数々の情念燃えたぎる女性を演じ、観客を虜にしてきた女優・かたせ梨乃。小沢仁志の還暦記念映画『BAD CITY』では、韓国マフィアのボス役として圧倒的な存在感を放っている。

銃を構える姿もクールな彼女だが、「実はすごい怖がりなんです!」と笑う素顔も魅力的。かたせが本作で果たした新たなチャレンジや、「『極道の妻たち』が私を女優にしてくれた」という転機、人生の財産として胸に刻んでいる、五社英雄監督と3人の大女優との出会いまでを語った。

【写真】ヒョウ柄をスタイル抜群に着こなす!カッコよすぎるかたせ梨乃

■新たな挑戦の詰まった、組織の女ボスを熱演!

 本作は、“顔面凶器”、“Vシネマの帝王”など数々の異名を持つ小沢が製作総指揮、脚本、主演を務めたアクション映画。犯罪都市と呼ばれる街を舞台に、ある事件を起こした容疑で勾留中の元強行犯警部・虎田(小沢)が、真の悪の存在を暴こうとするさまを描く。組織の女ボス、マダムを演じたかたせは、本作のオファーを受けた際、新しい挑戦がたくさんできる映画だと思ったという。

 「私は、ずっと親子ものを演じてみたいと思っていたんです。
今回の役柄はマフィアの首領ですが、息子を自分の世界に巻き込んでしまった母親の役でもあって。息子に対する葛藤も大切にしながら演じました。またこれまで任侠映画には出演してきましたが、アクション映画に出るのは初めてなんですよ。そして外国人の役を演じるのも初めて。台本には“マダム”としか書いてない、名前のない役柄なんですが、名前のない役を演じるのも初めてです。“マダム”という呼び名に説得力があるような女性で、とても興味深い役柄だなと思いました」と楽しそうににっこり。


 クールな視線と迫力を漂わせるマダムだが、役作りにおいては「帽子や手袋など自分の持っているもので役柄に合いそうなものを持っていって、監督にも“そういうのがいい”と言っていただいた」と私物も使用しているそう。「今回はカラフルな衣装やウィッグを使用しているんですが、そうやって形を作っていくと、鏡を見たときにいつもの自分とはまったく違う姿になっている。するとキャラクターが立体的になっていくんです」。

■怖がり屋の素顔を告白「二次災害が出るくらいの怖がり」

 小沢がスタントなし、CGなしのガチンコアクションに挑んでいることでも話題の本作。かたせは「小沢さんとは昨年末(日本テレビ『笑って年越し!世代対決 昭和芸人VS平成・令和芸人』で)、コントも一緒にやらせていただきました」と笑いながら、「小沢さんはいつも、なんでも全力投球。一緒にいると楽しいですよ。
60歳でCGなしのアクション。すべて本当にやっているから、すごいわよね」とその熱血ぶりに惚れ惚れ。アクション満載の本作の中では銃弾が飛び交う場面もあるが、かたせは「実は私、すごく怖がりで。火薬とか、怖くてダメなんですよ!」と意外な素顔をのぞかせる。

 「これまでにも数多く、火薬を使う作品に出ているんですが、何回やっても怖い。結構、すごい音がするんですよ。
何回もやるのはイヤなので、1回でOKが出るように頑張ってやる。映画館で観ていても、バーン!っていうとキャー!って叫んじゃうくらいで、隣の人が私の声でびっくりしちゃう(笑)。二次災害が出るくらいの怖がりなんです」と打ち明けながら、「だから強い女性を演じるときは、踏ん張っている部分もあって。でもそういう役を演じている期間は、普段の会話でもドスを効かせてしまったり、どこか鋭い感じになってしまうことも。気をつけないといけないなと思っています」とコメント。

 「今回、マダムのボディガード役を演じている本宮泰風さんとは初共演です。
本当に、ナイス、ボディガードなんですよ。私が歩く動線に危険なものがないかチェックしてくれたり、撮影以外の時間もすてきなボディガードでいてくださった。だからこそ、怖がりの私でも安心してマダムを演じられました」と感謝していた。

■五社英雄監督&3人の大女優との出会いに感謝「いい時代に、いい映画に出させていただいた」

 かたせは、大学在学中にモデルとしてデビューし、女優に転身。儚さやたくましさなど、人間の情念までを表現できる女優として、映画・ドラマなど活躍の場を広げてきた。女優業の転機としてあげたのは、女性側の視点から極道の世界を描いた人気シリーズの1作目で、五社英雄監督がメガホンを取った『極道の妻たち』だ。


 かたせは「職業欄に“女優”と書けるようになったのは、『極道の妻たち』の1作目に出会ってから。それまでは“タレントさん”という感じで、『極道の妻たち』から女優としての人生がスタートしたと思っています。当時29歳でしたから、女優を始めたと言える年齢が遅いんです」と明かす。同作での演技が話題となり、その後も『極妻』シリーズに立て続けに出演した。かたせは「1作目で岩下志麻さん、2作目で十朱幸代さん、3作目で三田佳子さんという、日本を代表する3人の女優さんとお仕事をさせていただいたことが、私にとっての財産になりました。それぞれ違う魅力を持っていて、本当にすばらしい女優さん。他にも『極妻』シリーズには、成田三樹夫さん、大坂志郎さん、藤間紫さんと存在感のあるすごい役者さんがたくさん出ていらっしゃいました」としみじみ。

 同シリーズでは、男社会に翻弄されながら“闘う女”を演じていたかたせだが、「当初、私にはそういったイメージはなかったと思います。自分自身のキャラクターでもありませんし(笑)。でもシリーズを重ねながら、“この役柄に近づきたい”と一生懸命に立ち向かっていくうちに、次第に“ああいう役をやらせたら、他にできる人はいない”と感じていただけるようになったのがとてもうれしくて。決して1日ではできないもので、何十年もの月日を経て、“闘う女”としてのキャラクターが生まれていったんです」とがむしゃらにぶつかりながら、当たり役を生み出したという。

 また五社英雄監督との出会いも「女優人生においてとても大切なもの」と心を込め、「五社さんとは“5本、一緒に仕事をしようね”と話していました。でも五社さんは60代で亡くなってしまって、4本しかご一緒できなくて…。とても残念でした」と振り返り、五社監督とタッグを組んだ『吉原炎上』、『肉体の門』、『陽炎』にも思いを馳せる。

 かたせは「『吉原炎上』では、ラストの吉原が燃え上がるシーンを撮るためには、大量のお水がないといけないということで、琵琶湖のほとりに吉原のセットを建てているんです。あの大きなセットを燃やしちゃうんですから、今では絶対にできない撮影ですよね。それぞれの女性の生き様が描かれていて、ああいう女性の生き方もあったんだということを知ることができるような映画。様式美もすばらしいですよね」と魅力をかみ締める。

 「『肉体の門』では、五社さんが本物の牛をさばこうとしちゃって、大騒ぎになったことがありました。“本物でやりたい”という監督を、スタッフが“そんなことをしたら女優さんが失神しちゃいますよ!”と止めたりして。信じられないことするよね!」と笑顔。

■五社監督が求めていた“本物”は、“映画として見せるための本物”

 リアリティを求め、熱く映画づくりに臨むのが五社スタイルだというが、かたせは「五社さんが求めていた“本物”は、“映画として見せるための本物”」だと語る。

 「例えば『極道の妻たち』で志麻さんと私が喧嘩をするシーンでも、本当の喧嘩をしてしまったら、そのシーンを美しく撮ることはできない。芝居として“見せる喧嘩”をすることが必要です。それにあの場面は、姉妹の別れとなるとても悲しい、切ないシーン。やっぱり芝居が大事になるんですね」と名シーンを振り返り、「志麻さんとは今でもとっても仲良し。“何日にこの番組に出るから”と連絡すると、“このお洋服はよかった”とお返事を頂いたり、私の作品もいつも観てくださって、“梨乃ちゃんも老け役をやるようになったのね”なんて言われたり(笑)」と今でも姉妹のような関係が続いているのだという。

 あらゆる出会いを回顧しながら「本当に、いい時代に、いい映画に出させていただいた」と喜んだかたせ。「今は、コンプライアンスが重視される時代。『極妻』シリーズも後半にかけて、徐々にいろいろな制約が出てきたなと感じることがありました。できないことがあると残念だなと思うこともありますし、ドンパチしているのにシートベルトをしなきゃいけないとなると、不思議!って思いますよね。でも時代の流れとしては仕方ない」と率直な思いを話す。

 「五社さんの映画が今また注目されていて、若い方々の中にも五社ワールドのファンがたくさんいらっしゃるみたいなんです。こうして時を経ても観ていただけると思うと、やっぱり映画ってすごいものだなと。本当にいいものですよね」と映画への愛情をあふれさせる。五社作品や、小沢がコンプライアンスに真っ向勝負に挑んだ『BAD CITY』で、かたせ梨乃の積み重ねた軌跡をぜひ目撃してほしい。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)

 映画『BAD CITY』は、全国順次公開中。