Netflixが5月7日、テレビとモバイル向けの新しいユーザーインターフェース(UI)を発表しました。ユーザーの好みに合うコンテンツが探しやすくなり、操作性も一段と向上するという「新しいNetflix体験」の特徴と上手な楽しみ方を、Netflixのプロダクトの日本責任者である竹田珠恵氏に聞きました。
Netflixをより大きくするためのプラットフォーム改革
Netflixは、動画配信をはじめとする世界最大級のエンターテインメントサービス。2025年6月時点で190以上の国と地域でコンテンツを配信しています。日本では2015年の9月にサービスが始まったことから、今年は10周年のアニバーサリーイヤーになります。
Netflixはなぜ、このタイミングでUIの刷新を図ることを決めたのでしょうか? 竹田氏は「さまざまなコンテンツとサービスを拡充してきた結果、従来のプラットフォームに限界が見えてきたこと」がひとつの大きな理由だと説明します。
従来のプラットフォームは、さまざまなアップデートを繰り返しながら今日まで発展してきました。その結果、特にライブ配信やゲームといったNetflixに比較的新しく加わったコンテンツを今後さらに充実させるため、プラットフォームの底力を高めることが欠かせなくなったようです。
新しいNetflixのUIは「コンテンツの見つけやすさ」を重視した設計になっています。Netflixには現在、オリジナルコンテンツを含む膨大な作品が揃っており、ユーザーが任意の作品をスムーズに検索して見られるだけでなく、ユーザーに新たな作品との出会いを促進する仕組みがあります。
Netflixのコンテンツはさまざまな種類のデバイスで楽しめますが、今回のUI刷新は「テレビ」と「モバイル」のアプリに特化して行われます。
ユーザーの興味をすぐに把握するレコメンド機能
具体的には、どのような機能が新しくなるのでしょうか? 竹田氏は、もっとも大きな変化の1つが「リアルタイムに最適化されるレコメンド機能」であると話します。
従来のNetflixのレコメンドは、ユーザーがアプリケーションを起動する直前までの視聴履歴に基づいて生成されました。
新しいUIでは、Netflixの「ホーム」画面に表示される作品リストから、ユーザーがサムネイルを選択したままカーソルを止めたり、コンテンツのエピソード・詳細情報を開いたり、プレビューや予告動画を視聴した「行動履歴」を参照して、リアルタイムに「ユーザーへのイチオシ」を生成・表示するように変わりました。
例えば、ユーザーがホーム画面から家族で一緒に観られる「ファミリー向けのアニメやドラマ」をいくつかチェックしたとします。すると、ホーム画面のリストをスクロールした先の各セクションに「ファミリー向けの人気コンテンツ」が優先的に表示されます。結果として、ユーザーがその日・その時に興味や関心を抱いた作品に関連する情報が、より多くNetflixのホーム画面に並ぶことになります。
ほかにも、テレビ向けのNetflixアプリケーションは、全体的にモダンで新しい印象を与えるデザインに変わります。例えば、サムネイルのフレームは従来の四角形から角が丸みを帯びた形に変更されるなど、細部にわたるデザインの変更が施されます。作品を選択すると、ユーザーが参照できる作品情報が1つの画面にまとめて表示されるようになります。
作品に付与されるバッジの種類も増えます。受賞歴のある作品には「アワード」のバッジが分かりやすく表示されたり、新シーズンや配信開始などの情報を示すバッジも追加され、ユーザーの興味を喚起します。
ホーム画面の左側に配置されていた「検索」や「マイNetflix」のナビゲーションは、テレビ向けのアプリケーションではページのトップに移動します。ナビゲーションがトップの位置に横並びになったことで、拡張性が大幅に向上します。例えば今後、Netflixがテレビで遊べる本格的な「ゲーム」、多彩なジャンルの「ライブ番組」、新たに「ショッピング」や「グループチャット」のような機能をプラットフォームに追加することもあり得るのでは?という期待を筆者は膨らませてしまいます。
モバイル向けアプリには、新たに作品クリップの「縦型・全画面表示」がテスト導入されます。
気になるクリップをタップすると作品のページに移動したり、「マイNetflix」のリストに追加もできます。
モバイルアプリについては2024年12月までに、iOSとAndroid版アプリに「モーメント」の機能が追加されました。Netflixをサブスク利用している友だちや会社の同僚などに、お気に入りの作品、または作品のワンシーンをピックアップして「これ見てよ!」と簡単にシェアできる機能です。
移動中にスマホでNetflixが見やすくなる
日本のNetflixユーザーは、欧米地域のユーザーに比べるとモバイルでNetflixを楽しむ傾向にあると、Netflixはかねてより伝えています。日本の場合は、確かに通勤・通学の時間帯にNetflixをスマホで視聴するユーザーが多くいます。2015年にNetflixが日本に上陸した以降から、Netflixは「データ通信量を抑えながら、映像を高画質に配信するための技術」など、モバイル視聴の環境を急速に強化してきたことを筆者もよく覚えています。
近年では、モバイル向けアプリでNetflixを楽しむユーザーから「音声が聞こえにくい時でも、字幕を読みながらコンテンツを視聴したい」という声が多く寄せられていたそうです。Netflixの日本オリジナル作品では従来から、セリフだけでなく作品内の音に関する演出情報も文字にして表示する「字幕ガイド」を提供し、ハンディキャップがある人も含めすべての人に作品を楽しんでもらうことを目指しているといいます。現在は、新たに「セリフのみ」を文字に起こした字幕が追加されました。
竹田氏によると、日本のNetflixユーザーが作品を探す時の傾向として、「トップ10」や「キーワード入力による検索」を海外のユーザーよりも好んで活用するそうです。日本人はランキング情報が好きで、ニュースなどで話題になった作品をキーワードで探して見る傾向が強いため、と考えられます。また、日本のユーザーは次に視聴する作品を決める際に、欧米のユーザーよりも「時間をかけてじっくりと検討して見る」傾向が強くあるといいます。
Netflixのおすすめ機能を上手に活用する方法
Netflixでは膨大なコンテンツの中から、ユーザーの好みに合う作品をレコメンドする独自のアルゴリズムを開発・提供しています。
多くのユーザーは、気が付けばホーム画面の一覧に自分好みの作品が並んでいる感覚を持ちながら利用していると思います。このレコメンデーションがより賢くなるように、チューニングする方法はあるのでしょうか? 竹田氏に聞きました。
ひとつは「プロフィール」を使い分ける方法です。Netflixでは、ユーザーの1つのアカウントに対して、最大5つまでプロフィールが登録できます。例えば「自分用」のほか、「家族と一緒に見る時用」のプロフィールを持っておけば、プライベートな鑑賞時には「自分用」を選んでおくとファミリー向けのキッズアニメなどがホーム画面に混ざりにくくなります。
レコメンデーションのアルゴリズムは「作品をたくさん見るほど、ユーザーの好みを覚えて賢くなる」のだと竹田氏は説明します。作品を見終わったあとは、ページにある「イイネ」や「最高!」「イマイチ」の評価アイコンをまめにタップしておくと、レコメンデーションがより賢くなるそうです。
Netflixではレコメンデーションの精度を高めるため、3,000項目以上にも及ぶ「タグ」のなかから各作品にふさわしいタグを付与しています。タグの内容は、作品に登場する俳優や人気のキャラクターの名前、作品の雰囲気などさまざまですが、どうすればユーザーが求める作品を効果的にレコメンドできるのか、Netflixと外部のパートナーがタグの階層構造を検討しながら手作業でタグを入力しているというから驚きです。
AIとの自然会話型検索もテスト中
Netflixでは次世代UIに、新たに生成AIの技術を取り込むことにも挑戦しています。モバイル版アプリでは、実験的に生成AIを活用した「会話型検索」機能を採り入れました。
この機能は、ユーザーが「今日はこんな気分だから、こんな雰囲気の作品を探してほしい」といった自由会話に近いフリーワードを検索テキストフィールドに入力すると、AIがリクエストに合った作品を絞り込んでくれるというもの。チャット機能のベースはOpenAIのAIモデルから作られています。
この生成AIを活用した検索機能は、当初、iOS向けに小規模なオプトイン制ベータ版として、英語のみに対応する形でスタートしました。各国言語への対応は検討事項のひとつですが、竹田氏は「言語を単に直訳するのではなく、その言語が使われている国や地域の文化、習慣に即したデータ収集と最適化を同時に進めて、使いやすいレコメンデーション機能にすることが課題」であると指摘しています。
Netflixが実施する今回のUIのリニューアルは、単なる表面的なデザイン変更や機能追加にとどまるものではなく、根本的なプラットフォームの再構築を目的としています。Netflixの今後の事業展開の方向性を示す、重要な戦略的転換点が訪れたともいえるでしょう。今後、新しいサービスも追加されることになるのか、とても気になります。筆者がこのレポートを執筆している6月上旬時点ではまだ、自宅テレビのNetflixアプリはUIが切り替わっていないので、首を長くしながら楽しみに待とうと思います。
著者 : 山本敦 やまもとあつし ジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。
堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。 この著者の記事一覧はこちら
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