どんなにヒットし、どんなに長く続いたシリーズにも必ず「第1回」が存在する。長く続いたシリーズであればあるほど、紆余曲折を経て今の姿があるはず。

長い歴史をまだ知らない第1回は、いったいどんな形でスタートを切ったのか? 知られざる第1回を振り返る「第1回はこうだった」。今回は俳優・水谷豊主演のドラマ『相棒』(テレビ朝日系)シリーズの初回をプレイバック!

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 同作は、水谷演じる警視庁の変人刑事、杉下右京とその相棒たちが数々の事件を解決する姿を描く刑事ドラマの長寿シリーズ。2000年に「土曜ワイド劇場」で単発ドラマとして3回放送された後、2002年10月からテレビ連続ドラマとしてスタートし、20年以上続く。劇場版もスピンオフ2作を含む計6作が公開されている。相棒役は寺脇康文に始まり、及川光博、成宮寛貴さん(2016年芸能界引退)、反町隆史という面々が務め、現在放送中のseason21では、寺脇演じる亀山薫が約14年ぶりに相棒に復帰し、ファンを喜ばせている。

■ 裏ビデオ鑑賞に薫ちゃんへの罵倒…キレキレの右京さん

 2000年6月に2時間の単発ドラマ『相棒・警視庁ふたりだけの特命係』(以下、単発初回)としてスタートした同作。
最初に描かれるのは、そそっかしい薫の“らしい”ミスから引き起こされる事件だ。飲食店で偶然、指名手配犯を見つけた薫は、応援が駆けつけるのを待てず、自分1人で逮捕しようとして逆に人質に取られてしまう。

 薫に銃を突きつけた犯人と警官隊のにらみ合いが続く中、薫の携帯電話が鳴る。薫には聞き覚えのない声の主は、彼に指示を送りつつ、犯人の一瞬のすきを作り、検挙へと導くのだった。「アームチェア・ディテクティブ」(現場に行かず書斎のイスに座ったまま情報だけで事件を解決する探偵、もしくは小説ジャンル)さながらに通話だけで鮮やかに事件を解決に導いた人物こそ、警視庁の“窓際部署”特命係の杉下右京だった。実は右京と薫の出会いは電話口だったのだ。


 東大法学部主席で卒業した頭脳でありながら、キレ者すぎて警視庁内では“変人扱い”され、いつしか特命係という閑職に追いやられていた右京。初回ではそんな“変人”右京の言動がいろんな意味でキレキレだ。

 人質になった件の処分として特命係行きを命じられた薫。特命係の部屋に入ると、なぜか女性のあえぎ声がする。恐る恐る声に近づくと…アダルトビデオを黙々と鑑賞する右京の姿が。もちろん、この“鑑賞”も押収した裏ビデオを確認する仕事だったという真相だが、それだけではない。
右京は薫に対しては着任早々当たりがキツく、「テレビに映った君の姿は無様でした」「今の君が警察を名乗るなんておこがましい」などおだやかな表情・口調で、しかしおだやかであるからこそかえって効きそうな罵倒を連発。実は、右京には「変人過ぎてこれまで部下6人が辞めてしまった“人材の墓場”」という設定がある。「そりゃこの人といたら辞めたくなる」というキャラクターだったのだ。

 事実、薫も単発初回で早くも心が折れかけ、辞表を書くところまで追い込まれるが、思いとどまって2008~09年放送のseason7の途中まで右京と行動を共にすることに。もしかしたら、右京がこれまで6人に辞められたことを反省し、薫といるうちに少し性格が丸くなったのかもしれない。

■ ティーポットを高くあげない!

 『相棒』シリーズの名物の1つが、右京の「紅茶注ぎ」だ。
右京が、好物の紅茶をティーカップに注ぐとき、右手のポットを肩のあたりまで高く持ち上げる仕草としてファンにはおなじみ。昨年には、水谷が他局の番組『FNS歌謡祭』(フジテレビ系)に出演したときにも「紅茶注ぎ」を披露し、もはや『相棒』、そして水谷自身の代名詞になっている。

 単発初回でもさっそく「紅茶注ぎ」が飛び出すのだが…。右京はティーポットをほとんど上げない。なんともそっけない紅茶をカップに注ぐ「普通の仕草」で、ほかの人物がやるなら気にならないが、右京がやるとかえって違和感さえ出てくる。名物「紅茶注ぎ」は、シリーズの続く中で編み出されていったものだった。


 そのほか、右京には「おやおや」「妙ですねぇ…」などおなじみの口癖がある。単発初回でも、捜査現場を訪れたときなど何度か違和感を催す瞬間、すなわち「おやおや」「妙ですねえ…」を発するチャンスがあるのだが、右京はそれらを一向に口にしない。こうした口癖も、シリーズが進むに連れて徐々に肉付けされていったのだろう。

■ 論理派&直情派で分かりやすい!

 単発初回では、ある警官の刺殺事件を捜査していた右京と薫が、警視庁幹部が拳銃ブローカーから密輸拳銃の横流しを受けて摘発実績を水増ししていた、という警視庁を揺るがす一大スキャンダルを暴き出すことに。のちに映画『日本で一番悪い奴ら』にもなった“警察史上最大の不祥事”「稲葉事件」を彷彿とさせるエピソードだ。出世に取り憑(つ)かれたノンキャリアの幹部と、警察キャリアでありながら出世欲のない“特命係”杉下右京、という鮮やかな対比が浮かび上がり、見ごたえたっぷりの刑事ドラマに仕上がっている。


 対比といえば、単発初回は、「論理的な右京/直情的な薫」という全く違う性格の2人が織りなす「バディもの」としてすでに確立されている。2人の対比がとてもキャッチーで分かりやすい。

 シリーズはスタートしてから20年を超える。長年のファンにとっては、これまで登場してきた性格の違う4人の相棒それぞれに思い入れがあるだろうが、“おっちょこちょいで直情的な薫”がトップバッターとして右京と組んだからこそ、長く愛される刑事ドラマになったのだと感じる。