今、最もヤバい芸人として注目されるチャンス大城、47歳。30数年に及ぶ雌伏(しふく)の時代を経て開花した彼が、いじめられっ子だった尼崎時代から、地下芸人時代、うつ病発症、そして現在のブレイクに至るまでの半世紀を赤裸々に綴った本『僕の心臓は右にある』(朝日新聞出版)を出版した。
【写真】笑顔がかわいい! 次々にポーズを決めるチャンス大城
■8年越しの出版 印刷直前に、どうしても付け足したかった“うつの話”
――御著書『僕の心臓は右にある』を出版したのは、どんなきっかけからでしたか。
チャンス大城(以下 チャンス): 8年前に山田清機さんの『東京タクシードライバー』という本を読んだんですよ。普段、本は読まないんですが、タクシードライバーさんの書いたノンフィクションというコピーを見て、いわゆる“ジャケ買い”でした。でも、読みながら最後には号泣していて。それで、山田さんのフェイスブックから友達になり、飲みに行ったとき、ちょっとした面白話をしたら、「大城さん、本出したら?」と言われて、8年かけて毎日ちょっとずつ書きました。実は4年前に完成しているんですけどね。
――このタイミングで出版されたのはなぜですか。
チャンス:完成はしたんですが、全部の出版社に売り込んで、全部断られたんですよ。ただ、毎日書き続けているうちに、4年前に完成したものとは、内容がだいぶ変わりました。最近の話のほか、「1番言いたいこと、言うてなかった!」と思って、印刷直前に電話して、1ヵ月前に付け足した話もあります。
――1番言いたいことは、具体的に何でしたか。
チャンス:2008年後半から2009年前半で、対人関係でやらかして、うつ病になった話ですね。赤ちゃんが生まれたばかりで、不安でヵ、ご飯を2ヵ月も食べられない、立つのもやっとという状態だったとき、阿佐ヶ谷ロフトで西口プロレスの試合があったんです。阿佐ケ谷駅にちょっと早めに着いて、近くの自動販売機の前に座り込んで水を飲みながら、この世界をやめようと考えていたときですが、ここで穴をあけたら相手の子に申し訳ないと思い、なんとか試合に臨んで。なんとか台本通りに僕が勝ったんですが、そこで西口プロレスのKIDくんが乱入してきて、来月の挑戦をすると言ってマイクを投げられたので、「俺はな、明日の朝、樹海に行って死ぬんだよ! だから、明日にはもうこの世にいないんだよ!」と言ったら、それがドカーンとウケてしまったんですね。あれがどん底にいた自分にとっての大きな転機でした。だから、昨年11月に阿佐ヶ谷に仕事で行ったとき、同じ自動販売機の前に座って、うつ病だった2009年の自分に向かって、「13年後にダウンタウンさんや(明石家)さんまさん、千原兄弟と一緒に仕事するよ。自殺しなくて良かったよ」と言うことができたんです。
■霊には異様にモテる!? 「人気ラーメン店の行列ぐらい霊が並んでいる」
――それにしても、ドラマチックなエピソードや、ヘンな人、ヘンな出来事がチャンスさんの周りにはたくさんありますね。
チャンス:それは僕のルーツが尼崎にあるからですね。例えば僕が芦屋に生まれていたら、こんな人間になっていないし、たぶん芸人にもなっていないです。歯が全くないシンナー中毒者とかホームレスの人があちこちにいるのが普通の光景だと思って生きてきたから。
そしたら、実際、『人志松本のすべらない話』に出させていただいたとき、打ち上げでとんでもない失態をしてしまって、記憶がないんですよ。そこから千原兄弟に救ってもらって、今があるんですが、それ以降お酒はやめて4年半飲んでいません。
――水晶玉が割れるとは凄いですね……。実はチャンスさんが大川興業所属だった頃に、霊感のある女優さんと大川総裁の対談を担当したことがあるんです。そのとき、所属芸人の名前一覧を見た女優さんが、すぐに「この人、ヤバイわよ!」と指さしたのが、チャンスさんでした(笑)。
チャンス:そうですか、それは本当によく言われるんですよ。僕が幡ヶ谷の居酒屋でバイトしていたとき、僕の部屋にブラックホールがあると言われ、部屋の掃除をしたこともありました。僕の部屋があの世とこの世の境目の「霊穴」になっているそうで、人気ラーメン店の行列ぐらい霊が並んでいるそうです。
■立ちはだかるコンプラの壁
――いじめや鬱、霊的な体験なども多数された中、生き抜くことができた秘訣とは何ですか。
チャンス:僕にとっては、「ちょっとウケた」という体験が大きいですね。「面白かった」と言ってもらえると、それだけで頑張ってこられた気がします。それと最近は、お酒をやめたことも大きいかもしれないです。そこから、ギャグとかモノマネとかもちょっとずつできるようになりました。以前は、酒ばかり飲んで、なんで売れへんねんとか愚痴っていてね。売れないっすよね、努力しないんですから。
――お酒をやめた分、今は何によって愚痴や不満などを解消しているのですか。
チャンス:真夜中に近所のでかい公園に行って、好きな曲を爆音で聴きながら踊ることですね。「生きているな」って気がします。
■ゴミ拾いから水ダウで“ラッキーうんこ”を引き寄せ!
――ご自身のヘンな人・モノの「引き寄せ力」は低下していると?
チャンス:そう思っていたんですけど、『水曜日のダウンタウン』(7月13日放送分)に出たとき(※「大江裕なら裏の顔がどんなにヤバくてもさほど違和感なく受け入れちゃう説」のターゲットとして登場)、大江裕さんが何か悩んでいるみたいなので、どうやって励まそうかと思ったんですよ。海が目の前にあったので、「この海に比べたら、君の悩み事なんて大したことないんだよ」とか言ったけど、全然響いていなくて、どうしようかと思っていたら、そこに犬の柔らかいうんこが落ちていたんですよ。
――引き寄せていますね!
チャンス:はい! それで、「これだ!」と思って、新品の靴でうんこを踏んで、「何しているんですか」と大江さんに言われながら、「うんこ、嫌だよね。でも、これ、洗ったらとれるんだよ。君の悩みごとだって、洗えばうんこみたいにとれるんだよ」と言ったんです。そしたら、それがめちゃくちゃウケたんですよ。正直、ヒヤヒヤしました。もし、あそこにうんこがなかったら、VTRとして弱かったかもわからんから。
――ゴミ拾いをして、ラッキーうんこが来る、と。
チャンス:そうです。あそこでうんこしてくれた犬に感謝ですよ。「忘己利他(もうこりた)」といって、自分のことは後回しにして他者のことを考えろという仏教の言葉があるんですが、それを大事にしています。あ、でも、ゴミを拾うのも、どこかで自分に返ってくるという思いで“貯金”しているのか? 俺、やっぱり見返り求めているわ……いやらしいですね。でもまあ、最初は見返りを求める偽善でも自己満足でも、いつか悟れたらと思います。
(取材・文:田幸和歌子 写真:高野広美)
『僕の心臓は右にある』は朝日新聞出版より発売中。