今回のお話は、「不思議なご商売」。
○不思議なご商売
その昔、ブラジル、サンパウロの中心部に近い、でも少々怪しい道沿いのアパートに暮らしていた。今思い出すと、よくもまあと思うけど、その危うさがおもしろいと思っていたのだから、若さとはありがたい。そこで私は、ブラジル暮らしの全てを教えてもらったような気がする。
名前は忘れてしまったけど、その道に、「***兄弟店(***イルマンス)」という名の「食料品店」があった。
ところが、そこにはネズミ兄弟も住んでいて、こっちの方は、なかなか賑やかなのだ。
「あっ、ネズミも足りないものを向こうで調達するつもりだ」
行ったり来たりをアパートのベランダから幾度となく目撃した。
こっちは借用書はなしらしい。
そのたびに、私はクスッと笑ってしまった。
穴あきチーズを買うときは、穴の形に用心しなけりゃ。
なんとも言えない、いい風景だった?
今日、グーグルマップを回して、この通りをのぞいてみた。
本連載は、 『おいしいふ~せん』より、一部を抜粋してご紹介しています。
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○『おいしいふ~せん』(NHK出版)
著者:角野 栄子
たんぽぽの汁を吸って亡き母を想った子ども時代、初めての味に驚きの連続だったブラジル生活、『魔女の宅急便』の読者から届いたゆすらんめのジュース……。めまぐるしく愛おしい88年間の日々を支えてくれたのは、いつも“おいしいもの”だった。角野栄子さんならではのユーモアと温かみにあふれる文章と、カラフルで愉快なイラストを散りばめたショートエッセイ56篇を収録した本書は、かわいい装丁とサイズ感はプレゼントにもぴったり。
○PROFILE:角野 栄子(かどの・えいこ)
東京・深川生まれ。大学卒業後、紀伊國屋書店出版部勤務を経て24歳からブラジルに2年間滞在。その体験をもとに書いた『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で1970年作家デビュー。1985年に代表作『魔女の宅急便』で野間児童文芸賞、小学館文学賞受賞。2000年に紫綬褒章、2014年に旭日小綬章を受章。2016年『トンネルの森 1945』で産経児童出版文化賞 ニッポン放送賞を受賞。2018年に児童文学のノーベル賞ともいわれる国際アンデルセン賞作家賞を受賞。2023年に『イコ トラベリング 1948ー』で紫式部文学賞受賞、11月に江戸川区角野栄子児童文学館が開館。