NHK大河ドラマ『西郷どん』(NHK/毎週日曜20時ほか)で、奄美に生きる女性・とぅま(後に愛加那に改名)を好演した二階堂ふみ。彼女について、西郷吉之助役の鈴木亮平は「感性の化け物」さらには「底の見えない人」と評している(NHK『あさイチ』5月25日)。
尽きぬ魅力はどこからきているのか。知られざる原点と進化に迫った。

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●愛加那を演じさせた二階堂のルーツ

 凛とした佇まいで違和感なく奄美言葉を話す彼女の演技は、南の島の美しさとともに視聴者に大きな感動を与えた。「私の故郷の沖縄の言葉に少し似ていたので、その点はありがたかったです」(『エンタメOVO』インタビューより)と語るとおり、彼女は沖縄・那覇生まれ。もともと言葉に親和性はあったが、「奄美は薩摩藩の支配下になる前は、琉球王国に支配されていたということを知っていて…。簡単には言い表せないような歴史背景があったんだろうなと感じてはいたんですけれど、沖縄出身の身としては、複雑な思いがあったんです」(『Movie Walker』インタビューより)とも語っている。

 二階堂にとって、15歳まで過ごした自身のルーツにも深く関わる重要な役となった愛加那。去年、レギュラー出演していた『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ系)の人気コーナー“グルメチキンレース・ゴチになります!”の卒業を突然発表して賛否を呼んだ彼女だが、その決断の裏には、もしかしたらこの役に懸ける思いがあったのではないだろうか。

●キャリアの“土台”は少女時代に

 そんな彼女を育てたのは、幼い頃から触れてきた数々のカルチャー。映画好きの母に連れられ地元の映画館に足しげく通っていた彼女は、映画だけでなく劇場内にある書店で漫画や写真集にも触れた。同じく連れて行ってもらった地元のライブハウスで、オールディーズ(1950年代~1960年代の洋楽)をも知ったという。デビューのきっかけはスカウトだが、キャリアの土台はその頃からすでに彼女の中にあったと言えるだろう。
 多くの作品に触れてきた経験は、今も彼女を突き動かす原動力にもなっている。今年2月に公開された『リバーズ・エッジ』は、岡崎京子の同名漫画に惚れこんだ二階堂が、行定勲監督に映画化してほしいと直々に掛け合って実現にこぎつけた。行定監督は原作に対するリスペクトが強かったため漫画の実写化には抵抗があったが、二階堂からの申し出を受けて立たないと「映画監督をやっている意味はないのではないか?」と自問の末、メガホンを取ったという。

 2014年公開の出演映画『私の男』の原作である桜庭一樹の同名小説は中学生の頃に、2016年公開の主演映画『蜜のあわれ』の原作である室生犀星の小説は17歳のときに読破していたという二階堂。特に『蜜のあわれ』については「初めて読んでずっと映像化したくて」と明かしているように、作り手としての意識の高い女優でもある。

●進化し続ける“無私”な女優の未来

 作品性を重視する一方で、一度出演を決めた作品には女優として“無私”とも言える姿勢で臨む。二階堂の名を一躍世に知らしめた映画『ヒミズ』のインタビューでは、当時17歳の彼女がすでに「茶沢というヒロインに自分の体と声を貸すことによって、何かが生まれる」と語っている(『ORICON STYLE』インタビューより)。その後も『地獄でなぜ悪い』『私の男』『この国の空』と体当たりの演技が話題を集めたが、それらの過激なシーンは彼女にとって“女優魂”というような覚悟めいたものではなく、その世界に身を預け、声と体を委ねるというごく当たり前の作業なのかもしれない。

 その結果、エキセントリックな役が多い時期があり、演じることが怖くなった時期もあったという二階堂。過去のインタビュー記事をひもとくと、彼女の言葉に「気づく」「発見する」というワードが多いことにも気づく。どんな作品でも何かしらの糧を得てきた彼女が違和感なく奄美の女性になりきり、それでいて存在感を発揮した背景には、彼女のルーツだけではなく、魂ごとその世界に染まる独自の精神性があったのかもしれない。

 知られざる苦悩の日々を乗り越えて、今この瞬間も進化、成長し続けている彼女はこれから先、一体どこまで我々を翻弄してくれるのだろうか。
二階堂の未来がますます楽しみになってきた。(文/今井良介)
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