日本におけるQRコード決済の利用がさらに拡大しています。PayPayがまとめたところでは、2022年におけるキャッシュレス決済回数でコード決済が電子マネーを超え、クレジットカードに次ぐキャッシュレス決済手段となりました。


クレジットカードや電子マネーとは異なるコード決済の弱点として、「オンラインでないと決済ができない」という点が上げられます。これを解消するため、PayPayが新たに「オフライン支払いモード」機能を提供開始しました。

○圏外でもギガが足りなくてもコード決済

コード決済では、チャージした残高や登録したクレジットカードの情報をオンラインで保持しており、決済のたびにインターネット経由で決済情報を取得して支払いを行います。そのため、利用者のスマートフォンがインターネットに接続している必要があります。

この場合、例えば地下にある店などでは携帯電話の電波が弱い、または圏外の店で支払いができないといった弊害がありました。2022年の夏に発生した大規模な携帯電話の障害時も、該当するキャリアのユーザーはPayPayでの支払いができなくなりました。


昼時の繁華街で、一斉に多くの人が通信を使って通信品質が低下して、支払いに時間がかかるといった事例も発生しています。そうした状況では、オフラインでも決済ができるクレジットカードや電子マネーの方が扱いやすいというのが実情でした。

そこで今回、PayPayが開発したのがオフライン支払いモードです。詳細な技術は「複数の特許申請中」とのことで明らかにされませんでしたが、オフラインでも安全に決済ができるようにしたとしています。

具体的には、携帯電波が届かないもしくは弱い状況をアプリが検出し、自動的にオフライン支払いモードに切り替わります。通常は5分に1回書き換えられるコードが、1分に1回の割合で書き換えられるようになります。


利用できるのはCPM方式の加盟店で、ユーザーのスマホに表示されたコードを店舗のPOSレジなどで読み取る場合に限ります。この時、加盟店側のPOSレジはインターネットに接続されていることが前提です。

ユーザーのコードを読み取ると、POSレジからPayPayのサーバーに決済情報が送信され、同時にそのユーザーのアカウントに対して決済処理が行われます。本来は、この結果がユーザーのスマホアプリに送信されて決済が完了しますが、オフライン支払いモードではこの最後の結果送信が行われずに決済が完了。POSレジ側にそれが通知されます。

ユーザー側に対して決済完了の情報が通知されるのは、次にオンラインになった場合で、支払い通知が届いて、決済完了がユーザー側に明示されます。


決済はサーバー側で処理されるため、オフラインでも決済自体はリアルタイムに行われます。決済完了日時はあとでオンラインになって通知が届いたタイミングではなく、オフラインで決済した時点なので、加盟店側に支払いが遅れるなどの問題は発生しません。PayPayあと払いでクレジットカードを利用するタイミングも、オフラインで決済した時点になります。

このオフライン支払いモードが使えるのは、支払いモードとしてPayPay残高かPayPayあと払いを設定しているユーザーに限られます。1回の決済上限は5,000円までで、24時間ごとに2回までの利用が可能です。

月間のオフライン利用は10回まで、オフライン支払いモードの継続時間は14日間まで。
つまり、ずっとオフラインの端末が支払いに使えるわけではなく、使える金額も限られています。

限定的な利用に限られるのは、これが「緊急避難用途」であるからです。緊急避難といっても、長期間の通信障害が継続するような災害時を想定したものではなく、一時的に通信が使えない店や状況でも支払いができることを想定していると言います。

PayPayとしては「災害時に制限を緩和する可能性はある」とはしていますが、これは実際にそういった状況になってみて検討する考えのようです。もちろん、店舗側も通信が使えない状況になった場合は、オフライン支払いモード自体が使えません。

CPM方式を採用しているのは、比較的大手の加盟店で、コンビニエンスストアやスーパーなどのチェーン店を中心に、POSレジを整備した加盟店が多くなっています。
店頭にQRコードを掲示してユーザーに読み取ってもらうMPM方式の加盟店では、このオフライン支払いモードは利用できません。

MPM方式に対応するためには、通信が使えないスマホでQRコードを読み取って決済を行ったという情報を取得してサーバーに送信できる必要があります。「打開策はある」というのが同社の判断ですが、現状ではMPM方式に対応するかどうかは明言されませんでした。

オフライン支払いモードは、コード決済の弱点の1つを解消する技術ですが、さらに飛行機内など、もともと通信品質が良くない場所でも決済手段としてコード決済が利用できる可能性が出てきます。

地下で電波が弱い場所や圏外の店で使えるようになるので、加盟店にもメリットがあります。いわゆる「ギガが足りない」というデータ容量制限の状況で、通信速度が遅くてコード決済が使えないといった場合にも、手動で「機内モード」に設定してオフライン支払いモードにすることができるので、ユーザーにとっての利便性も向上するでしょう。


ユーザー、加盟店双方にとってメリットのある仕組みですが、今後、他社コード決済が追従できるか。各社の取り組みに期待したいところです。

小山安博 こやまやすひろ マイナビニュースの編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。最近は決済に関する取材に力を入れる。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、PC、スマートフォン……たいてい何か新しいものを欲しがっている。 この著者の記事一覧はこちら