する義弟の晶馬とも決裂してしまいます。陽毬も命を捨てる覚悟で止めますが、冠葉にとっては陽毬の命に代わるものなどこの世にはなく、結果的に守りたかった高倉家も、夏芽家と同様バラバラになってしまうのです・・・。

 強欲でお金持ちの祖父を汚いと感じ、家を捨てて理想に走る父と組織を美しいと感じていた真砂子。そして、陽のあたる場所に自分たちを戻してくれた兄を、命をかけて守ろうとする真砂子も実に凛々しく美しく魅力的です。特に22話『美しき棺』は必見です。


【原稿作成時期の都合により、内容や表現が古い場合も御座いますがご了承下さい】

★記者:藤原ユウ(キャラペディア公式ライター)

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