アポやリード獲得に必死なあなたへ。勝負は「始まる前」に終わっている

なんか『北斗の拳』のケンシロウみたいですね。
「今月のアポ獲得数は?」「リードの獲得単価(CPA)は改善したか?」日々、そんな数字に一喜一憂しているマーケターや営業責任者は多いはずです。しかし、冷酷な現実を突きつけます。

そもそもあなたが「勝負の土俵」にすら上がれていないとしたら、その努力に何の意味があるのでしょうか。

ある実態調査で明らかになったのは、日本のB to B市場におけるシビアな実態です。なんと、実に50.5%の企業が、ベンダーに声をかける(問い合わせる)時点で、すでに候補企業のリストアップを完了させています。さらに72%の企業は、その時点で候補ベンダーを3社以内に絞り込んでいるのです。そして、大半の顧客はその3社から最終ベンダーをセレクトしています。

これは実は、2012年くらいから、顧客は課題解決方法を知っているところからソリューション営業は終わったと、ベンダーには購買プロセスの57%が終わった時点でベンダーに声を掛けると、世界で言われていたことです(Google×CBE:The Digital Evolution in B2B Marketing)。

現在の世界をみると、おおむね以下のようなことが言われています。
・顧客は購買プロセスの70%を超えて、初期検討リストとして2-3社のベンダーに声を掛ける
・成約に至った案件の90%は、顧客が最初に作成した初期検討リストに載っていたベンダーである
・購買チームは13名以上になり、意思決定しない方向に倒れる
・AI検索やAIモードが一般的になるが、95.7%のベンダーは、候補リストの形成にますます影響を与えているAI生成の回答にはほとんど登場しない
・AI検索やAIモードが一般的になるが、検索しないので、インテントベースのAccount Based Marketingが通用しない

昨今はAIで簡単に課題解決の方法や製品の情報が入手できるようになり、それが加速しています。

私たちが気づかないうちに、競合にすら認識されず敗れ去る現象。これこそが「ステルス失注」の正体です。


本稿では、デマジェン総研(筆者の屋号)がIDEATECH社と共同で実施した「日本のBtoB大型購買プロセスに関する実態調査 2026」のデータをもとに、AI時代における最新の購買行動と、ソリューション営業の終焉、そして私たちが取るべき対策を合理的に解き明かしています。

【調査概要】
調査名称:日本のBtoB大型購買プロセスに関する実態調査 2026
調査期間:2026年3月23日~3月26日
有効回答:直近12か月以内に、年間契約金額300万円以上のBtoB商材導入に関与した企業勤務者307名
特徴:購買商材のトップ3は「ITインフラ(22.5%)」「業務ソフトウェア・SaaS(23.1%)」「セキュリティ関連(17.3%)」のIT関連が計62.8%を占める。検討開始から決定までの期間は、約55.8%が「半年以内」、41.4%が「半年以上」です。

購買検討の裏で暗躍する生成AIとダークソーシャル

まず注目したいのが、購買プロセスにおける「生成AIやAI検索」の爆発的な普及です。今回の調査で、検討プロセスに「AIを一切使わなかった」と答えたのはわずか8.1%に過ぎません。つまり、9割以上のB to B買い手が、何らかの形でAIを駆使して情報収集を行っています。

具体的に、どのような場面で使われているのでしょうか。調査結果から、以下のことがわかります。
各ベンダーの特徴や評判を比較するため:47.6%
業界の導入トレンドや相場を調べるため:46.9%

買い手は営業担当者に会う前に、AIを使ってあなたの会社の裏の評判や導入する製品の相場観を丸裸にしているかもしれません。ここでAIからポジティブな回答が出力されなければ、認知すらされず、最初のリストアップ段階で静かに落とされます。

ただし、買い手も盲目的なわけではありません。Gartner社の2026年のレポートによれば、B to Bの買い手の73%は「生成AIが作成したとわかっている情報」を100%は信頼していないと回答しています。
筆者も生成AIで生成されたインフォグラフィックやスライドは、まず信用しません。

だからこそ、彼らは別の場所に向かいます。営業の目が届かないコミュニティ、クローズドなSNS、社内の非公式な情報共有といったダークソーシャルです。

彼らはAIで効率的にアタリをつけつつ、ダークソーシャルを通じて「ぶっちゃけ、あの製品どう?」とリアルな評判を確かめ、営業が知らないブラックボックスの中で意思決定を急加速させているのです。最近では、Slackのコミュニティが活性化しているみたいですね。

ですから、いまどきのマーケティングは、認知ではなく、顧客の確信を勝ち取れといわれています。ブランド&ディマンドを両方推進しなさいということです。
ソリューション営業は終わったという14年越しの証明

かつて、B to Bバイブル『隠れたキーマンを探せ(原題:The Challenger Customer: Selling to the Hidden Influencer Who Can Multiply Your Results)』(実業之日本社 著者:マシュー・ディクソン)や、ハーバード・ビジネス・レビューの『ソリューション営業は終わった』という記事が、大きな衝撃を与えました。

「顧客は購買プロセスの57%を済ませてから、初めてベンダーに声をかける」

これは2012年の米国での調査データですが、2026年の日本でもこの意思決定の早期化は完全に顕在化、いや、むしろ加速しています。

今回の調査で「営業やベンダーと初めて本格的にやり取りした時点で、購買プロセス(0~100%)はどこまで進んでいたか」を聞いたところ、プロセスの40%の時点で、累積52.4%の回答者がすでにベンダーにコンタクトを開始していることがわかりました。

「なんだ、57%よりも早い段階で声をかけてくれるじゃないか」と安心したでしょうか?残念ながら、それはただの罠です。

早く呼ばれるということは、まだ「比較検討の真っ最中」の渦に巻き込まれているだけに過ぎません。
そして、実は早めの段階でベンダーに声を掛けているのは、セキュリティやERPなどの複雑な商材の場合なのです。

「本格的にやり取りを開始した時点」で、社内の検討状況がどこまで進んでいたかを見てみましょう。

解決すべき課題の明確化:「完了している」「おおむね進んでいた」が70.4%
課題解決の方法・方針の決定:「完了している」「おおむね進んでいた」が60.2%

つまり、営業が初回の商談で「御社の課題は何ですか?(ヒアリング)」とドヤ顔で入る従来型のアプローチは、すでに解決策を自分たちで固めている顧客にとって手遅れであり、時間の無駄なのです。まさに「お前はもう死んでいる!」

さらに、購買の特徴として関係部門の多さが挙げられます。意思決定に関与した部門数は「2部門」が42.3%、「3部門」が34.2%。チームの人数が増えれば増えるほど、社内の意見調整は難航し、反対意見に押し潰されて現状維持(非購買)になる可能性も高まります。これがチャレンジャーカスタマーと呼ばれる現象です。

顧客は、社内の合意形成という巨大なストレスと戦いながら、営業を呼びつける前に、自分たちだけで答えを出そうと必死なのです。

なぜ候補から外されるのか?機能紹介ばかりの罪

では、せっかく初期の候補リストの3社に入りながら、途中で脱落してしまう(失注する)のはなぜでしょうか。「途中で候補から外した理由」のトップ3は以下の通りです。

自社の課題に対応する機能が不足していた(39.1%)
自社の企業規模に合わないと感じた(34.5%)
導入事例に自社と似た企業がなかった(26.4%)

ここで反省すべきは、5位にランクインしている「製品の一般的な機能紹介ばかりで、自社の業界・課題に寄り添った情報がなかった(21.8%)」という事実です。

耳が痛いかもしれませんが、顧客は機能が欲しいのではない。
ジョブ理論どおり「自社の用事を済ませたい」のです。どこにでも転がっているパンフレット仕様の機能説明を並べ立てるベンダーは、その時点で私たちのことを何もわかっていないと見限られていますよ。

この結果、世界では、製品情報程度でマーケティングはリード情報を獲得しないようになり始めています。

逆に、候補に残る強力なフックとなるのは「自社の業界・業種に特化した情報(事例や機能紹介)」です。調査では、16.9%が「業界特化情報が候補に入れる決め手になった」と答え、45.6%が「後押しになった」と回答しています。

顧客が求めているのは、「うちの業界の、うちの規模の会社が、このツールを使って実際どう課題を解決して、どういう結果を出したか」という極めて具体的なケースです。
顧客の知らない顧客の課題を突き刺す

顧客はあなたのWebサイトを訪れる前、それから営業にメールを送る前に、AIとダークソーシャルを駆使してすでにおおよその判断を下しています。

この「ステルス失注」を防ぐ方法は、彼らが意思決定を進めている接触前の段階で、彼らのバイブルとなるような「イケているコンテンツ」をあらかじめ市場に投下しておくことです。「イケている」といのは、顧客の知らない顧客の課題に関するコンテンツのことです。

実際、候補選定で最も影響が大きかった情報源として挙がったのは、広告やAI検索ではなく、「ベンダー主催のウェビナー(21.7%)」や「ホワイトペーパー(20.3%)」、「導入事例(10.7%)」といった、ベンダー自身が発信するお役立ちコンテンツです。

Content is King。この言葉は、AI時代にこそ真実味を増します

また、日本だけで普及したThe Modelのように直列型ではなく、単一企業の複数の意思決定者に対して、マーケティング、インサイドセールス、および、セールスが「面」でアプローチすることも極めて大事です。


顧客の購買プロセスがブラックボックス化する今、私たちは営業およびマーケティングのアプローチのあり方を根本から変えるときが来たのです。現在、第2弾の実態調査を計画しています。お楽しみに!

北川裕康 キタガワヒロヤス 現在は独立して、経営・営業&マーケティングのコンサルティングサービスを上場企業やベンチャー企業、および外資日本法人に提供している。2025年3月末までAI inside株式会社の執行役員CPO(Chief Product Officer)。38年以上にわたりB to BのITビジネスに関わり、マイクロソフト、シスコシステムズ、SAS Institute、Workday、Infor、IFS などのグローバル企業で、マーケティング、戦略&オペレーションなどで執行役員などを歴任。大学は計算機科学を専攻して、富士通とDECにおいてソフトウェア技術者の経験もあり、ITにも精通している。前データサイエンティスト協会理事。マーケティング、テクノロジー、ビジネス戦略、人材育成に興味をもち、学習して、仕事で実践。書くことが1つの趣味で、連載や寄稿多数あり。 この著者の記事一覧はこちら
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