現在、筒井康隆原作のTBS深夜ドラマ「家族八景」で、人の心が読めるテレパスの家政婦・火田七瀬役で初主演している木南晴夏
天才的な腹立たしさ。
「イラッ」としたらムロツヨシを疑ってみたほうが良い

ところで、監督は堤幸彦とくると、まず思い出されるのは、木南晴夏の名前を一躍有名にした映画「20世紀少年<第2章>最後の希望」(2009年)だろう。

映画の出来不出来はともかく、木南晴夏が演じる「小泉響子」は、「原作にソックリ」と激賞されていた。まず本当に、顔がソックリ。想像していた声や喋りともピッタリだった。

あまりに「小泉響子」すぎて、調べてみたところ、実はNHK朝ドラ「風のハルカ」(2005年)や、「セクシーボイスアンドロボ」(2007年)での黒川智花仲里依紗らとのオカルトネネタ、「銭ゲバ」での顔にアザを持つ少女役など、これまでいろんなところで観ていた人であり、どれも別人に見えていたことを知り、改めて驚いた記憶がある。

さらに、木南晴夏の印象を強めたのが、ドラクエをネタにしまくった深夜ドラマ「勇者ヨシヒコと魔王の城」における通称?「胸たいら」「平ら胸」とも呼ばれるムラサキ役だ。

冒険において、ムラサキが繰り出せる技といえば、敵を怯ませる「大きな目」と、魔力を吸い取る&相手がつられて踊ってしまう「ふしぎな踊り」くらいだったのだが、この2つの特性は「木南晴夏」にしかありえないハマり具合だったように思う。 そもそも「大きな目」だけで相手がビビる=もともと持って生まれた小さな目という大前提が必要であり、「ふしぎな踊り」のほうも、「踊りでMP(魔法の力)を吸い取るなんて……どんな踊りじゃい!?」と本家のゲームにツッコんできた人たちがみんな一見して納得するほどのヘンな動きが必要なはず。

それを「目」だけ、「動き」だけで表現する木南晴夏の説得力。いやに器用な芸達者という「技能面」+小さな目と平らな胸、薄い顔という「無個性なルックス」の成せる技だと思うのだが、これってまるで一流の落語家か物まね芸人のようではないか。

落語家の場合、登場人物のすべてを一人で演じ、声色や言葉遣い、話し方などによって個性を印象づけて演じ分ける必要があるだけに、ご本人の顔はなんとなくまるく目鼻立ちも際立った個性がなくなる……なんて話を聞くことがある。

同様に、コロッケなどの独自の着眼点・デフォルメの面白さから笑いをとる人を除くと、コージー冨田やホリなど、上手な物まね芸人は総じてご本人が「なんだか薄い」。


木南晴夏の場合も、やっぱりこうした落語家や物まね芸人に似ていて、顔も胸も薄い「無個性」に、達者な「芸」「演技力」をプラスすることで、演じる役柄の幅が無限に広がっているように思うのだ。

どんな役にもなりきってしまう役者を「カメレオン役者」「憑依系役者」などとよく言うけれど、木南晴夏はそれよりもっと計算されているように見えて、なぜかシブく職人的。若いのに、末恐ろしい女優だと思う。(文:田幸和歌子
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