ドラマ『夫を社会的に抹殺する5つの方法』(テレビ東京系)ではモラハラ夫、『スタンドUPスタート』(フジテレビ系)ではパワハラ社長を熱演するなど、一癖も二癖もある役で存在感を発揮している俳優の野村周平。Paraviオリジナル人生ドラマ劇場『クロちゃんずラブ~やっぱり、愛だしん~』では、なんと安田大サーカスのクロちゃん役にトライ。

クロちゃんのモンスターぶりを体現し、SNS上でも「クロちゃんに見えてきた」「演技力すごすぎ」と話題になっている。今どのような心構えで俳優業に臨んでいるのか直撃すると、「何でもやりますよ」と笑顔で告白した野村。今年30歳を迎える彼が、クロちゃん役を受けた理由をはじめ、スルースキルを身につけたという20代で訪れた転機を語った。

【写真】似てる? クロちゃん役を演じる野村周平

■野村周平&クロちゃんの異色タッグ「世間体を気にしない2人が揃った」

 お笑い芸人、安田大サーカスのクロちゃん(黒川明人)の人生をドラマ化した本作。これまで数々のテレビ企画などでモンスター芸人と取り沙汰されてきたクロちゃんを丸裸にすべく、本人ほか歴代マネージャー、仲の良い芸能人、元カノなど周囲の人々に合計30時間超えのインタビューを敢行。その中で飛び出してきた仰天エピソードを、ドラマとして描く。

 クロちゃん役のオファーが舞い込んだ時の心境について野村は、「“なぜ僕なんだろう”とは思いました」と率直な胸の内を明かしつつ、「僕はクロちゃんがもともと大好きだったので。好きな人を実写版で演じられるなんて、とてもうれしかったです。クロちゃんはもはや、何をやっても面白くなってしまう人。笑いの神に愛されている」と喜びと共に受け取ったと振り返る。

 引き受けたからには、「何でもやる」という覚悟で挑んだ野村。女の子のグラスをペロペロとなめたり、髪の毛をクンクン嗅いだりする、クロちゃんの異様な行動も思い切って表現し、スタジオパートに参加している小峠英二藤本美貴高橋みなみからは「ちゃんと気持ち悪い」「野村さんの演技がすごすぎる」と絶賛の声が上がった。


 ともすれば、演じることで世間から嫌われてしまう可能性もある役だが、「僕は、どのように思われても気にしません。クロちゃんもそうですよね。自分のやるべきことをきちんとやっていれば、好感度も気にしないし、世間にどう思われてもいいんじゃないかと思っている2人。世間体を気にしない2人が揃ってしまった」と楽しそうに笑う。

■クロちゃんを演じた時間は「USJに行っていたような感じ」

 クロちゃんのがっしりとした体型や、トレードマークのソプラノボイスも、笑いが込み上げるほどの再現度で演じているが、野村は「特別な役作りはしていないんです」と語る。独特の口調やソプラノボイス、放つオーラも「クロちゃんの出ている番組は、以前からよく観ています。特に研究せずとも、その蓄積があったので」とクロちゃん愛があったからこそ完成したものだ。

 「僕は地声が低いので、ソプラノ声を出すには、“こうかな?”と現場でスタッフさんと確認しながら、調整していきました。歌うようにしながら、そこにぶりっ子な感じをプラスして」と秘訣を披露。さらに「ドラマの撮影前や撮影時には、炭水化物を抜いて、サラダや鶏肉、スープだけにするなど、たいてい食生活を節制したりするものなんですが、今回はそれをやる必要がない。ビールを飲んで、夜中にラーメンを食べて…と、食べたいものを食べる。最高ですよね(笑)。
欲のままに生きることが、クロちゃんの役作りにつながりました」と目尻を下げる。
 
 「クロちゃんが女の子のグラスをなめたりすることも、欲のままに生きているからですよね。“何も我慢しなくていいよ”と言われたら、やっちゃう男子はいっぱいいるんじゃないかな」とクロちゃんを演じる上では、“欲の解放”が重要なエッセンスとなった様子。「短時間で、なぜこんなに役に入り込めたのかは謎(笑)。クロちゃんを演じている時間は、まるでUSJに行っているようでした。アトラクションです」と声を弾ませた。

 そしてなにより、現場の熱気が大きな力になったと続ける。野村は「みんなものすごく楽しみながら、作品に臨んでいました」と切り出し、「後半にかけて、どんどんアドリブを出せるようになって。クロちゃんが染み込んでいるから、何をやってもクロちゃんになる感じがあって、みんなもめちゃめちゃ笑っていました。毎日、現場が3時間くらい巻いて終わるんですよ」と勢いに乗った撮影を回顧。「“予定より早く撮り終わっちゃったから、こういうこともやってみよう”“こういうものも撮ってみたい”、“いいね、それ!”など、毎日みんなでアイデアや意見を出し合っていました。“現場ってこうあるべきだよな”と感じられる、素晴らしい現場でした。
自分の力を100パーセント出させてくれる現場であれば、こちらもそれ以上の全力を出したくなる」と充実感にあふれている。

■「イケメン俳優だと思ったことはない」

 モラハラ夫にパワハラ社長など、今年の野村はクセのある役柄で強烈な存在感を示している。次第にそのキャラクターの心の闇や葛藤が顔をのぞかせるなど、どちらも単なる悪役ではなく、野村が厚みと人間味あふれる人物として演じていたのが印象的だ。

 野村は「“こういう役をやっていこう”と思ったわけではなく、頂ける仕事をやっていた結果」と個性的なキャラクターを演じようと特に方向転換を図ろうとしたわけではないと明かしつつ、「確かに、人生経験を積んだからこそできる役かもしれません。新人や駆け出しの頃だったらできないような役」としみじみ。「先日、クロちゃんは“クズ役は、賢くないとできない”と言ってくれました」とうれしい感想もあったというが、野村は「モラハラやパワハラ、クズといった言葉に引っ張られず、どんな役でも常にリアリティを追求しています」と持論を語る。

 2009年に16歳で芸能界デビューし、数々の青春&恋愛映画やドラマで活躍してきた。今年11月に30歳という人生の節目を迎える野村だが、映画『純平、考え直せ』(18)ではチンピラ役を担うなど、年齢を重ねるごとに演じる役柄の幅を広げてきた。

 「僕は“イケメン俳優”という肩書きで呼んでもらったこともありますが、イケメンの役だったら若い人の方がいいに決まっているし、やっぱり次第にそれだけではやっていけなくなりますよね。そもそも、自分ではイケメン俳優だとは思ったこともないし」と破顔し、「となると今回のクロちゃん役のようなコミカルな役など、バラエティに富んだ役をやっていったほうがいいはずですよね。そう考えて仕事や役を選んでいたわけではなかったんですが、自然と周囲が“こういう役もやってくれそう”と思ってくれたのか、気付いたらクセのある役が多い」と楽しそう。「僕は何でもやりますよ」と覚悟をにじませる。


■スルースキルを身につけた30代のモットーは「自由に生きる」

 20代を振り返り、野村にとって転機となったのが2019年から1年間を過ごしたアメリカ留学だという。「ニューヨークに行って、他人のことを気にしなくなりました。自分自身のことに集中して、生きるようになりましたね。自己肯定感の塊でありつつ、さらに言えば“それはダサいんじゃないか”“ダサいことはやめよう”と自己解決もできるようになった。ニューヨークって、街を歩いていてもみんな自分のことを第一に考えて、精一杯自分の好きなことをやっていることが分かるんです。それって最高だなと思いました」。

 そんな野村の30代の抱負は、「これまでもそうですが、より自由に、ハッピーに生きること」だ。「誰かに否定的なことを言われたとしても、怒らずに“そうだよね、じゃ!”とスルーする。ある程度のことであれば、笑って見過ごせるようになったかなと思います。それって自分のやりたいことや好きなことをきちんと持っているからこそ、できること。真剣に怒るエネルギーは、好きな人や大事な人が道を外した時などにとっておきたい。自由に生きるためには、そういった断捨離をしていきたいなと思っています」と晴れやかな笑顔を浮かべる。


 飾らず、のびのびとした素顔もなんとも魅力的な野村周平。これからもどのような姿を見せてくれるのか、大いに楽しみだ。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)
 
 Paraviオリジナル人生ドラマ劇場『クロちゃんずラブ~やっぱり、愛だしん~』は、Paraviにて配信中(全5話)。

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