「最近の若者は、何を考えているのかわからない」
管理職から、そんな声を聞くことが増えたが、彼らは本当に「理解できない世代」なのだろうか。
2010年以降に生まれた「α世代」がいよいよ社会に出始める。
α世代を知ることは、彼らを理解するためだけではない。私たち自身が、これからの時代にどんな関わり方を選ぶのかを問い直すことでもある。
デジタルが「ツール」ではなく「空気」である世代
Z世代(1990年代半ば~2010年頃生まれ)は「デジタルネイティブ」と呼ばれてきたが、実際には成長の途中でスマートフォンやSNSに適応していった世代だ。情報を自ら検索し、取りに行く力を身につけてきた。また、上下関係のある部活動や体育会的な場を通して、人との摩擦や暗黙のルールの中で対応力を磨いてきた世代でもある。
一方で、α世代はその前提から異なる。物心ついたときからタブレットがあり、動画のレコメンド機能があり、SNSが「あなたへのおすすめ」を提示し続ける環境で育ってきた。
彼らにとってデジタルは「使うもの」ではなく、はじめからそこにある「空気」だ。
この違いは、思考のあり方にも大きな影響を与えている。
Z世代が「答えを探す検索思考」を持つとすれば、α世代は「自分に合うかどうかで選ぶ編集思考」を持っていると言える。
私はこれを、単純に良い悪いで捉えるべきではないと思っている。それは、その時代の環境の中で育まれた自然な知性のかたちだからだ。
ただ同時に、レコメンドされた情報の中から選ぶことに慣れている分、「他にどんな選択肢があるのか」「これは本当に妥当なのか」といった比較や検証の力は、意識して育てられない限り育ちにくい。
ここにあるのは能力の優劣ではなく、育ってきた回路の違いである。
そして違いがあるということは、互いに補い合い、学び合える余地があるということでもある。
「正解がないのが当たり前」という前提
α世代の特徴として見えてくるのが、「正解は一つではない」という感覚を自然に持っていることだ。
私が関わるスポーツの現場でも、この変化を感じることがある。かつての体育会系の若者は、指導者の言葉をまず受け取り、自分の人間力で乗り越えていく力を持っていた。人とぶつかり、揉まれ、空気を読みながら関係をつくっていく中で育ってきた世代だった。
一方で、α世代に近い若者たちは、説明を聞いてすぐに動くというよりも、「それが自分にどうフィットするのか」を確かめる。視覚的に説明されても、実際に体験し、納得できてはじめて腹落ちする。
あるチームで、こんなやり取りがあった。
コーチ:「なぜ昨日の練習を休んだんだ?」
選手(α世代):「…すみません」
コーチ:「謝るんじゃなくて、理由を教えてくれ」
選手:「…(沈黙)」
この沈黙を、私は単純に「反省していない」とは捉えない。むしろ、「どんな答えなら受け入れられるのか」を懸命に探している沈黙に見える。α世代は、間違えることそのものよりも、「間違えた自分がどう扱われるか」に敏感だ。
だからこそ、安全が確認できない場では言葉を止める。これは意欲の欠如ではなく、関係性の中で自分を守ろうとする自然な反応でもある。
私はここに、彼らの弱さだけでなく、時代の中で育まれた繊細さを見る。そしてその繊細さは、乱暴に扱えば閉じるが、丁寧に扱えば深い対話の力にもなりうる。
ショート動画で培われた長所とその弱点
もう一つの特徴として、α世代は「瞬間的に情報を捉える力」に長けている。ショート動画やSNSの中で鍛えられてきた要点をつかむ力である。感情と認知が結びついた情報の受け取り方にも敏感だ。
一方で、「点と点を線にする」つまり経験を時間の中でつなぎ、意味づけていく力については、これから育っていく余地が大きい。
「今やっていることが未来にどうつながるのか」「この失敗が自分に何をもたらすのか」を、自分の言葉で編みなおしていく経験は、これまでの環境では十分に求められてこなかった。
だから、納得できなければ動けない。
論理がわからないのではなく、自分との接点が見えないと動機にならないのだ。
私は、これを怠慢とは思わない。
経験を意味へと変え、意味を持論へと育てていくプロセスを、まだ十分に経験していないだけだ。
アルゴリズムは情報を運んでくれる。
けれど、経験を物語に変えるのは、いつの時代も人との対話である。
だからこそ、これからの育成に必要なのは、正しい答えを渡すことではなく、「この経験はあなたにとって何だったのか」を共に編んでいく関わりなのだと思う。
「複雑性ネイティブ」という新しい人間像
α世代を一言で表すなら、「複雑性ネイティブ」という見方が近いかもしれない。
白黒では割り切れない。矛盾を矛盾のまま抱える。
それは、従来の「こうあるべき」に回収されにくい感覚でもある。
だから大人の側から見ると、曖昧で、つかみにくく、時に扱いづらく感じられるのかもしれない。
けれど私は、そこに時代の弱さだけでなく、新しい可能性も感じている。複雑なものを複雑なまま受け止める感性は、これからの社会に確実に必要になるからだ。
彼らを評価する前に、私たちは自分たちの前提を問い直したい。
意味づけの仕方や判断軸の持ち方が違うのは、異なる環境で育ってきたからであり、それは「不足」ではなく「違い」である。
そして違いは、本来、対立ではなく学びの入り口であるはずだ。
α世代を「扱いにくい世代」と呼んでしまった瞬間、私たちの思考は止まる。
けれど、「この世代から何を学べるのか」「この世代とどう育ち合えるのか」と問いを持ち直したとき、関わりは変わり始める。
次回は、彼らが職場に何を求めているのか、そして私たちはどのように関わることで、共に成長する関係をつくれるのかを掘り下げていきたい。
瀬田 千恵子 せた ちえこ
株式会社チームボックス 取締役 COO/リーダーシップ開発・組織開発コンサルタント 国内外の企業で人事・採用・人材開発職を経て、現在は株式会社チームボックスにてCOO(最高執行責任者)を務める。
【登壇実績】日経クロスウーマン主催:悩める管理職のためのオーセンティックリーダーシップ術そのほか大手飲料メーカー、ヘルスケア業界企業をはじめ、業界を問わず企業・団体にて講演実績を持つ。リーダーシップ開発や組織変革をテーマに、現場感覚と理論の両軸を活かした実践的な内容で多くの共感を得ている。
【受賞歴】Japan CxO Award:トップノミネーター この著者の記事一覧はこちら











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