カレー業界の絶対王者、ココイチこと壱番屋。盤石に見えるその経営がいま、静かな変化の時を迎えている。
2026年4月に発表された最新決算は、売上高こそ過去最高を塗り替えたものの、減益に転じた転じた。コメの価格高騰といった逆風を前に、得意としてきた「値上げ」によるカバーも、いよいよ限界が見え始めてきた。
「最高益の裏で進む“客数減”...。ここに気づけない投資家は、今のココイチ株において市場が警戒しているポイントが見えづらくなっています」と語るのは、投資スクール「Financial Free College(FFC)」CEOの松本侑氏。
ファンに愛される“強い店”が、なぜ投資家からはこれほどシビアに評価されているのか。最新のデータから見えるココイチ株の現状について、松本氏に話を伺った。
○ココイチの稼ぎ頭はカレーじゃなかった?
誰もが知る巨大チェーン、ココイチ。消費者の目には「美味しいカレーを提供する飲食店」と映るが、収益構造を紐解くと、まったく別のビジネスモデルが見えてくる。松本侑氏は、ココイチを評価する上で「企業の本質」の理解が絶対に必要だと語る。
「ココイチはカレー店を展開していますが、本質的にはフランチャイズ(FC)収益モデルの企業です。収益の柱は店舗での直接的な売り上げではなく、加盟店からのロイヤリティ収入と、セントラルキッチンから各店舗へ卸す食材供給にあります。一部の直営店収入も得ていますが、基本的には店舗数が維持・拡大できれば、本部側の収益が比較的安定しやすい構造を持っています」(松本氏、以下同)
飲食業としての強みも、このFC展開を前提に緻密に設計されている。
「最大の強みは、辛さ、ライスの量、100種類以上あるトッピングのカスタマイズ性です。消費者が『自分仕様の一皿』を作れる楽しさが商品価値となり、高いリピート率を生んでいます。
さらに、調理や提供のフローが標準化されており、アルバイト中心でも店舗を回せる再現性の高さがあります。これがFC展開と非常に相性がよくて。客単価はすでに1100円前後まで上昇しており、ファストフードの中では高めですが、独自のカスタム価値とファンの存在により、値上げ耐性が比較的強い点は大きな評価材料です」
○唯一無二でも強気になれない意外なワケ
国内の外食産業は常に激戦区だが、こと「カレー専門チェーン」のジャンルにおいて、壱番屋のポジションは特異と言える。上場企業を見渡しても、直接的な競合は実質的に存在しない状況だ。
「もちろん、すき家などの牛丼チェーンやファストフード各社にもカレーのメニューはありますが、あくまで主力ではなくサブメニューの扱いです。ハウス食品(2810)のようなカレー関連の有力企業も存在しますが、彼らは食品メーカーであって、店舗網を持つ外食FC企業ではありません。『カレーを食べに行く店』として認知され、全国展開している上場企業は壱番屋くらいしかなく、比較対象が少ないこと自体が強力な独自性になっています」
専門性だけでなく「仕組み化」が優位性を担保している点もココイチの強みだ。カスタマイズでファンを作り、FC展開しやすい標準オペレーションを持つ。
つまり競争優位の源泉は、味そのもの以上に、秀逸な収益モデルと運営設計にある。だが、それだけで投資対象として有望とは言い切れない。
「ビジネスモデルは非常に優秀です。ただ、投資家として見るべきは『独自ポジションの確立』と『店舗純増の継続(成長性)』は別問題である点です。競合が少なくても、業態として成熟してしまえば成長余地は限られます。この事実をどう捉えるかが、投資判断では非常に重要になるんです」
○「売上増・利益減」...トッピングモデルが直面した限界
2026年4月に発表された「2026年2月期決算」は、カレー界の絶対王者であるココイチにとって、今後の戦略を左右する大きな転換点となった。
売上高は過去最高を更新(前期比7.4%増)し、根強い人気を証明したものの、本業の儲けを示す営業利益は47億円(同4.3%減)と、利益が削られる「増収減益」の着地となったからだ。
「この数字が物語っているのは、コスト増以上の深刻な課題だと思っていて。ココイチは度重なる価格改定で、原材料高を価格に転嫁してきました。しかし、昨今の米価の異常な高騰や、人件費・物流費の跳ね上がりは、もはや値上げだけでは相殺しきれないレベルに達しています。売上は伸びても、利益が残らない。最高益を見込んでいた市場にとって、この『利益の目減り』は看過できない懸念材料として受け止められました」
さらに投資家を動揺させたのが、将来の利益目標を盛り込んだ中期経営計画の下方修正だ。
「ココイチの強みは、自分好みにカスタマイズして単価を上げる『トッピングモデル』にありました。しかし、今回の下方修正は、その単価アップ戦略が曲がり角に差し掛かっていることを示唆しています。
○売上最高でも株価は続落。チャートでわかる“慎重に見られているサイン”
安定した事業基盤と独自の立ち位置を持つ一方で、株式市場からの評価は厳しい。現実の株価推移と業績データを重ね合わせると、企業の強みとは裏腹に、投資家が警戒すべきサインがある。
「株価のチャートを見ると、2024年初頭に最高値をつけたあと、明確な下落基調に入っています。日足や週足で見ても、200日移動平均線を下回る水準で推移しており、テクニカル面でもダウントレンドにあります」
株価下落の背景にあるのは、本業の「稼ぐ力」に対する持続性への懸念だ。
「最新の決算で判明した通り、売上が立っていても利益が削られる構造が嫌気されています。一時期の混乱は脱したものの、依然として原材料費や人件費の高騰が収益を圧迫し続けている現状に変わりはありません。消費者がどこまで価格転嫁を許容し、客数を維持できるか。市場はそこを非常にシビアに見ています」
○値上げ頼みでは厳しいココイチの今後
外食チェーン株の成長性を測るうえで、もっともシンプルかつ重要な指標が「店舗の純増数」と「客数」だ。ココイチの現状をこれら2点から分析すると、今後の展望は決して楽観視できるものではない。
「外食チェーン株で重要なのは、客数の維持と店舗純増です。まず出店についてですが、国内店舗数は約1200店舗で飽和しており、会社側も中期計画で国内の出店目標を下方修正しました。今後はラーメン店や海外展開による『多角化』が成長シナリオの軸となりますが、主力のカレー事業ほどの収益力を確立するには時間がかかるでしょう」
では、客単価の上昇でカバーできるのだろうか。確かに客単価は上昇してはいるものの、中身には注意が必要だと松本氏は話す。
「客単価は上がっていますが、内訳を見ると客数が前年同期比で伸び悩む月も見受けられます。値上げで表面上の売上は作れても、客数が離れ始めれば、ブランド力への警戒感とも受け取られかねません。出店余地が大きくない中で利益率が圧迫され、値上げ頼みの伸びにも限界がある。ゆえに、株価は当面、横ばいから弱含みで推移すると見るのが自然だと考えます」
“優良企業”であることと、“買いたい株”であることは別問題。
ココイチ株を検討するのであれば、値上げに客数がついてきているか、そして多角化や海外展開が営業利益の反転につながるかを見極めてからでも遅くはないだろう。
西脇章太 にしわきしょうた 1992年生まれ。三重県出身。県内の大学を卒業後、証券会社に入社し、営業・FPとして従事。











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