最初に結論:
スペースX株高の裏には、マスク氏が仕掛けた「上がりやすい構造」があった
記事の重要ポイント:
1:135ドル固定価格・放出比率4.2%で「株不足」を演出
2:NASDAQ100採用期待などで需給主導の上昇が続く可能性
3:スペースXはロケット会社ではなくAIインフラ企業として評価され始めている
上場直後に急騰したスペースX株は、その後大きく値動きする展開となっている。しかし、株価の推移だけを追っていては、今回のIPOの本質は見えてこない。
○上場前から仕組まれていた“株不足”
今回のスペースX上場で、佐野氏がまず注目したのは株価の上昇ではなく、上場の設計そのものだ。
通常、IPOでは投資家の需要と企業側の希望価格をすり合わせながら、最終的な公開価格を決めていく。企業はできるだけ高く売りたい。一方、投資家はなるべく安く買いたい。そのギャップを調整する過程で、価格が形成される。
ところが、スペースXは135ドルという固定価格を提示した。佐野氏は、この点に大きな違和感があったと語る。
「実は、『135ドル』という固定価格はかなり異例なんですよ。普通は需要を見ながら価格を探っていくんですけど、今回は最初から固定価格で出している。しかも、調達額は750億ドル。
その具体的な理由というのは、200億ドルの返済計画と、データセンターへの550億ドルの投資予定です。また、AIプログラミング支援ツールの『Cursor(カーソル)』については、600億ドルの全株式交換で買収しています。
こうした一連の資金の動きもあり、1年間でフリーキャッシュフロー(FCF)が約250億ドルから160億ドルへと、90億ドルも減少している状況なんですよ」
さらに目を引いたのが、市場に出た株式の少なさである。
マイキー佐野氏によれば、一般的なIPOでは発行済み株式の15~20%程度を放出するケースもある。ところが、今回のスペースXは全体評価額に対して4.2%にとどまった。
欲しい人は多い。それにもかかわらず、買える株は限られている。そうなれば、市場では自然と奪い合いが起きる。
「これは人工的に作られた品薄状態なんです。需要があるのに、出ている株が少ない。そこに人が群がれば、株価は上がりやすくなりますよね」
実際、公開価格は135ドルに設定されていたものの、上場初日(6月12日)には初値150ドルで取引が始まった。
その後も買い注文が相次ぎ、数日のうちに一時200ドルを超える水準まで急騰。公開価格を50%近く上回るなど、投資家の期待が大きく膨らんでいたことがうかがえる。
○スペースX株を動かす、ロマン以外の要素
スペースXの人気を支えているのは、もちろん事業への期待だ。ロケット開発、衛星通信サービスのStarlink、火星移住構想。そこにイーロン・マスク氏の名前が加われば、市場の期待が高まるのは自然な流れだろう。
ただ、投資家が見るべきなのは「事業に夢があるかどうか」だけではない。上場後の株価上昇には、需給面の要因も大きくかかわっている。
例えば、今後スペースXが「NASDAQ100」などの指数に組み入れられる可能性が意識されれば、インデックスファンドなどの、いわゆるパッシブ資金が買いに向かうことになる。指数に連動するファンドは、組み入れ銘柄を一定割合で保有する必要があるためだ。
そのとき、市場に出回っている株が少なければどうなるか。買いたい資金は増えるのに、買える株は限られている。結果として、株価は押し上げられやすくなる。
佐野氏は、この点もマスク氏の巧妙な戦略として見ている。
「浮動株が少ないところに、指数連動の資金が入ってくると、価格に関係なく買わなくてはいけないお金が出てくるわけです。つまり、買い手はいるのに、市場に出ている株が少ない状態になる。そうなれば、株価は押し上げられやすいですよね。私は、そこまで含めてうまいなと思って見ていました」
一方で、こうした需給相場には注意も必要だ。株価が上がっているからといって、それがすべて企業価値の上昇を意味するわけではない。市場に流通する株が少ないことで、価格が押し上げられている面もある。
実際、投資家の間ではPSR、つまり株価売上高倍率が100倍を超える水準をどう見るか、意見が分かれている。
ロケット会社として見れば、かなり割高に映る。だが、AI、データセンター、通信インフラまで含めた企業として見るなら、評価の軸は変わってくる。問題は、投資家自身がスペースXをどの会社として見ているのか、という点にあるのだ。
○スペースXは、もうロケット会社ではない
多くの人にとって、スペースXは「ロケットを飛ばす会社」だろう。
しかし、佐野氏は現在のスペースXを、宇宙事業だけの会社とは見ていない。むしろ、通信、AI、データセンターまでを含む巨大なインフラ企業へ変わりつつあると捉えている。
「稼ぎ頭はStarlinkです。これはもう前からわかっていた話なんですが、その稼いだお金がAIインフラにかなり飲み込まれているんです。要するに、データセンターやコロッサスのようなAIの計算基盤に資金が向かっているわけです」
マイキー佐野氏によれば、スペースXの2025年の売上高は187億ドル、成長率は33%と好調だった。一方で、直近1~3月期には42億ドルの損失を計上している。
さらに、2025年の設備投資は207億ドル規模に達し、その多くがデータセンター関連に使われているという。
一見すると、Starlinkで稼いだ資金をAI投資で食いつぶしているようにも見える。赤字企業に2兆ドル規模の評価がつくのは、さすがに高すぎる。そう考える投資家もいるだろう。
ただ、マイキー佐野氏の見方は違う。
「ロケット会社として見たら、いまの評価額は高すぎると思うのもわかります。でも、スペースXはもうその枠じゃないんです。通信、AIの計算基盤、データセンターまで見ないと、PSR(株価売上高倍率)の議論もズレるんですよ」
○火星移住も夢物語ではない
加えて、マイキー佐野氏は、マスク氏の事業を理解するうえで「カルダシェフスケール」という考え方が重要だと語る。カルダシェフスケールとは、文明の発展段階をエネルギー利用の規模で捉える考え方だ。
イーロン・マスク氏自身がこのカルダシェフスケールという概念を事業のベースとしており、強くそう信じていると捉えることで、テスラ、スペースX、xAIは別々の事業ではなく、ひとつの構想の中でつながってくる。
「テスラ(TSLA)は、地球上でエネルギーをどう効率よく使うか、どう蓄えるかの会社です。一方で、スペースXは、その技術を宇宙側に持っていくための橋渡しなんですよ。火星移住も、ただの夢物語ではなく、地球に集中しているリスクを分散する発想として見たほうがいいです」
つまり、テスラはエネルギー技術を担い、スペースXは宇宙への移動や通信の基盤を担う。そしてxAIは、その先に必要となる膨大な計算能力を支える存在だ。
一見バラバラに見えるマスク氏の事業は、マイキー佐野氏に言わせれば、地球の外へ向かうためのインフラ整備としてつながっているわけだ。
○スペースXで問われる「投資する理由」
では、スペースX株は今からでも買えるのか。
「私は基本的に、徹底的に勉強した上で購入しましょうという立場なんです。事業内容もわかっていないのに、金儲け目的でたかる人たちがいる。今回のスペースX上場は、そういう人間の動きがすごく見えたんですよ」
スペースX株を見るうえで重要なのは、「上がっているから」「マスク氏の会社だから」という期待だけではない。
Starlinkは今後も収益の柱であり続けるのか。その稼ぎをAI・データセンター投資へ回す構造は、いつ利益につながるのか。
そして、4.2%という浮動株の少なさが生んだ需給相場は、どこまで続くのか。ロケット会社として買うのか、AIインフラ企業として買うのか——。
そこを決めないまま飛びつけば、宇宙ビジネスに投資しているつもりで、実は市場のブームそのものを買っているだけかもしれない。
西脇章太 にしわきしょうた 1992年生まれ。三重県出身。県内の大学を卒業後、証券会社に入社し、営業・FPとして従事。現在はフリーライターの傍ら、YouTubeにてゲーム系のチャンネルを複数運営。専門分野は、金融、不動産、ゲームなど。公式noteはこちら この著者の記事一覧はこちら
佐野 Mykey 義仁 さのまいきーよしひと 1982年静岡県富士市生まれ。起業家、経営コンサルタント、投資家。オレゴン州の高校卒業後、米国ポートランド州立大学へ進学。同大学中退後、帰国子女枠で日本の大学に入学し、卒業。2008年商社へ入社。海外駐在を経て、2015年以降、海外で投資・運用会社を設立。40カ国で事業展開とアドバイジングを行い、現在は海外企業のM&Aアドバイザー、企業コンサルティングを行うほか、登録者数8.24万人のYouTubeチャンネル「マイキーの非道徳な社会学」を運営。著書に『ずる賢い人のための億万長者入門 成功者の9割は性格が悪い』(KADOKAWA)がある。 この監修者の記事一覧はこちら











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